#021 少女
太陽の日差しが差す昼の午後。
ソーアは街で最大の図書館に来ていた。
朝食時に、昼休憩の時、図書館に行って情報を集めようとソーアがシュリに話を持ちかけたのだった。
「おまたせ〜」
シュリが手を振りながら歩いてきた。
胸の前でソーアも控えめに手をあげる。
「シエル大丈夫だった?」
シュリがにやけ顔を浮かべた。
「あー銃にホコリがついた事でぐちぐち言われてだるかったよ〜」
「ふーん。まあ、入ろ」
「え⁉︎ それだけ?」
シュリが出した話をシュリ自身からばっさり打ち切ったので驚いたが、スタスタと中に入って行くので、戸惑いながらも後を追った。
街で最大の図書館というだけあり、本棚の数は尋常じゃない。
それに加え、四階建て全ての階に本棚がびっしりと揃えられ、まるで巨大迷路のようだった。
これだと迷子がでるだろ
そう思った矢先、目の前でお母さんらしき人が子供の名前を呼び回っていた。
気の毒だと思いつつ、受け付けの女性に『カラ』についての書物コーナーに案内してもらった。
数冊手に取り机に持って行った。
ページを開いた瞬間、ソーアは大事なことを見落としていることに気づいた。
「そういえば、僕たち文字が読めないんだった……」
「あ……」
どうしようかと困惑していると、本を大量に抱えた黒髪のメガネ少女が横を通りかかった。シュリよりも年上だろう。
その時、頭より高く積み上げた本が案の定、大きな音を立てて崩れ落ちた。
「大丈夫ですか?」
ソーアが、かけ寄り本を一緒に拾う。
シュリも加勢し一気に本は片付いた。
「ごめんなさい。ありがとうございました」
少女は二人に頭を下げると、メガネの真ん中をくいっとあげ、口を開いた。
「先程、小耳に挟んだ感じですと、『文字が読めない』のですか? お礼として、翻訳させていただきます」
二人は半ば強引な彼女に、面食らったが、断る理由もないのでシュリは「大歓迎〜」と言うとソーアの左横に腰を下ろした。
しかし、この時ソーアはこの少女に少し引っかかった。
「カラとは体内に流れる見えない力を具現化したものだ。無論、カラ能力者に限る」
少女は本に指を置き、本文を音読していく。
「カラには種類があり、それは髪の毛の色によって異なる」
表となって記されていた。
赤髪:火のカラ
青髪:水のカラ
銀髪:風のカラ
金髪:雷のカラ
紫髪:破滅のカラ
「勉強ばっかり飽きた」
シュリが大きな欠伸をした。
「じゃあ、余談なんですけど、お二人って付き合ってるんですか?」
少女が観察するようにメガネを上げた。
二人は笑いをこらえきれず、吹き出した。
「姉弟だよ。キ・ヨ・ゥ・ダ・イ」
シュリが笑いながら修正した。
少女はふふふと、上品に笑った。
「本当の姉弟みたいですね。まるで『シェアタイズ』で結ばれているみたいですね」
その瞬間、それまで爆笑していたとは思えないほどに、急速に、二人からは血の気がひいた。
バカのシュリにも理解できたようだ。
ソーアは少女にバレぬようにシュリに左肘で小突いた。
「あ、ちょっ、ちょっとトイレ行ってきますね」
「あっ私も」
「トイレはそこの角を二回曲がった所です」
「あ、ありがとう」
二人は早足でトイレに向かった。
「なぁ、あの子、今『シェアタイズ』ったよな?」
「うん、なんでそんなこと言うんだろう」
「『シェアタイズ』を翻訳するとしたら『共有の絆』ってことになる」
「キョウユウのキズナ? 訳わかんないよ」
「それに、あの少女は最初から変だった。まず何で僕たちの話を聞いていたんだ?」
ソーアはアゴに手を当て考える。
「それに、あの本の量、一度に運ぶには無理がある。そんなことバカでもわかるだろ。さらに、僕たちの前で本が崩れた。もし、僕たちに話しかける事が第一段階だとしたら……それは何かを聞き出すのが目的……その目的とは……」
「さすがに考えすぎじゃあ……」
「…………ハッ!」
ソーアは一つの考えに行き着いた。
瞬間、ソーアは図書館のカーペットを駆けていた。
「え、ちょっ!」
置いてかれたシュリもすぐに駆け出した。
考えが本当だとしたら、少女は絶対に行かせてはならない。
「あれ、あの子どこ?」
後から、ほぼ同タイミングで到着したシュリは当たりを見回す。
二人の目の前には大量の本が積み重ねられているだけで、黒髪の少女はいなかった。
「クッソーーッ‼︎」
ここが、図書館だということも忘れ、壁を握り拳で思いっきり叩いた。
辺りに響いた低い音はソーアの心に重く響いていった。
†
黒髪の少女はメガネを置き、頭全部が、すっぽりハマったマスクを取っ払った。
美貌をあらわにし、乱れた白髪を整えた。
自室でスマホを取り出し、電話をかけ始めた。
『…………』
「こちら『フォックス』につき、ボスに報告いたします。あの二人、ソーアとシュリの『シェアタイズ』というものが発動したと思われます。もし何かの支障になるのならば抹殺致しましょうか?」
普段無言で電話を切ってしまうボスが珍しく口を開いた。
『ダメだ』
「り、了解しまし――」
いつも慈悲のかけらもなく。邪魔になるのなら殺せと言うあのボスが殺すなと言った。
思いがけないことに言葉をつまらせると電話はいつもの如く一方的にに切られた。




