#003 地下帝国へ
七色の扉の先は、赤色のカーペットが敷き詰められた長い通路だった。
掃除が隅々まで行き届いており、まるで超高級ホテルのようだった。
窓の外から昼の太陽が差し込んで来ている。
誕生日をしていた時間は夜だったはずなのに。
どうして?
そんなことを思う中、シュリが口を開いた。
「ど、どこよここ」
辺りをキョロキョロ見回す。
「母さんの故郷らしいけど……」
「と、とりあえず戻って助けないと……」
うつろうつろした目でドアノブに手をかける。
「ま、待ってきけ――」
ソーアが言い終える前にシュリは入ってきた扉を開けてしまった。
扉を開けたと、同時に二人の目も大きく見開かれる。
なんと、自分達が暮らしてきた家はなかった。
そこには、高級な椅子に座った老人が六人。
円形テーブルを囲って会議をしていた。
真ん中の一番奥の黒髪の男以外は胸に六色のバッチをつけていた。
しかし、シュリが扉を開けたせいで会議をしていた六人の視線が一斉に集まった。
その目は刃物のような冷たい視線だった。
「取り押さえろ!」
扉の両脇に立っていた男に二人は床に押さえこまれてしまった。
「ちょっ、ちょっと待ってリーラ――」
「やぁー!」
ソーアがリーラのことについて言おうとする瞬間。
シュリが先に反撃に動いていた。
騎士の股を抜けて背後に回る。
ソーアを押さえていた男の頭を裸足で蹴り飛ばし、自分を押さえていた男を素手で殴り倒す。
場にいる皆が呆気に取られている。
この機を逃すまいと、シュリはソーアの手を取って走り出した。
シュリとソーアは赤いカーペットをライオンから逃げるシマウマのように全力疾走する。
シュリ強っ⁉︎
ソーアは心のなかで勝手に突っ込んでいた。
追手の声でソーアは後ろを振り向く。
もう起き上がったのか、さっきの二人の騎士に続き増援が三人に増えていた。
驚きながらも必死に頭を回転させる。
見ると歳なのか少し走っただけで息切れしている。
窓の外を見ると外庭と大きな門がある。
これは好都合だ。
単純だが効果は期待できる。
走っている右手に下への階段が見えてきた。
ソーアは指差し、
「そこを降りるよ」
「わかったわ」
階段を駆け下りるとドアは来客者が来ていたようで開け放たれていた。
来客者と話をしていた門番は後ろの階段の騒がしさに振り向くと、二人の子供を大勢の騎士が追いかけている謎の状況に困惑する。
「そいつをとめろ!」
追っての騎士が叫んだ。
門番は両手を広げて止めにきたが。
そんなものはなんなりと交わす。
二人は外庭も脱兎の如く走り去っていった。
外門をくぐると来客者が乗って来たと思われる荷車の後ろに素早く隠れた。
疲れで思考力が低下しきった数十人の騎士たちは一本道を怒号の声を上げながら走り去っていった。
「ふぅー」
「疲れたー」
《命がけの追いかけっこ》から生き残り二人は妙な高揚感が高まっていた。
「うわぁぁ!」
ふと、後ろを向いて腰を抜かしたシュリを見てソーアも振り向くと……。
驚きすぎて言葉にも出来なかった。
そこには、来客者の荷車を運んできたと思われる動物が凜然と立っていた。
その動物はたかの翼と上半身、ししの下半身を持つ獣。
《グリフォン》だった。
さっきまで寝そべっていて気付かなかったのだ。
食べられるっ。
ギュッと目をつむり、覚悟を決めた。
しかし、あろうことか黒いグリフォンが頭を下げて懐いて来たのだった。
食べられないことが不幸中の幸いだった。
二人は安堵の息をもらしたあと、ソーアはシュリに言った。
「とりあえずここは危険だから街に行こう」
「街に?」
「うん。こんな豪邸があるくらいだ街ぐらいあるはずだ」
二人は尻についた土をはらうと歩き出した。
ふと、ソーアは後ろを振り向くと《命がけの追いかけっこ》をした建物が見えた。
どうやら追いかけっこ会場は大きな宮殿だったようだ。
さっき騎士たちが行った一本道を二人は歩いて行った。
「うわぁー絶っ景だね」
シュリが眼下に目を下ろし、指差す。
「そうだね」
街、全体が見渡せた。
どうやら、宮殿が建っていた所は山の山頂だったようだ。
街には家や商店などがあり、人々が活気に満ちていた。
なによりも一番目立ったのは昼の太陽に突き刺さんとするばかりに伸びた展望台があった。
山から見える綺麗な景色を後にして山を下山した。
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