#60 風のカラ
ゴーストの面会から一週間が経過したその日はちょうどダーリャが退院し本格的にチームに参加できる日だった。
もちろん、ゴーストの一件のことはダーリャを含むチームの全員に共有されていた。
「ダーリャちゃんお帰り〜」
昼下がり。いつもの訓練している庭にライに連れられてダーリャは現れた。
背が相変わらず低い。その小さな身体にすがりつくようにアマランスは抱きつく。
ゴーストの件が共有されてはいたが、ソーアは会うのは初めてである。
アマランスが離れたタイミングで近づいた。挨拶は早めにしておいて損は無いからね。
「こんにちは。ダーリャさん。ソーアといいます」
ソーアは笑顔でさっと右手を出すと、少し目を丸くすると勢いよく頭を下げた。
「ごめんなさい。私、操られていたとはいえ襲っちゃって」
「いやいや。そのことなら僕も悪かったよ。君を水で襲って」
「そうなんですか? 一切その辺の記憶は無くて……あとでライさんに聞いた話でしか知らないので……」
操られていた時の記憶は全く無いんだな。これは新しいヒントになったな。
「私はソーアの双子の姉のシュリ。よろしく」
「あー! シュリさんですか。ライさんから聞いてます。強いけどバッ……な、なんでもないです!」
慌てて言葉を切ったダーリャはあたふたすると、助け舟を求めるようにライを見ると楽しそうに笑っていた。
「バ、なに?」
小首を傾げながらダーリャに訊き返すと、
「バッ、バッ、バッチリ仕事をこなすっ! ていうことですよ」
視線を空中にさまよわせた後しっくりきたのか焦り気味にシュリに言った。
「なるほどね〜」
バ、の後に続く言葉を知ったらキレるだろう。なにせ『バカ』っていってたのだろうからな。
数分後、イグニスとシエルも合流した。
「よし。じゃあリハビリも兼ねて、ダーリャちゃん。あの箱を浮かしてみよ」
いつものゴミ置き場に木の箱が下に二つその上に一つ積んでいる状態。合計三つ置いてあった。
「あのぐらいなら……」
ダーリャは短剣にカラを込める。銀色のカラが短剣を巡る。
「はっ!」
と発声したと同時に短剣を横振り。
だが一番上の箱が少し震えたぐらいで浮く以前に到底持ち上がるとはおもえなかった。
それを見かねたシエルが提案をした。
「おい。ダーリャは短剣に向いてないんじゃないか? 銃とかにした方が――」
「そんなことないよ。絶対に短剣であっている」
割り込んできたソーアにシエルは顔をしかめる。
「どうしてだよ?」
「だって、僕と戦った時この本部の半分くらいを飲み込むような竜巻を作ったんだ」
場の全員が目を見開いた。
「それは本当なん?」
アマランスは信じられないと言った目だ。この感じだとあまりカラを上手く使えていなかったのだろう。
驚きで絶句しているダーリャ。
「それに大会に乱入してきた時、風の力で浮いていただろ?」
「あっ! そういえばそうやったな」
「自信がついただろ。後は自分の自信だけだ」
とニッコリ笑いながら、背中を押す。
「もう一度やってみます!」
ダーリャは大きく息を吸って深呼吸すると、短剣にカラを込める。
そして、横振り。
さっきとは比べものにならないほど綺麗なフォーム。
箱は三つとも持ち上がり、それどころ小さいが竜巻が一つ現れた。
「うお! すごいじゃん」
アマランスはぴょんぴょん飛び跳ねながら、ダーリャに飛びついた。
「うぐぅ……苦しい……」
苦しそうな顔をしながらも嬉しみに満ちた顔をしていた。
「すげぇ。すげぇ!」
「おい。マジかよ……」
「こんなことができるなんてね〜」
シュリ、シエル、イグニスとそれぞれ感嘆の声を漏らした。
ライに至っては嬉しみに瞳をうるおわせていた。
「ごめんごめんつい……」
アマランスがやっと離れると、ダーリャはニカッと百点満点の笑顔で、
「ソーアさんありがとうございます」




