#029 スイキとの取引
ニタァと笑みを浮かべ、ソーアは前傾姿勢をとる。
やめろ! 鬼
心の中で本体が叫んだ。
今まで無視していたが流石にうるさい。
あぁ? うるせーぞ
クソどうやったら戻るんだ?
おい聞こえてるぞ、ソーア
おい鬼野郎さっさと体を返せ
鬼やろうと言われるのは流石に心外だったのか、ぶっきらぼうに返す。
鬼野郎とかいうな……なんか……悲しい…………
…………フッ
笑うな! 俺はスイキだ
失礼。意外と可愛いな
全然あやまれてねえよ! あーっもお! 絶対にあいつらを食ってやる
僕が悪かった。スイキの目的はなんだ。なるほど、肉を食うことか……
俺の心を勝手に読むな
スイキもさっき読んだだろ。なあ、鬼は自分のうでがなくなったらまた生えてくるのか?
はぁ? まあ……生えてはくるが……
スイキは同じ体でありながら、この時ばかりはソーアが何を考えているのかわからなかった。
なら話が早い取引だ――
続く言葉にスイキは耳を疑った。
僕の左うでを喰え。
は? ……ちょちょちょちょ、俺がいうのも変だが、お前本気か⁉︎ また生えてくるが、完全な鬼のうでだぞ。
それはとてつもなく嫌だな。
嫌なのかよ。しかもとてつもなく……
でも、シュリに触れたあいつらを僕の手で殺せるなら構わないね。
おいおい、さっきまであんなに殺すなと言っていただろ。
気が変わったっんだ。
すごいな俺が気持ちを読めない人がいたなんて。
えっ?
人間とは面白い生き物だね。自分の考えがコロコロ変わる。いいだろう気に入った。俺の力を存分に使え。ああでも、この試合中は大丈夫だけど、この力が一回の代償で一生使えるわけでは無いからね。
左うでに手をかける。
では代償をいただくよ。
僕の左うでをゴキゴキと音を立てながらもぎ取る。
不思議と肩からの痛みは感じなかった。
「ソーアッ!」
走ってくるシュリを一瞥した後、笑顔をむけ、左うでを飲み込んだ。
「ふぅ〜」
すぐに左うでが生えてきた。
しかしそのうでは漆黒色、一段と手の爪も伸び、完全な鬼のうで。黒鬼の左うでだった。
シュリはあまりの驚きに腰を抜かしてしまった。
それに気づいたソーアは近寄り手を差し伸ばす。
「大丈夫か?」
「そ、それはこっちのセリフよ」
ふるえた指で左うでを指差す。
「ああ、だいじょぶだいじょぶ」
肩をぶんぶん回してアピールする。
「そう……ならよかった。はい銃」
「あーもう今に限ったらそれは必要ないよ」
「えっ……?」
わけのわからない返答に声が裏返った。




