#47 鬼の本体
……ーア……ソーア…………
「はっ!」
ダーリャの事件から一日後の夜。
横には疲れでぐっすりのシュリが、ゆっくり寝息を立てていた。
大会のあとすぐに助けに来てくれたシュリにあとでお礼しないと。
で、なんだよスイキ。
疲れ切った僕をこんな真夜中に叩き起こしたということはさぞ重要なことがあるのだろう。
お前は俺の姿を見たくないか?
なんだそんなこと…………
「えーーーー!!」
慌てて口を塞ぐ。幸いまだ横で寝息は聞こえている。ここで起こしてしまったらこの後どうなるものかわかったもんじゃない。
一度、深呼吸をする。想像の百倍以上軽く超えている。
ていうか、本体があったのかよ。
まあ、無理もないな。お前たち風にいうと取り憑いている。といった感じだな。
いい気はしないな。いつから僕に取り憑いていたんだ?
…………そういわれてみれば…………いつだっけ?
おいっ! 最初に気づいたのは大会の時か?
それはそうだが……あれ……全然思い出せない。あ〜もうくそ! もう出てやる!
ソーアの右半身から、真っ黒な何かが顔を表した。
明るい黒の髪、幼さ全開のの顔はいつも暴言を発しているとは思えない程だ。だが、額から二本生えている黒いツノは本当に鬼なのだと再認識させられた。
目の前にちょこんと座ると、
「やあ」
右手を上げて家に遊びにきた友達のような態度だ。
「いやいや、『やあ』じゃないよ。でも意外と子供なんだな」
わざとバカにしたように笑ってみると……当然の反応というべきか、ぎゃーぎゃー言ってきた。まだまだ子供なのだと確信した。
「もう怒ったかんな! 許さないかんな! シュリを食べ――」
――刹那、鬼化した左手で、スイキの首を掴み上げた。憤慨している眼は、どんな刃物よりも鋭い。眼に凝縮された殺気と一言も発さない無言の圧力がスイキの心を恐怖が蝕む。
ギブアップと言わんばかりにソーアの手を二回たたく。
上に挙げられたまま、落とされ、ドスンと鈍い音が部屋にこだました。
「……シュリには触れるな……」
「君たちはなんでそんなに触れられたくないんだ?」
「さぁな。もう家族が失われたくないということが僕たちは過剰になっているのかもしれない」
闇夜に輝く月を窓から見ながら呟く。
「その気持ち。なんだか俺にもわかる気がするよ」
「嘘つけ。ニクのことしか考えていないお子様には分からないよ」
「そうかもしれないね」
窓越しに反射するソーアの顔がきょとんとした顔になった後、フッと鼻で笑った。
「今日は素直じゃないか」
「反省したんだ」
横で布が擦れる音でビクンと身体を震わせ、シュリの方をおそるおそる見ると、
「むにゃむにゃ……もう食べられないよ……」
一瞬起きたかと思ったがただの寝言だった。こんなに喋っているのにシュリはまだ起きないらしい。
「スイキ。たぶんニク、食べてるぞ」
「ニック!」
「誰の名前だ?」




