#66 絶望
「行くぞ」
ソーアが乗ったことを確認するとシエルはグリフォンを加速させた。
近くに隠れていたので子供達がとらわれている場所はすぐそこだ。
ソーアはさっきの雷のことを背中越しのシエルに聞いた。
「あの落雷何があったんですか」
「おい、まだわからねぇのか? あっちはライのいる方だろ」
ライ。それは雷のカラを使う騎士。
ソーアに一つの考えたくないことが浮かぶ。
「まさか……作戦に失敗したって言うことですか?」
「そうとしか考えられない。あそこで落雷を発生させることができるのはライだけだ」
シエルは続ける。
「ロボットが見えたぞ。ソーア! 先に操縦しているやつを殺れ」
幸いまだバレていない。
僕は今まで逃げてきた。人を殺すことから。大会の時だってシュリが二人とも殺してくれた。
だが、こんな人を無惨に殺し、幼い子供達を捕らえる。その上、アマランスの弟までも殺した。
そんな奴らなんか――生きている価値なんかあるのだろうか。
「ふぅ〜」
ソーアは目を閉じ、深呼吸をした。硝煙と血の匂い。悲しみを胸に吸い込んで――
「了解」
海の底よりも深い低い声で決意の声を上げる。
ロボットに照準を合わせ、スコープを覗く。
「カラ来てくれ」
ソーアの手を伝い、狙撃銃にカラが流れ込む。水のカラがまとう。
無言で引き金を引いた。
――ダンッという重い発砲音。同時に反動が腕を伝ってくる。ソーアはビクンと身体を震わせた。
「おい、ソーアやったのか?」
前からシエルが訊いてくる。
ソーアは無言でスコープを覗く。
血が窓ガラスに張り付いている。操縦席に座る男は動かない。上にいる狙撃手も何が起こったのか理解していない様子であたふたしている。
「はい」
ソーアは覗きながら冷淡に告げる。
シエルは、
「よし。じゃあ狙撃手もッ――」
――ピシャ。なにかの液体がソーアの頬についた。
「ん? なんだ?」
歯切れの悪さと頬に違和感を感じる。ソーアはスコープから顔を上げシエルの方を見る。
「何か飛んできたんですけど…………」
シエルは右から左へ身体を傾けていく。ソーアは明らかな違和感に硬直する。
「ちょっ……!」
遅かった――ソーアが差し伸べた手は少しのところで届かず、シエルは力なくグリフォンから落下していった。
その身体は動物――人間ではない。それは魂のないただの亡骸だった。
あの時と同じだ。あの父親が倒れていくあの時。
ソーアの眼には全てがスローモーションに見えた。
グリフォンは微動だにしない。きっとそういう時の訓練もされているのだろう。
いつも、戦場におもむくのだから。
ソーアは頬に触れる。何かが手に付着する。
その手を確認する。
それは赤黒く生きていたことを象徴する血だった。
シエルは狙撃されたのだ。
「…………あぁ」
父親が撃たれた時、シュリが動揺していたから自分を客観的に見て冷静に判断できた…………
だが……今回は抑えられない。
ソーアはキッと唇を噛み締めた。頬を一筋の涙が伝っていく。それが涙腺を切った刃物となった。
「――あああああぁぁぁぁ!」
涙が滝の如く流れていく。
ソーアはスコープを覗く。ロボットに連射する。
――ダダダダダダダッ。気が動転しているソーアには何も考えられない。
瞬間――ロボットが爆発し、天にまで昇る火柱が上がる。
だが、そんなもの関係ない。
銃弾が子供達の袋をかすり、破ける。子供達がそこから雪崩のように這い出し、逃げ回る。
子供達を認めた瞬間ソーアは我に返り作戦を思い出した。
「子供達の救出……」
かすれた声で呟くと、グリフォンを三回叩いた。




