修学旅行5 班長会議
「すっごいな!新幹線!!速いし見たことないもんばっか…あっ!なんだあれ!今のでっかい建物なんだ!?」
向かい合わせにした座席で窓にへばりついて嬉しそうに柚葉が大興奮している。
「車両もいつも乗ってる電車と雰囲気が違うね」
まったりとその光景をみる珊瑚と藍が通路側で向かい合わせに座る。
「…そうだね」
同じ制服を着た生徒たちがいくつかの車両にずらりと座っている。それぞれ仲の良いグループごとで座ってトランプをしたりお喋りをしたり写真を撮ったり眠っていたり様々だ。先生たちから配布されたお弁当を食べる。駅弁というものは普段では味わえない旅のだいご味だろう。
「楠さーん、酔ってたりしない?大丈夫?」
「神井くん。大丈夫だよ、ありがとう」
「へへ…!」
別の場所から様子を見にきてくれた神井に珊瑚はお礼をする。
「神井、お菓子いるか?」
「ん、もらうわ。サンキュな」
少し控えめな柚葉が差し出したスナックに手を伸ばす。そこに野川の姿はなく、二人分手に取って自分の席に戻っていった。
あれから、柚葉と野川はお互いを避けるようになっていた。二人とも頑固なようでどちらから歩み寄りそうな気配はなく、なんとなく他のメンバーも気にしないよう自然にふるまいつつ衝突が起きないようフォローするような状態が続いている。元々柚葉と野川はほとんど直接の接点もなかったのもあり学校ではそこまで問題は起きなかったがこれから二泊すると思うと心配なような、互いに関わる気がないのであれば喧嘩もしないようなで少し緊迫した空気が時折漂っていた。
バスに乗り換え数時間後、学校側が決めていたルートを生徒たちがついてあるく。色々とメガホンで説明をされるもあまり性能もよくないのか周りが喋っていて聞こえないのかどういう場所なのかあまりよくわからないまま前のひとについて歩いてぐるりと施設を一周した。またバスに乗って別の施設を観光して、そのうち暗くなって宿泊する旅館にたどり着いた頃にはもう移動疲れをしていた。
「はぁ~やっと着いた。この後もう寝て良い?」
荷物を置いてすぐに柚葉が畳へ大の字になる。はしゃぎ疲れたようで柚葉には珍しくぐったりしている。
「夕食後はお風呂の時間まで自由だって。お風呂は時間で交代だから…、ゆっくりできそうだよ。私はこれから班長会議にいくけど」
「ふーん」
「藍ちゃんも疲れたでしょ、ゆっくりしたらいいよ」
「……ありがとう」
二人を残し、集合先のロビーへ向かうと班長の神井くんとしおりを持って整列した。
「ふぃー。アイツらギスギスしてっから疲れるね~楠さん」
アイツらというのは、柚葉と野川くんのことだろう。頷きたいが、ここで同意していいのかちょっと戸惑ってしまう。否定するようなかばえる理由を考えて言葉をつなげる。
「うーん…、でも神井くんのおかげで上手くいってるよ。どうもありがとう、神井くん」
「へへ…!!そう?なんでも俺に頼っちゃっていいから!」
気をよくした神井くんがデレっと笑顔になる。珊瑚にはめっぽう弱い人だ。
ふと、周りにいるクラスの誰かのヒソヒソ声が耳に引っかかる。
「楠さんのグループ…やっぱりまだ仲悪いんだね…」
「そりゃ駒井が大暴れしたんだろ?野川と取っ組み合いの喧嘩。」
「うわぁ…ほんと?あの子ヤバイでしょ…」
「あの子わがままだから班の人大変だろうなぁ」
神井くんは全然気づいていないようで他の男子と喋っている。珊瑚は素知らぬ顔で聞こえてくる話にそっと耳を傾けた。神井くんと仲がいいように見えて「あの二人付き合ってるんじゃない?」とかも聞こえてきていたが。柚葉のわがままっぷりは珊瑚だけでなく他の人も感じていたことだったのだと改めて気づいた。自ら誰かとそういう陰口や噂をしないようにとしていたので周りの人の気持ちはこうやって聞くことしかできない。
「神社に行くとか行かないとか騒いでたよね。」
「そうなの?あの子行きたがらなそう~」
「だよね。神社行きたいって言いそうなのって誰だろ…羽賀さんか楠さんっぽいけど」
「ね~。どうなったんだろ」
「班長会議始めるぞー!静かにしないとお前らの休憩時間がなくなるだけだ。先生たちは静かになるまで始めないからな」
いつの間にか先生方が前方で待っていた。その一言で徐々に私語がなくなり、班長会議が始まった。これからの予定の確認と班員にどう指示を出すかの打ち合わせなどが行われた。