修学旅行7 柚葉と雷
部屋に戻ると、いつの間にか敷布団が三つ敷かれていた。
「誰だこれ敷いたの!先生か!?なんで部屋に入れんだよ?」
「旅館の人…だと思う…」
「ふーん、そうなのか!ひゃほー!!」
布団にダイブして柚葉はゴロゴロと横並びの布団の上を転がる。
「楽しそうだね柚葉ちゃん」
笑顔の珊瑚に柚葉も笑う。
「そりゃそーだろ!修学旅行だぞ?たのしーに決まってんじゃん」
「………。」
知らない場所に行って、友達と遊んで、誰だって楽しいに決まってる。明日は自由行動だから行きたい場所に行けるし。野川のヤツが一緒なのは気に食わないけど。
「ロビーにお土産屋さんあったけど、誰か見に行く人いるかな?私家族にお土産買って送ろうと思ってるの」
「あ……、行きたい…」
「藍ちゃんは行くんだね、柚葉ちゃんは?」
「暇だし行くか」
「うん、じゃあ鍵持って出かけよう」
珊瑚に続いてロビーへ向かう。そこそこの人数がお土産コーナーに集まっていてみんな家族や自分へ初めて買える時間を楽しんでいた。藍は家族が多めなので個数の多いおまんじゅうや焼き菓子をメインに、珊瑚は家族用に小さなクッキーセットと自分用にキーホルダーを探している。珊瑚は自分が食べたいものと、家族から頼まれていたお菓子、木刀、よくわからないけど珍しい変な置物を選んでそれぞれ会計を済ませた。
「あ!神井!」
買い物を終えるとロビーで他のクラスの男子と喋っていた神井を見つけ柚葉は駆け寄った。
「ん?ああ駒井か…って、木刀買ったのかよお前」
「いーだろ~!」
「小学生じゃねーんだから」
「…お前も買ってんじゃん」
「俺は武士だから」
「何言ってんだか」
「楠さんたちは?」
「そこにいるじゃん」
「こんばんは」
「うおっ…!!浴衣の楠さんも超良い……!!」
くらりと酔うようなしぐさをしながらデレデレと神井が珊瑚を誉めまくる。
他のクラスの男子はヒューヒューと茶化したりスマホゲーで対戦してたりする。
「うちらもいるんだけどぉ!?」
ジト目でむくれる柚葉に神井は藍と珊瑚の三人を見回して一言
「羽賀さんは着こなしてるよな。どっかの誰かは馬子にも衣裳って所だけど」
「誰のこと言ってんだよ!」
ベシベシと神井を叩くと大げさにイテテと痛がって笑う。ちゃんと褒めて欲しいのに褒めてくれないのがムカつく。
「三股かけるなよ葵天~」
「ズルいぞー俺も女子に囲まれたーい」
「何言ってんだよ、俺は一途だっての!」
「チーム戦やるぞ。神井は入んねえの?」
「まてまてやる!…つーわけで、じゃあね楠さんたち!」
「あ、うん」
「うちもやる!いいでしょ!?」
立ち去ろうとする珊瑚と藍にチャンスとばかりに食いつく。ここで神井と仲良くなれればもっと自分のことを大事にして、見てくれるかもしれない。それに藍と珊瑚相手ではゲームにならない。
「いいけど駒井さん…だっけ?麻雀できんの?」
「できるよ」
「すげー。女子でできる人珍しいじゃん」
「まあ!そんくらいはな!それなんてアプリ?」
「これは……」
別のクラスの神井の友達は優しい。ノリも良いし。他のやつと仲良くしてたら神井がヤキモチやいてくれないかなーと下心が沸いてチラチラ様子をみているが特に何も反応がなくてやっぱりつまんない。でもゲームは楽しかった。負かしてやると尊敬されるし気持ちが良い。爆☆神の仲間もできたし満足だ。
「明日の自由時間お前らどこ行くんだっけ?」
他のクラスの人が神井に聞く。
「んー。タワーとその周辺と…、神社。」
ゲームに目をやったまま神井が聞き捨てならないことを口走る。藍が行かなくていいって言ったのにまだそんなこと言ってるのか。
「違うでしょ。パンケーキだよパンケーキ。神社なしって言ったじゃん」
「言ってないよ。そっちにするって決定してるだろ」
「はぁ?藍が行かなくていいって言ってたじゃん。本人が言ってるのにおかしーじゃん。だいたいうちが先にパンケーキ行きたいって言ったのにいない時に決めたのだってダメだって先生も言ってたのにさぁ!?」
ヤバイことを質問してしまったのだと別のクラスの男子たちはドン引きをしながら神井に、もうそのくらいにしとけと表情で訴えるも神井は口をへの字にしたまま引かなかった。
「お前が勝手にサボったからだろ。それに変更は伝えた。俺らのスケジュールはもうあれから変えてない。」
「なんだそれ…。自分勝手すぎんじゃないの!?」
「自分勝手なのはお前だろ!!!!」
シン……と、あたりが静まり返る。
いつもヘラヘラしてる神井が、こんな怒鳴ったのは初めてだった。
「お前はいっつもそうだ。周りのことなんも見ちゃいねえ。楠さんも羽賀さんも、いつもお前に合わせてくれてんだよ!なんでそんなことも分かんねえんだよお前さぁ。高校生にもなって、自分が自分がって。羽賀さんがなんで神社行きたいか知らないだろ。知ってもお前のことだから自分には関係ないとか言ってきかないだろうから言わなかったけどなぁ!羽賀さん、家族のためにお守り買いたいんだよ。話し合いの時ずっとなんも自分の意見言わない羽賀さんがだぞ?そんなの聞いてやりたいじゃん。」
そんなの初めて聞いた。
確かに、そんなことのためにって。思った、今。
「野川だって行きたい所他にもあったの、やめるって折れてくれたしさ。楠さんも言いにくそうな羽賀さんの代わりに俺らにフォロー入れてくれたりしてんだよ。お前だけ勝手に好きな所行けよって言いたいけど、それじゃ班行動じゃないから危険だって悩んでさぁ。……楠さんたちはお前のこと配慮してお前の予定に合わせる気でいてくれてるけど、俺も野川もそれじゃいけないと思ってんだよ。お前が我慢すりゃ丸く収まるのに駄々ばっかこねて迷惑かけて、ガキかっつの!」
「な、なんだよ…!うちだけ悪者扱いかよ!!」
「俺から見ればそーだね。そうやって怒って自分を通せばみんな従ってくれると思ってんじゃねえぞ」
「お、怒ってるのそっちじゃん!」
「俺はそりゃお前に腹立ってるからな!けどお前のは逆ギレだろ!」
そんなこと言われるなんて思ってもみなかった。仲がいいと思ってたのに。みんな自分のやりたいように勝手にやってるんだとおもっってたのに。合わせてくれてる……???
「じゃあ…もっと強く言えばいいじゃん。ちゃんとみんな自分の意見言わないから……!」
「言ったら言ったで殴りかかるじゃん。そんな奴に本音なんか言えると思うか?それに、班の中では意見出たからこうやってスケジュール決まったんだろ」
「………。」
「言いにくくしてるのはお前の態度のせいだろ」
「か、神井……もうそのくらいでいいだろ…」
「駒井泣いてるじゃん…」
泣きたくないのに涙が止まらなかった。
袖でぐいっと拭ってもまたすぐ落ちてくる。
止まれ、止まれよといくら思ってもあふれ出てくる。
「どうしたの貴方たち!」
「何をしてるんだ」
先生たちが来て、神井が説明した後また柚葉は他のメンバーも含めて説教されることになってしまった。
色々聞いているうちに悲しさと落ち込みが来て野川の言葉も思い出していた。
『そんな我が儘ばっか言ってるからお前神井から相手にされねーんだって。いい加減気づけよな、バカ』
あんなこと言われたけど、神井はあれからも笑っていつも通り接してくれてたから煽られただけだと思ってた。
でも……、あれはきっと本当のことだったんだ。珊瑚がモテて、可愛くて八方美人だからうわべに騙されて神井が興味持ってるから自分のことを向いてくれてないんだと思ってた。
それなのに、自分の性格のせいで…振り向いてもらえてなかった?
今まで男子と仲良くなるのに、女の子らしい趣味なんかもってたら上手くいかなかったから合わせれるよう努力してきたのに。
そういうことじゃなかった………?我慢…?
いつもみんな我慢してきてたって?
ああなんか…、昔も誰かにそんなこと言われた気がする。
涙が止まって、一人自分の部屋に向かう。気持ちはどんより落ち込んでいた。あれだけ楽しみにしてた旅行なのに土砂降りな気分。
結構遅い時間になってしまったけれど、ノックをするとすぐに珊瑚がドアをあけてくれた。