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17.孤独

 あれから私は異国の地でとてつもない孤独感に襲われていた。今まで一番大きい存在だった『彼女』と彼女を失ったこと。そしてその現実の中でこの国にいる私は、まさに天涯孤独としか言いようのない存在になってしまった。

 彼女と別れたあと、私はしばらく国立美術館の中をただ呆然としながらさまよっていた。どうしてよいかわからなかったのである。

 ふと気付くと、自分の目の前に大きなゆりの絵があった。力強いタッチで生命力に満ち溢れている。名前を見ると、「ヴィンセント=ヴァン=ゴッホ」と書いてあった、私はなんとなく納得してしまった。

 作品の製作年月を見ると、彼の死ぬ一年前のものであった。この作品からは、その後の彼の狂行も死も想像できない。生きるための躍動感が強く表現されている。

 私もそういえば、さっきまでこんな風に生き生きとしていたような気がする。

 でも今は・・・。

 彼女を失った今は・・・、もう。

 自分の中で時が止まった・・・。

 私はその絵の前で意識を閉ざした。

 それからどれくらいたったのか・・・?

 気がつくと私は夜のダウンタウンを歩いていた。カクテルをもう何杯飲んだだろうか?既にまともにあるけないほどの酩酊状態であった。私は行き場のない思いに潰されないようにただただ耐えるしかなかった。

 やがて、頬を暖かいものが伝わってきた。

 涙だ。一縷の涙・・・。

 私は『彼女』を愛していた。彼女を愛そうと思った。両方ともかけがえのないものであった。

 だけど今私の心に残っているものは、そうであったという事実だけだった。


 翌朝私は荷物をまとめると、足早に空港へと向かった。この街にいると彼女のことを考えてしまい、耐えられない気分になった。愛するが故の苦しみ、それが私を一刻も早くここから立ち去らせたい気持ちにさせていたのだった。

 出国審査を受け、ゲートに着くとようやく気持ちが落ち着いてきた。また明日から仕事をしなければ・・・。今はそのことで全てを忘れようと思った。もう二度とこの地を訪れることはないだろう。いい思い出といいうのはあまりにも悲しすぎる結末であるが、彼女が言っていたように私の人生も時が経てば変わるはず。そうすればこの思い出も自然と昇華していくだろう。私にはそう考えることしかできなかった。

 飛行機は定刻を少し遅れてニューヨークへと飛び立った。上空に達する頃には私は緊張感から解放されて、わずかばかりの眠りに落ちた。

 このひと時がもしかしたら最後の休息だったのかもしれない・・・。


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