#45 逃走
「じゃあ、イグニス、ライ行くぞ」
脇を閉じ、銃口を上に向けた状態で、顔の横でシエル愛用の拳銃を構える。
「いつでも、準備オッケーだよ〜」
ニコニコした顔で手をひらひら振るイグニスを一瞥すると、肩をすくめたシエルを見て、
「えっ? なになに〜」
もはや面倒臭いといった感じで無視をした。
「じゃあ、すまないがアマ。その子らをよろしく」
「あー任せといて」
アマランスは親指をピンと立てた、きっとライたちにとって心強かっただろう。
「では、行くぞ」
シエルの号令で、三人は忍者のように素早く、流れるように入って行った。
音を殺して階段を駆けおりる。おりてみると、目の前には白い扉。明らかに今までの扉とは雰囲気が違った。
重厚感があるその扉は、三人の気を、一層引き締めたのだった。
取手に手をかけ、恐るおそる扉を開ける――前に、頭上から、女性の声が聞こえた。
「あ〜もう勝手に入ってきていいから」
シエルはとっさに拳銃を上に向ける。
どこにも人影はない。というか、普通に考えてあるわけがない。ジャンプしたら、すぐに頭が当たるようなところに人なんているわけがない。
だが、女性のダルそうな声は、確実に頭上からきこえた。
イグニスがパッと指差して、
「あれ〜? じゃないか?」
指の先には四角い筒の真ん中に、赤い点がひっきりなしに点滅する謎の物体があった。
「声はお前か化け物」
拳銃の照準を変な物体に合わせる。
「あーも、そういうのいい――」
――バシュン。シエルの弾丸が謎の物体に直撃。
謎の物体は、いとも簡単に火花を散らして、死んだ。
「よし、死んだぞ。犯罪集団だからってこんな変な生物を作っていたとはな。じゃあ行くぞ」
扉を開けると、机の前のイスにすわり、足を組んでいる背中姿の女性が長細い四角の板を眺めていた。
白のローブをきている。それにフードを被っていない。能力者だ。
「あ〜あスピーカー付き、監視カメラ特注で付けてもらったのに……」
「おい! なにわけわかんないこと言ってるんだ! 手を挙げてイスからゆっくり立って、床にひざまずけ」
「はいはい」
長細い四角の板を机に置き、両手を上げながら、ゆっくり後ろを向いた。
「「「あっ……」」」
全員考えていることは同じのようだ。
鮮麗な白髪を地面につくかつかないかのギリギリのラインをたもち、全て下に垂らしている。
大人の女性というのだろうかゆったりとした感じが、魅力に思えた。
可愛いというより、美しいと言った表現がピッタシだろう。
だが、その眼の奥には考えていることが全くわからない。そんな怖さをはらんでいた。
シエルはブルブルと顔を振ると、また、銃を構え直した。
「きこえなかったのか? 床にひざまずけと言っているんだ」
「レディにそんなことさせる気?」
「んっ…………わかった……」
普段、規則に厳しいシエルがすんなり了承するとは……
「じゃあ後ろを向け」
拳銃の銃口に指を置き、ゆっくり引くと、水のカラで作られた手錠が出来上がった。
「手を後ろに持って――」
刹那――女性は机に、手をつくと、そこを重心に両足でシエルの顎を蹴り上げた。フォームは完全にグリフォン同士が後ろ足で喧嘩するときのそれ。
蹴り上げるや否や、机を乗り越えて、別のドアを勢い良くあけ、逃走。ソーアたちのいた地上の世界で例えるのならば、まるで、すばしっこいキツネのようだった。
「ライさん。追っかけるよ〜」
呆気に取られていたライに、気楽なイグニスの声で我に帰った。
こんな時も覇気のない声でやっていて、この仕事に向いていないんじゃないかと思うが、呆気に取られている時点で自分の方が向いていないのかもしれない……仲間さえ守れなかったのだから…………
「よし、早く追うぞ!」
自らの頬をパチンと叩き、走り出した。




