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吐き出したのは
隠そうとして、隠さなくて――。
思い出したくないのに、浮かんできて――。
頰を伝うのはずっと堪えてた涙だ。
この人は、尋ねようとはしてこない。
ただ、俺が落ち着くのを待ってるだけ。
それだけで心は楽だ。
だからこそ、俺は吐き出した。
「クビになった日にさ……」
「うん」
「言われたんだ。仕事は遅いし、ずっときょどってて気持ち悪いって……………」
「そうか。いうのも辛かったよな。話してくれてありがとう」
そう言って、おじさんは俺の背中を撫でてくれる。
それだけで気持ちは幾分か落ち着いてくる。
言いたいのに話したくなくて、言えなかったことを吐き出して、心は少しだけ楽になった。
ありがとうございました。




