#023 実験
午後の訓練を終えたソーアとシュリはアマランス家にて夕食を食べていた。
「このスープうまっ」
下品にお皿とスプーンをカタカタ鳴らせながら、シュリは掃除機のような勢いでアマランス手製の夕飯を平らげた。
夕食後、皆が談笑していた夕食時とは打って代わってソーアは《シェアタイズ》のことを切り出した。
「アマさん」
改まって話そうとするソーアの雰囲気を感じ取ったのか、アマランスは姿勢を正した。
「僕たちがシエルさんを気絶させることができたのは何故だと思いますか?」
「えっ? それはあなたたちが強いからやろ」
「違います」
ソーアがあまりにもバッサリ否定するのでアマランスは驚いたようだったが、構わず続ける。
「あれは……あーその前にこの話は今のところ秘密にしてもらえませんか? 敵勢力が接触してきた可能性があります」
「敵勢力?」
ソーアは首を縦に振り、例の少女について一部始終語った。
「オーケー。りょーかい」
「話を戻しますね。あのとき僕たち二人の頭の中で、同時に声が聞こえたんです」
「オカルトな話やな〜」
だが、意外にも満更でもない……いや、もはや興味津々のアマランスは身を乗り出した。「で、で、なんて言ってたん?」と目をキラキラさせた子供のように急かす。
ソーアは氷の入った水を飲み干し、神経を集中させる。昨日のことをたぐり寄せるように鮮明に思い出す。
「『両者の脳内電波信号確認
共有の絆システム起動
任務成功確率九十七パーセント
慎重かつ迅速に任務に当たって下さい』って言っていました」
コップに入った氷をガリガリと噛んで暇そうに座っていたシュリが目を見開きながら――突然こちらを向いた。
ホラーゲームの人形が急にこちらを向いた時のように取りつかれたかと思ったがもちろんそんな訳はなく。
「私そんな言葉とっくの昔に忘れてた」
「んーなんでだろうねぇ」
察してと言わんばかりの笑みを浮かべたソーア。
「ねぇねぇそんな事よりどう思うそれ〜」
これまた目を輝かせたアマランスが二人に問うた。
「両者というのは私たちの事だろうということはわかるけど……」
「問題はノウナイデンパシンゴウ? という言葉と……」
「シェアタイズ……」
ぼそりと呟いたソーアに皆がうなずいた。
「僕の仮説だけど、《シェアタイズ》というのは共有の絆という意味なんだと思う」
「キョウユウノキズナ?」
「さっきも言ってたやつね」
「そう……共有の絆……」
ソーアは突然何かを思い立った様に立ち上がり、シュリを見た。
急にシュリの方に向いたので驚いた様子だったが、構わず続ける。
「なあ、あの時、何て思った?」
「あ、あの時って」
「シエルさんに銃を向けられた時だよ」
「えっ……そりゃあ――」
「「殺されるって思った」」
ソーアとシュリの考えが一致した。
つまり――
「つまり、そのとき、僕たちの考えが全く一致した。僕の仮説が正しければ『僕達ふたりの意思が全く同じとき例のシェアタイズシステムが発動する』んじゃないか?」
シュリとアマランスは納得したように首を大きく縦に振った。
しかし、シュリもある仮説にたどり着く。
「え、それって私たち『機械』ってこと?」
「それは無いと思う。でも、脳内だけは普通の人間じゃないだろうね」
シュリは深刻そうな顔をして、思いっきり引っ張ってみた。もちろん取れるわけはなく。ただ痛みだけが残った。
「そんなこと今考えても無駄だよ。でも、その答えを知るためにも母さんを助ける必要がある」
ソーアは母さんを助ける決意を一層固くした。
「じゃあ、実験してみいひん?」
アマランスが両手をパチンと合わせた。
「実験?」
「そう実験。二人とも『台所まで行ってスプーンを取ってくる』って思うねん」
アマランスは台所の方を指差した。
ソーアとシュリは見合わせ、両者ともに不安げな表情を浮かべる。
「できるかなぁ」
「不安だけどやってみるかぁ」
「「スプーンを取ってくる」」
二人の声が重なった。
瞬間、ふたりのペンダントあの時と同じくして淡く光り、謎の声が再生される。
『両者の脳内電波信号確認
共有の絆システム起動
任務成功確率百パーセント
慎重かつ迅速に任務に当たって下さい』
ソーアの目は朱く、シュリの目は蒼色に輝いた。
――えっ
気付いた頃にはふたりとも手にスプーンを持っていた。
二人とも速すぎて何をしていたのか自分でもわからなかったということだ。
ただ自分が神速の速さで取りに行った事を証明する材料が目の前にあった。
アマランスの前髪が風で乱れており、スプーンを持っている。
「うぉぉぉぉ! 成功や!」
椅子が倒れる程に勢いよく立ち上がりアマランスは歓喜の声を上げた。
そんなアマランスの喜ぶ姿を見て二人は吹き出した。




