#035 ミズ
「とりあえず人海戦術で辺りをしらみつぶしに……あーどうやったらいいんやー!」
頭を抱えて、しゃがみ込んだアマランスに不思議そうな顔をしたシエルが頭上から声をかける。
「そんなことしなくていいだろ。聞けばわかる話だ」
「え?」
「なあアマこの家確か屋上に登れるよな」
「え? うん登れるけど……」
「ちょっと借りるぞ」
「ああっちょ……」
少し軋む声を上げる階段を登っていった。
シュリ達も後を追う。
屋上の扉を開くと、灰色の床に柵がついた簡素な屋上。
中央に空を見上げるシエル。その手には何故か、黒光りするものを携えている。
「なぁ確か、ダーリャは雲の上まで行ってたよな?」
空を見上げながら確認する。
「そうやけど……どうするん?」
首を傾げるアマランスを一瞥した後、不敵な笑みを浮かべる。
クルクルクルクル拳銃をもてあそびながら夜空に銃口を向けた。
「まぁ見てなって!」
刹那――閑静な住宅街に一発の銃声が響いた。
「ちょっ何やっと――」
「黙ってろ!」
目を塞ぎ、全身を集中させる。
「なぁなぁあれ何やっとんの?」
ぶつぶつ言っているシエルを横目にアマランスはイグニスにそっと耳打ちする。
シュリも耳を傾ける。
「あれは銃弾に水のカラをためて水蒸気と話していると言った感じかな」
「そんなことできんの?」
「できるよ。なんてったってあのシエル様ですか――」
「了解。成功だ。早く降りてこい。とにかく時間がない」
「シエルここ自分の家だと勘違いしてるんじゃない」
そのまま無視して降りていった。
一階に戻るとペンでなにか書いていた。
「何書いてんの?」
地図帳に赤ペンで丸をつけていた。
「この範囲にソーアはいる」
「でも。ここってめっちゃ平原じゃん。こんなところに本当にいるの?」
疑いの目を向けるアマランスに確信を持った顔でうなずく。
「ああ。絶対にだ。ミズ達の情報には白い布をまとった女の子がすごいスピードで空中を飛んでたってそれで急に止まったかと思うと土が正方形型に切り抜かれたらしい。そこに入っていったんだと」
「ミズっていうのはシエルが聞いてきた水のことね」
「え?」
イグニスの訳がわからない補足に首を傾げると「極端にゆうと〜」とシュリの横にしゃがんだ。
脇を閉じ、両手だけ羽のようにパタパタしだした。
「妖精ミズちゃ〜ん。ソーアはどこ〜みたいな」
明らかに悪意のある演技に、シエルは頬を赤らめる。
「おぉいそれは極端すぎるだろ」
「でも、要点はあってるんじゃない?」
「ま、まぁあながち間違えてはいないけど」
だんだん小さくなっていく声に、耳をすませる。
「とりあえずそれは悪意がありすぎだ!」
急に大声を出したので、耳をすませていたせいで余計に大きく聞こえてしまい、ビックリしてしまった。
「ま……まぁじゃあその正方形の場所を見つけたらいいてことやろ」
「そう簡単にはいかないんだよ。アマ」
「なんでやねん。そんなに存在感放ってるのが有るんやったら一目瞭然なんじゃないの?」
「ミ……んっんん……情報によればそこの正方形の場所は入ったらまた閉じてしまったみたい」
気にしているのか『ミズ』という単語を発する寸前で止めた。
「そこで、シュリの何か知らんが場所がわかる的なやつを使ったらいいんじゃないかという計画だが……どうだできるか?」
「はぁ? 知らねぇよそんなの。お前がさっきやったみたいにやったらいいだろ」
ん? なんかキレてる?
若干面倒くささを感じながらも否定する。
「いいところに気がつくがそれだと銃声でバレる。だからその無音の……なあアマそのわかる的なやつって無音だよな?」
急に不安になったのか確認を求めた。
「ええ……そうだと思うで」
「なら一番、隠密作戦にはもってこいだ。できるか?」
「おお、隠密作戦いい響きだねぇ」
シュリも乗り気になったところで今すぐ作戦決行――とはいかなかった。
アマランスが「強力な助っ人を呼ぶから明日の夜明け二時間前に家に集合」という遊びに行く学生のように待ち合わせをしてお開きとなった。




