修学旅行3 珊瑚と話し合い
子供の頃、両親と旅行に行ったような気がする。
遠い記憶だけれど…思い出すのは両親が喧嘩をしている姿ばかりで。
小学生の頃も中学生の頃も、旅行での記憶はあまりいいものではなかった。
誰と行ってもプライベートの時間がずっとないのは気疲れしてしまいそうで…心配。
今までの私とは違うから、上手くいくかもしれない。そうであってほしい。
「珊瑚!藍も誘ってグループつくろうぜ」
後ろの席からトントンと肩を叩かれすんなり承諾する。クラスメイトの中ではまだ気心も知れている分、安心する。
「うん、いいよ」
その会話を聞いてすぐに斜め後ろの席の神井くんが「俺も一緒にいい?楠さん!」と絡んでくる。
悪い人ではないけれど…ちょっとどう返したらいいか分からなくて困惑していると、「あ、まって。野川も呼ぶわ!!」と返事も待たず野川君を呼びに席を離れていった。
「神井も一緒なの良いじゃん!よし、藍も呼んでくる!」
柚葉もノリノリで藍を呼びに行き、全員がそろうと柚葉が「神井たちも一緒の班に入りたいんだって!いいよな!?」とご満悦に言い、神井くんも嬉しそうで断る理由も見つけられず「みんなで行くの楽しそうだもんね」と合わせた。野川くんとは直接話したことがあまりないけれど神井くんと仲がいいのは知っているし、他に誘えそうな人も自分にはいなかった。
行く場所はそれなりにとんとん拍子で進み、希望が出ればその都度調整していけばすぐに班のスケジュール表は完成しそうだった。幸い神井くんも野川くんも積極的に話をまとめてくれるので自分が進んでまとめずともなんとかなりそうでありがたかった。
別の日も授業時間を使って役割を決める。役割ごとにまた班ができて話し合う。話し合ってはあれこれ決めるを繰り返し少しずつ諸侯までの日数を消化していった。
そんなある日の放課後。「残りは各班で時間見つけて話し合ってください」と先生に言われて数日後。掃除当番もなく一緒に藍と帰っていると。
「珊瑚……その、修学旅行の…行先って…決まってきてる…よね」
「うん、ある程度はできてきたよ」
「そっか……。そうだよね」
藍がそう残念そうにつぶやいた。普段あまり行動をしない藍がそんな質問をしてくるなんて珍しいと珊瑚はその話題に踏み込んでみることにした。
「もしかして、行きたい所できたの?」
「え……っと、……うん…。」
「!」
「あ、でも、今のスケジュール壊したく…ないし」
「まだ確定じゃないもん、言ってみて?もしかしたら組み込めるかも」
「………」
しばし悩み目を泳がせる藍をじっと見守る。言いにくそうにしているのをせかさず待つのは、珊瑚が晴蘭にしてもらったことを思い出してのことだった。
「安穏…神社…。っていうとこが、あって」
「うん」
ちょっと意外なような、そうでもないような。修学旅行ではお寺もいくのだから神社へ行きたい人がいても変なことはないが、珊瑚としては意表をつくリクエストだった
「祖父が病気で……心配なのと、妹が勉強頑張ってる…から…、できればお守りを買いたい…って」
「……そっか…」
藍と家庭の事情は今まで話し合ったことはなかったので、そういう事情なのかと初めて知る。わざわざ旅行にいって自分のためではなく家族のためにお守りを買いたいというのはそれだけ家族仲が良く大事に思っているのだろうというのと、きっと優しいのだと思う。
個人的な事情ではあるが、行きたい場所を話し合ったときのみんなを思い出せば全員自分の行きたい気持ちが出ていたのだから神社に行くのもパンケーキを食べに行くのも有名人に会いたくてお店に行くのはどれも同じだろう。
「わかった。明日の放課後一緒にみんなと話そう?」
「う…うん…。ごめん…」
「なんで謝るの。大丈夫だよきっと!」
このときはまだ知らなかった。これがきっかけでおおごとになってしまうなんて…。