#56 信用しても良さそうな目をしていた
刺さるような風が頬を吹き抜けていく。
ソーアは今、派手な音をたてるライのグリフォンの後ろに乗っている。
シュリはアマランスの後ろに乗り、ライのグリフォンについてきている。
ソーアは自分の左手を見つめ、目を瞑る。
『なあ、スイキ』
『ん? なに』
『お前って、ほかの人の記憶を見たりとかそんな便利なことでき……るわけないよなごめんなに考えてるんだろ……』
『おい! 勝手に決めつけるな』
『じゃあできるのか?』
『その人に近づいて額に触ることができるなら、乗っ取ることはできる。だが、その人がどうなっても知らないけどね』
クックックと意味ありげに含み笑いをする。
『なんだそれ。まさか食べたりしないよな?』
『まさか。あんなの食えたもんじゃないよ』
『どうして今になってそんなことを? 僕をはめようとしてるんじゃないのか? 僕の隙ができた瞬間に……』
『もちろん人間のニクは食べたいが、あんな奴ら食べた後砂になるだろ絶対口の中、腹の中がジャリジャリになるのがオチだ』
なるほど、確かにそうだ。
『今度またニクをいっぱい食べてやるから。なぜ砂になるのかの調査もよろしく』
『また人間以外のニクかよ。ないよりはマシだが……』
『人肉は死んでも食いたくないね』
†
ものの数分でついてしまった。この巨大刑務所に。
はるか高くにそびえる灰色の壁。中央に、がっしりと構える門構えは脱獄しようとたくらむ人も気力を失うだろう。
「うぇ。刑務所になんか一生入りたくなかった」
シュリがいかにも嫌そうに顔を歪め、両手を胸の前でクロスし、反対側の腕をさする。
「そんなに嫌か?」
「嫌に決まってるだろ。臭そうだし……」
「刑務官の人に怒られるぞ……」
「こっちだ」
ライに刑務所の中で特に極悪人が収監されているという地下に連れてこられた。
事務机があるだけの小さくて質素な部屋。部屋には、ソーアとシュリ、ライの三人が入っている。
アマランスはここの刑務官の数人とマジックミラー越しにこの部屋を見ようとスタンバイしている。
壁の上の方に小さな鉄格子があり、冷たい風が時折吹いてくる。
「ライさん」
「ん?」
「ゴーストのこと僕に任せてくれませんか?」
「もとからそのつもりだが……どうかしたのか?」
黒鬼の手に目を落とすと、すぐに顔を上げた。
「このスイキがゴーストの女性を乗っ取ることができるらしいです」
「あー確かソーアの鬼か……そんなことできるのか?」
「できるよ」
ニュルリとソーアの身体から出て、「よっと」何ごともないように硬い石の地面に軽く着地した。
瞬間、ライは目を見開き、シュリは「うおおおっ!……」と後ずさる。
マジックミラーの向こうも驚きの声が上がってるだろう。
ライはブルブルと頭を振り、冷静になる。
「本当にこいつは信用できるのか?」
鬼なんか信用できないが、ゴーストが何をしようとしていたのかは非常に気になる。
ソーアの目を真っすぐに見据える。
「ああ。絶対に」
どこから自信がわいてくるのかはわからないが、信用しても良さそうな目をしていた。




