#74 消滅
「わかった。なら指揮は俺がとる!」
いつになく頼もしいイグニスと対照的に、か細く不安げな声を上げるダーリャ。
「でも私にうまく制御できるでしょうか……」
ソーアは膝に手を置きダーリャの目線の高さに合わせる。
「大丈夫だ。少し空中に浮かせてくれればいい」
「でも……」
「できる!」
ダーリャの肩にドンッと手を置き目の奥を見る。
瞳が少し大きくなり、反射的に。
「はい!」
そっと微笑みながら頷く。
ソーアは肩から手を外し、キリリとした覚悟の瞳をイグニスに視線を合わせる。
顔の横で銃を構え、頷く。ダーリャに頷いたのとは別の意味で頷いた。――作戦開始。
「ライ! 辺りを照らせ!」
臨戦態勢だったライにイグニスの張りのある声。
すかさず大剣の切っ先を天井に向ける。
カラを集め。切っ先に電気の弾ができる。上に向けて放つ。電気の弾が天井に付く。
黄色の明かりが辺りを覆う。太陽のような眩しい明かり。
「あ゛ー!」
フォックスは両目を押さえ悲鳴を上げている。
やはり、と頭の中で確信に繋がった。暗闇に包まれた時のニュンという音。あれは暗視型に変えた音だったのだ。
ただでさえ眩しい明かりに、暗視型になっているとさらに眩しくなる。
ソーアは地を蹴り敢然と駆け出した。
「シュリ! 訓練を思いだせ!」
†
イグニスの聞いたことのない張りのある声。
電気の弾が辺りを照らすまで数秒。連携力の凄さに驚いているとソーアの追い詰められた声が響きわたる。
「シュリ! 訓練を思いだせ!」
記憶が思い出される。ソーアとシュリの二人でイグニスの訓練をしているときだった。
自分の身長より大きい標的には脚から崩せと。
「お前を殺す!」
鮮烈な朱色のカラ。火花を散らし、抜刀。
シュリも駆け出した。
†
「お前を殺す!」
ロボット、その奥に鬼のような形相で走ってくるシュリの姿。
身も蓋もない純粋な怒りのぶつけようにソーアの中でもふつふつと怒りが再燃してきた。シエルの。
必死に涙を押し殺し、叫ぶ。
「殺す!」
『両者の脳内電波信号確認
共有の絆シェアタイズシステム起動
任務成功確率九パーセント
本当に行いますか?』
二人のペンダントが淡く光る。謎の声。
ソーアの目は朱色に、シュリの目は蒼く光り輝やいた。
「ああ」
何を根拠に確率を出しているのか分からないが、たとえパーセントがゼロでも走るのを止めないだろう。
瞬間、身体は羽が生えたかのように軽やかに、神速の速さで駆ける。
「ヴォー!」
一本、二本、三本、四本と全ての脚を関節から焼き切る。
ガクッと崩れ落ちるロボット。
必死の抵抗と言わんばかりに機関銃を撃ち続ける。
シェアタイズに強化されたソーアはいとも簡単に弾丸を避け続ける。
絶好の場所でダーリャは風のカラで体を持ち上げてくれた。
ダーリャが心配していた高さの問題もジャストの位置だ。
銃口をコクピットに向ける。
ガラス越しに見えたフォックスの恐怖に満ちた顔。
「クッ……」
ソーアの頬を一筋の涙がこぼれ落ちる。
シエルの復讐をできず、敵に同情してしまう己の無力さに。
スンと鼻をすすり銃身に水のカラを込める。
「……終わりだ」
ソーアはトリガーを引いた。
亀裂の入ったガラスの両端から水が一気に入りだす。
内側からの水圧で押し出す――つもりだった。
「残念だったな」
ビリッ――青黒い電流が迸った後、フォックスのコクピットが丸々消えていた。




