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#46 まるで今までの出来事が全て、夢であったかのように……

「どこにいるかわかるか」


 土のような湿気った匂いがする暗い道を走りながら、イグニスに話しかける。


 「たぶんね〜ちょっと急ぐよ」


 いうや否や、刀を抜刀。刀に火のカラを込める。イグニスの刀の中を紅蓮の色をしたカラが、通って行くのが見て取れる。

 ――瞬間、ミサイルの如く、駆けていった。

 ライも負けてられないと大剣にカラを込める。大剣の中を金色の雷のカラが満ちて行った。それを境に、稲妻の如く疾駆。

 誰かが見ていたら、稲妻のような、残像が見えていただろう。

 

 イグニスに追いつくと、二人の足音以外の別の足音が聞こえてきた。逃げ出した彼女のだろう。


 「彼女。早くないか?」

 「近道でもあるのかもね〜」

 「ふぅ〜ん」


 その考えはさっき思い浮かんだが、こんな土臭いところで近道があるとはとても思えなかった。


 「おっ背中が見えたよ〜」

 「本当だ……あ?」


 ライが瞬きした瞬間、前を逃げていた女性は悲鳴を上げていた。


 「きゃーー!」

 「ライ〜捕まえたよ〜!」


 呑気な声が廊下の先から聞こえた。


 「う……うん」


 ライは少し引いてしまった。その呑気さに引いたのは違わないが、何よりもあの感覚。

 瞬きするだけで、消えてしまうようなスピード。あの時に感じた感覚に酷似していたことに何よりも戦慄した。


 「なに固まってるの〜?」


 不思議そうな目をしているイグニスの顔に気付く。驚きをなんとか押し殺す。


 「いや、なんでもない。連行だ」


 いつのまにか彼女の手はイグニスが作った火のカラの赤い手錠で繋がれていた。

 彼女を立たせ、連行しようとすると……

 突然、地鳴りがした。


 「なんだこれは?」

 「あーもうやばいな」

 「早く逃げるぞ!」


 血の気が引いた顔のイグニスがライ達を急かせる。会ってまもないライにはわからないがここまで焦った姿を見るのは一年に一回あるか、ないかだろう。

 

 「こっちだ!」


 言われた道を走っていると、すぐにシエルが気絶した場所に帰ってきた。

 これが例の近道なのだろうか。

 まだ続いている地鳴りでシエルは目覚めていたようだ。


 「おい、なんだかわからねえが早く出るぞ!」


 上に登る階段の扉をあけ放ち、待ち構えていた。

 そのままシエルと階段を駆け上る。

 

 「アマ! 大丈夫か」

 

 ひょっこりと頭を出すシエルに助けを求める眼を向ける。

 シエルはすぐに理解する。


 「私は大丈夫やけどシュリが……」


 ソーアに寄りかかり、ブルブル震えている身体を必死におさえようとしている。

 家がゴーストに襲われた時。地震が発生したことがきっかけで、トラウマになったのだった。


 「早く行かないと!」


 いつも焦らないイグニスの焦りが場の空気を伝染させ、さらに焦らせる。

 小声で何か言っているがなにを言っているのか聞き取れない。

 

 「くっそ! ダーリャは俺がかついで行く。お前は、シュリを背負ってこい」

 「ダーリャは女の子やで。そんなこと……」

 「じゃあここで殺して行くのか?」

  

 冷徹と焦りが入り混じった眼でアマランスを貫く。


 「手段を選んでる暇なんてないだろ」


 イグニスはダーリャをかつぎあげる。

 それと同時になんとか、シュリを背負ったソーアはイグニスを一瞥すると、うなずいた。

 

 「この階段を登ったらゴールだ」


 辺りは呼吸音しか聞こえない。みんなが全力で走りまくったからだ。

 ――五秒後。耳をつんざく音が横をかすめる。

 とっさに、目をギュッとつぶり、両耳を塞ぐ。ゼロ距離で電車が走っているようだ。

 やっと音が過ぎ去り。ソーアが階段を覗くと……驚かずにはいられなかった。


 

 「嘘だろ…………」

 「おいソーア。なに突っ立って――」


 シエルの目も見開かれた。

 文字通りそこにはなにもなかった。茶色の土が敷き詰められているだけ。



 まるで、今までの出来事が全て、夢であったかのように……

 



 



 


 


 

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