表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/16

修学旅行6 藍と罪悪感

和室の部屋で座布団に座りお茶をすすってようやく一息をつく。部屋の布団を勝手にいじるのも気が引けてとりあえず大の字で寝ている柚葉に自分の上着をかけておいた。このまま眠ってお風呂に行けなかったり夜中寝れなくなっても、今起こすのもどちらも可哀想で悩んでいた。班長会議から帰ってきた珊瑚は忘れ物をしたらしくまたロビーへ行ってしまった。


コンコン


珊瑚が帰ってきたのかと部屋のドアを開けると、思わぬ人物たちが藍を待ち構えていた。

「根津さんたち……どうしたの?」

いつも珊瑚やクラスメイトのことを噂ばかりしている三人組だ。好奇心の目といじわるそうな表情を隠そうとする笑み。

「羽賀さ~ん、ちょっと聞きたいことあるんだけどこっちきて!」

「……う、うん…」

そう言われて断れず廊下に出てロビーとは反対の曲がり角を曲がる。ここでいっか、と三人が詰め寄ってきてちょっと怖い。

「駒井さんと野川くん喧嘩してたじゃん?あれってなんでああなっちゃったの?」

「駒井さんが急に野川くんに殴りかかったんでしょ~??」


「そ、その…。私の…せいで。」


自分のせいでクラスの人や関係ない人にまで迷惑をかけた罪悪感から素直に言うしかなかった。藍のせいだと分かれば柚葉が一方的に殴りかかったという話を緩和できるかもと思ったからだ。


「羽賀さんがなんかしたの?」

「え…っと……。私が…行きたい場所を…言ったから」

「どういうこと??」


一通りできるだけ簡潔に一連の流れを説明すると、嬉しそうに三人が退散していった。クスクス笑いながら走り去っていく姿に不安は覚えるけれど…そこは信じるしかない。


冷や汗をぬぐって部屋に戻ると珊瑚が帰ってきていた。

「藍ちゃん、部屋の鍵開けっ放しで出ていったら危ないよ。出るときは交代しなきゃ…」

「ご、ごめん……」

部屋の鍵は一つしかない。部屋に二人で残っていることから鍵をもっていかず藍に任せていた珊瑚から怒られてしまった。珊瑚は副班長で学級委員長なのもあってルールには少しうるさい。無断で出ていった私が悪いのでぐうの音もでない。

それに…、誤解が解ければと思ったとはいえ自己判断で根津さんたちに質問をされて応えていたというのもなんとなく言いづらい。



「そろそろお風呂交代の時間だから行こう、柚葉ちゃんも起こさなくちゃ」

「うん…」

「柚葉ちゃん、お風呂行こうよ!お風呂!起きて!!」

「ん……ん~~~」

「柚葉…起きて…」

「早く行かないと時間なくなっちゃうよ、柚葉ちゃん!」



揺さぶったり大きい声を出したりしてようやく柚葉を起こす。着替えを用意して徐々に目を覚ます柚葉を先導しながらお風呂へ向かうとちょうどクラスメイトたちが更衣室で脱いで入る所だった。

見知った顔触れの前で裸になるのは恥ずかしく、体育の時以上に周りの目を気にしながら服を脱いでいく。

「恥ずかしいね…」

「うん……」

向こうではスタイルがいいだのおっぱいが大きいだのキャーキャー騒ぐ子たちの声が聞こえて、やっぱりそういうの見ちゃうんだなぁとさらに恥ずかしくなるがこれ以上もたもたしていると短いお風呂の時間が終わってしまいそうで意を決する。いつの間にか全裸になっている柚葉に珊瑚が「女の子なんだからちゃんと隠さないと」とタオルで前を隠させ、大浴場へ進んだ。

これだけの人数をこんなスペースでどう入れば良いんだろうと正直思うようなごったがえし加減で、体と髪を洗い終えて少し浸かったらすぐに出ていく人もいた。


ザブン…、と四十数度の大きなお風呂に肩までつかる。中にまでタオルを浸けるわけにもいかず頭に畳んで乗せてふうっと大きく息を吐く。賑やかでちょっと狭くて落ち着かないけれど、と疲れが流れていくようで心地いい。



ほかほかになった頃には柚葉は上機嫌になっていて、髪の毛をタオルでくしゃくしゃと適当に拭いてコーヒー牛乳を腰に手をあてゴクゴク一気に飲み干した。

「ぷはーーー!!んまい!」

「もう、柚葉ちゃん…ちゃんと髪の毛拭かないと…」

「うるさいなぁ~~…かーちゃんかよ」

まだ毛先からぽたぽた落ちてるのを注意する珊瑚。見かねて藍が柚葉の髪にドライヤーをあて櫛を通す。もう自分ができる範囲ならなんでもフォローしてどうにか喧嘩のない修学旅行でありたい。人をまとめたり叱ることは自分にはできないけれどこのくらいならできる。

このまま穏便に済めばいい。それ以上は求めない。

そう思っていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ