#52 女王
「あー疲れた」
シュリは控え室のソファーにどっと勢いよく、身を任せる。
数百人の注目の的にいることは思った以上に緊張した。
有名人はよくこんなことできるなと、身をもって感じた。
ソーアもシュリの前のソファーに力なくヘナヘナと座り込んだ。
「二人ともお疲れさま」
控え室の扉を開けるなり、アマランスは即座に言った。
その後ろに、イグニス、ライ、と続く。
「はあ〜い」
手を上に上げ、酔っ払いの人並みに伸ばしたシュリの返事。
人が大勢いるところは、僕の方が苦手なのに、これはシュリの方が疲れてるな……
目を閉じ、だらしなく座るシュリに苦笑する。
ボッボッボッボッと廊下のカーペットを走る音が聞こえる。
段々と近づいてくると思ったら、いきなり扉が開けられた。
誰だと思ってソファーに座りながら、後ろを振り向くと汗だくのシエルがそこにいた。
相当走ってきたのだろう。息遣いが荒い。
「シエル! もう大丈夫〜?」
一瞬、驚いた顔をしたイグニスだったが、すぐにいつもの調子に戻り、煽り口調へと変貌する。
「おい! もう掘り返すな」
刃物より鋭い目でキッと睨みつける。
プライドが高すぎる故に、ソーアの服装を見て、自分に重ねてしまい気絶したのだと。
そんなことで気絶するのかと疑わしいが、聞いても絶対に無視するに決まってる。
そうこうしている間に部屋の扉がノックされた。
開けるとそこにはさっきの執事が立っていた。
「女王様があなた達に話がしたいと」
「え? 私もですか?」
きょとんとしながら自分に指をさすアマランスに執事はゆっくりとうなずく。
「ここー……ですか?」
アマランスに「はい」とうなずく執事。
失礼だと思うが……トイレがありそうな角部屋に女王の部屋があるのか?
ソーアはあまりにも信じ難かった。
百メートルはあるのではないかというほどの宮殿の一番使い勝手の悪そうな角部屋。どこでも好きな部屋をもらっていいとなってもこの部屋はまず却下だろう。
執事が三回ノックする。
「皆様をお連れしました」
「はい」
声から温かみが漏れている。
執事が扉を押し開ける。
するとそこには冠が外された普通のおばあさんがソファーに腰掛けてこちらを見ていた。
苦笑いしながら、
「こんにちは。ごめんなさいね。角部屋で。私、狭いところが好きだから」
確かにそういう面では打ってつけかもしれない。
たまにベットと壁の間に挟まりたいあの感じだろうか……あの閉塞感が絶妙にいい。
「いえいえ。良いお部屋ですね」
ソーアはギョッとシエルに振り向くと鋭い目つきで睨まれた。
まさかこんな綺麗な言葉が使えるなんて思いもよらなかった。
窓辺に飾られた花は、より一層部屋を春の温かみへと誘う。
誘われるがままに、部屋に入る。
全員入り終えると、執事が一礼。音を立てないように細心の注意をはらい扉を閉めた。




