#028 任務開始
「ニクッ! ニクゥ!」
ソーアはただの理性を失った獣。鬼に成り果てた。
スピードが格段に上がったソーアは鬼の鋭い爪で襲いかかる。
「……ウッ……」
「っ……」
おくせず、鋭い鉤爪で敵の間合いを確実に距離を詰めていく。
先程とは打って変わって一切迷いのない動き。
「……クソッ! 防ぎきれないッ……!」
「ウワウワウワワワワワワアッ!」
鉤爪を乱雑に振り回しているが、スピードが尋常じゃない。
今は何とか持ちこたえているが、それでも二人がかりでだ。
もしもどちらかがミスを犯せば――
刹那。
「ンッ!」
「ミュールッ!」
ミュールの脚を鬼化したソーアがわし掴む。
人を殺すことをためらっていたソーアが何のためらいも、躊躇もなく。
掴んだ脚を、ゆっくりと、ゆっくりと、口に運ぶ。
そこにニクがある。だから食べる。
そんな獣の思考で。
隙が生まれ、すかさずミロワールの拳が頬にヒットする。
しかし、先程とは違う。そんなことは、火を見るより明らかだった。
殴り飛ばした方へ見やる。
何のことかと言わんばかりに、威風堂々と立っていた。
口元には笑みさえ浮かべていやがる。
「なんなんだあいつは⁉︎ 電柱も一発でへし折れる拳を真に受けて無傷だなんて」
付き合いの長いミュールには一目見ただけでわかった。
ミロワールが本気で拳を振るったことを。
「クッ……もうあれを使うしか」
「ミロワール本気か⁉︎ 使ったら死ぬかもしれないんだぞ」
「どのみち死ぬだろ。確実に計画の邪魔になる。一度も二度も同じだろ」
「フン……わかったよ。またお前と逝ってやる」
どこか吹っ切れた顔のミュールを横目に安心する。
覚悟が決まったようだ。
「はじめるぞ、ミロワール」
「最後くらいコードネームじゃなくて本名で呼んで欲しかったな」
ミロワールがぼやくのを無視し、続ける。
「任務開始!」




