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#025 嫌な予感

 闘技場、通称『コロコロム』は天井が開放された円形型の建物だ。

 中心部には砂が敷き詰められ、周りを観客席で埋め尽くしている。

 何かの本で見た古代ローマの『コロシアム』と瓜二つだった。

 『コロコロム』という呼び名は一見可愛らしい名前をしているが、本当の由来は『打ち負かされた死体がコロコロと転がる』ところから来ているという恐ろしい由来である。


 「さぁ! いよいよ決勝戦! もう一度ルールを確認しておこう! ルールは至ってシンプル。二対二の対戦方式で、相手を行動不能にする。ただそれだけで勝敗が決まるぞ。制限時間は十分。制限時間を過ぎた場合、技術面を総合評価して優勝者を決めるぞ!」


 実況者が高々にルール説明をする。

 ここで言う『行動不能』とは『人生そのものを行動不能』つまり『死』を意味する。

 今までは審判がいたのだが、最終決戦のみ審判が外される。詰まるところは本当の『デスゲーム』というわけだ。 

 降伏したらしたで、裁判で処刑される。だからといって相手も人間。相手の家族のためにも、自分の精神的にも人は殺したくない。最悪の状況。八方塞がりという訳だ。

 だからこそ、ソーア、シュリチームの目標は『時間切れ』だ。

 しかし、万が一、億が一、殺すかもしれない。

 ソーアは前日シエルに手渡された銃に目を落とす。



 すっかり日は落ち、午後の訓練を終えた時。

 シエル愛用の銃と同じ銃をソーアの胸に押し付けて来た。

 いつも見慣れ、訓練で使っていた拳銃の新品。

 だが、いつも使っている練習用の銃とは訳が違う。


 「人を殺すことになるだろう。覚悟しておけ」 


 ただそれだけ告げるとくるりと、(きびす)を返して立ちさ――ろうとした瞬間、シエルは右袖に違和感を覚えた。

 その違和感は見ずにともすぐに理解する。

 ソーアが右袖を弱々しく引っ張ったのだ。

  

 「なんだ? 前々から言っといただろ?」


 前を見ながら、ぶっきらぼうにそう返す。

 シエル自身も無理を言っていることは十分に理解していた。

 十三歳の少年に『明日、人を殺す覚悟をしておけ』というのはあまりにも荷が重過ぎた。

 

 「そ、そうですけど――」


 シエルは振り返り、俯いているソーアの頭を見すえながら。


 「俺は構わないが、お前が覚悟を決めなければ、お前もろとも愛しのシュリちゃんもこの世から仲良くバイバイだぞ、それでもいいのか?」

 「良い訳ない」


 頭をぶんぶんふるソーアの肩を掴んで身体を激しくゆする。


 「カラフル団に入ったら人を殺すことが少なからず出てくる。俺だってイグニスだってアマランスだって、そしてリーラだって言っちまえば『人殺し』だ。正義の為だがな」


 ソーアは顔を上げ目を見開いた。


 「母さんが人……殺し?」

 「街のみんなのためだと言っただろ」


 めんどくさそうに頭をかきながら明後日の方向を見る。


 「だが、そんな腰抜けのために用意された抜け穴か知らんが、最終決戦時、ひとつだけ殺さずに優勝する方法がある」


 ソーアの瞳にわずかながら光がさした。


 「どうするんですか」


 すぐに食いついた。


 「だがなこれは最も難しいと言ってもいいだろう」



 そこで提案されたのが『時間切れ』という訳だ。

 今までは敵に白旗を挙げさせていたが、その白旗さえも決勝戦は取り上げられる。

 結局、『時間切れ』一択しか残されていないということだ。


 「さあ、両者ともに配置についたようだ! 登場してもらおうミロワールとミュール、チームだ!」

 

 実況と共に、敵の鉄柵が下から上へあがり、けたたましいほどの声が上がった。中には口笛をふいているものもいた。

 観客が盛り上がる中、屈強な黒髪の男二人が入場した。

 

 「初出場の時から九年連続一位! カラを保有していない彼らにとって何処にそんな力があるのかぁぁ!」


 「うおおおお‼︎」と実況が観客を盛大に盛り上げる。


 「続いて、初出場にも関わらず決勝戦まで登り詰めた超新星! ソーア、シュリ、チーム!」


 パチパチパチと先ほどに比べて声援が圧倒的に少なかった。中には罵声の声もちらほら。

 なぜなら、タイムアップか白旗をあげさせるという盛り上がりに欠ける勝ち方しかしてこなかったからだ。


 眼前の鉄柵が上がり入場する――前に、額に汗を浮かべたアマランスが警備員に止められながらも猛スピードで走ってきた。


 「何か嫌な予感がする――」


 それ以上は警備員に押さえ込まれて何も言えなかった。


 少し前、アマランスの家系、パープライト一族は、直前の危機を感知することができるらしい。

 こんな時に、心配ごとを増やすのはおかしい。警備員に止められてまでも。

 胸騒ぎが後を絶えなかった。

 


 

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