#71 思い通り
「ソーアくんあれはなんや?」
ソーア達の影をさらに大きい影が覆う。
戦慄するソーアに震える声色でアマランスが訊く。
「ロボット……ですね」
ソーアも言うのに少し戸惑った。
なぜなら街でみたロボットとは型がまるっきり変わっていたからだ。
ロボットの脚部となる部分は二本脚から四本脚になり。
胴となる部分には、黒光りするマシンガンが二ついていることには変わらないが、肩の部分には何かが入っていると思われる四角い箱がある。
頭となる操縦席は一人になり、上に狙撃手が乗れるようなスペースはない。
ガラスで囲まれた操縦席にフォックスがいつの間にかそこに座っている。
数瞬、あぜんとロボットを眺めていたソーアはマシンガンが回りだす特徴的な音に我にかえる。
「みんな! 早く柱に隠れてっ!」
ソーアの叫びと共にマシンガンの弾丸が発射される。
間一髪で弾丸を回避して柱に隠れる。
だが、アマランス、シュリとは別々になってしまった。
ソーアと一緒の柱に隠れているのはダーリャ、ライ、イグニスだ。
マシンガンの連射が止まると今度はフォックスの声がきこえてきた。
「ははッ! そんなもので隠れたつもり!」
スピーカーから音質の悪い嘲笑した声がきこえる。
「どうします?」
ソーアは壁に背をつける。
「スイキには話しかけられないのか?」
「ライさん、それがさっきから話しかけているんですけど……」
長い階段を降りているときからスイキには話しかけていた。
「力が湧いてこないとか言って出てきてくれないんです」
最近、いつもの食事の量をとっても満腹にならなかった。
鬼化しているのが原因だろうが、それを認めたくなくてわざとあまり食事を取るのを渋っていたのが裏目に出たみたいだ。
「そうか……」
ライは嘆息混じりに俯く。
『ソーアが右腕を俺にくれたら話は別なんだけどなぁ』
スイキがほのめかす。
目を見開くとソーアは目を瞑る。
『本当か? そしたらここにいるみんなを助けられるのか?』
『ああ。約束するよ』
『よし』
ソーアは決然と目を開くと、左手を右手に持っていく。
漆黒に塗りつぶされた鬼の左手で右腕を掴む。
あの時は痛みを感じなかったが大丈夫かな?
ソーアがギュッと目を閉じる。と同時に左手に力を入れ、右手を引き抜く――前にイグニスがソーアの手を掴んだ。
「ダメだよ〜。それ以上やったら自分じゃなくなっちゃう」
「でも! 僕がやらないとみんな――」
ソーアは「クッ」と奥歯を噛み締める。
「だからやります。人を、家族を守ることが僕の使命ですから!」
左手に力を入れようとする。
だが、その左手をイグニスはいとも簡単に引き剥がした。
「ダメだっ!」
「どうしてっ!」
初めて見るイグニスの怒った姿に驚きを必死に抑え、半ばムキになってソーアも勢いに訊き返す。
「それはっ! …………人としてダメだろ……」
少し考えた後に俯き加減に出した答えは説得力があるとはいえなかった。
もう完全な人ではないってのに……
「そうだよ。自分を犠牲にするのは良くないよ。……なっ? ダーリャ」
ライの突然なふりにダーリャはあたふたすると「……はい」と小さくうなずいた。
「……わかりました」
その言葉を聞くとやっとイグニスはソーアの左手から自分の手を離した。
ほんのりと左手には痛みが残っていた。
なんとかフォックスをロボットから引きずり出したいな……
ソーアは柱に背中をつけロボットをうかがおうと頭を少し出す――と同時にマシンガンの銃声が鳴り響く。
柱に銃弾が当たる激しい音はソーア達の精神を削り落としていく。
「そろそろ本気出しちゃおっかな!」
フォックスの声の後に、何かのふたが開くような機械音がした。
炸裂音と共にミサイルが飛び出した。柱に命中したミサイルは爆音をあげ、柱をえぐる。
くっそ! これならすぐに突破される! 何か……打開策はないのか……
「ライ!」
緊迫したアマランスの声が耳に飛び込んできた。
ソーアは別の柱にいるアマランスとシュリの方を見る。
これまでにない敢然とした顔。その表情からソーアは容易に想像できた――おとり作戦。
ライがおとりとなり、背後からアマランスがロボットを破滅させる。
ライも額に汗を浮かべ覚悟した顔でしっかりとうなずく。
頃合を見計らい、柱から飛びだした。
「フォックス!」
「とうとう出てきたか!」
フォックスのがなりたてる声に反応するかのように機銃の銃声が辺りに轟き響く。
ライは神がかった動きで弾丸を避け、駆けていく。ギリギリのところで対面にあったもう一本の柱に足から滑り込んだ。
ロボットはアマランスに背後を見せる形で止まった。
全てが思い通りになったこの瞬間――アマランスは破滅弾を放った。




