#041 刃の向こう側にいる少女
「この剣はもう使い物にならないな」
刃がこぼれ落ちたソーアの剣を眺める。
光に鈍く反射する剣を放り捨て、乾いた音が廊下に響く。
代わりに男が持っていた剣を拾い上げる。
ゴーストの血がベットリ付着した剣を拾い上げる。
イグニスがシュリに刀に血がついた時の血振りのしかたを教えているのを横目で見たことがある。
ミロワール達を切ったときのシュリの血振りもその型だった。
見よう見まねでやってみると、意外と難しい。三回ぶんぶん風を切るとやっと血が取れた。
きれいになったことを確認すると銀の筒に刃を納めた。
さぁどこに行くんだ。
頭の中でスイキが話しかける。
ん? 僕の頭の中覗いたら良いじゃないか。
なんかルール違反的な感じがしないか? ぷらいばしー? っていうんだっけ。
そんなところはちゃんとしてるんだね。
そ、そんなところってなんだよ! 俺はいつもちゃんとして…………いるぞ……
自信全然ないじゃねえか、階段を上るんだよ。
なんで階段に登るんだ?
さっきのゴースト。一瞬、目が階段に向けられただろ。だから、あっちに隠したいものがあるんだよ。それが出口だったらそれで問題ないし、何かが有ればさらに良い。進むことには変わりないんだし階段を登ってみようっていう寸法だ。
なるほどね、その理論はよく分かんないけど、お前の体にいる以上俺はついて行くしかないんだよ。
カンカン鳴り響く階段を上り終えるとそこには、扉があった。
軋む扉を押し開けると、だだっ広い用途のわからない空間があった。
謎の風に思わず目を細める。
ここは、室内だぞ。なんで風が吹いているんだ?
疑問に答えるかの様に頭上から声が降ってきた。
「なんだ、あいつを殺してきたのか」
「よっ」と上から降りてきたのはあの狐の面をつけた銀髪の少女。相変わらず僕よりも小さい。可憐な声な声の割に冷酷なことを言う。
ソーアは苦笑した。
「僕がここに来ることをわかっていたのか」
「当たり前だ。監視カメラで見ていたからな」
一体この何もない空間でどこに監視カメラを見る場所があるのだろうか。
「教えてくれないと思うが、出口はどこだ?」
「ははっそんなこというわけないだろ」
一ミリも面白くなさそうな乾いた声で笑った。
「誰の命令だ?」
「ん?」
「誰に言われて僕をさらったんだ?」
「私は自分の意思で……」
ここだ。ここでたたみかけてボロを出さす。アルブムの情報は多くあって損はない。いつか必ず潰すためにも。
この少女は絶対に風のカラの持ち主。今までの技と、銀髪の髪色から見て明らかだ。
実力は僕と同じ。いや闘技場のこともある。上だと考えた方がいいだろう。
慎重にことを進めなければ。
「お前、絶対にここの長じゃないよな」
「そ、そんな事はないっ!」
銀髪の少女は強く否定した。
そんな事はある。ソーアはこの反応で確信した。ここの場所にいる中で一番強いのはこの少女だろう。だが、こいつは長じゃない。
誰かをかばってる。それとも……
仮面の上からでも、少女が不快な顔をしているのが見えていなくても手に取るようにわかる。
「アルブムの本拠地は――」
「ソーア。もう黙っててくれないか」
海底よりも低い声で、少女は唸る。
今すぐにでも殺さんとばかりの向いた目。
人を、いやたとえライオンでも怯むような目。威嚇には十分すぎる。それに仮面の上からなので一層恐ろしさを増す。
もちろんソーアも例外ではなかった。だが、ここで引き下がる訳にはいかない。
「わか――」
「黙ってろと言っただろっ!」
刹那――まるで風のように狐の面が迫った。
とっさに、ゴーストから拾った剣でガードする。剣と短剣が火花を散らしながら混じる。
銀髪の少女の荒い鼻息が顔に当たるほど接近している。狐の面から覗く目が鋭い殺意を放つ。
「くっ……流石に怒らせすぎたか……」
情報を聞き出すのはまだ自分の技量では足りなかった。
真正面からくる風がソーアの目を細め、視界を狭める。
それに加え、そよ風のような気持ちのいい風ではない。当たるたびに全身が痛い。
皮膚が少しずつ削り取られていくような、おぞましい感覚が全身に殴りかかってくる。
「ソーア! その程度かッ!」
風に乗りながら銀髪の少女が怒号の声を上げる。
必死に銀髪の少女の激しい斬撃を防いでいるものの、圧倒的に押されている。
全て受け止めていることもあり、刃こぼれが著しい。
剣の耐久力を考えるとここまで保もっていることがもはや、奇跡に近い。
どこかで距離を取るか……いや、この激しすぎる剣撃から逃げる事はできない。それに距離を取れたとしても、風のカラだ。自らが風のように、すぐに距離を詰めてくるだろう。なら、攻めるしかない。どう攻める? この刃の向こう側にいる少女に……




