#001 起動
「母さんただいまー!」
家の扉を勢いよく開け、入ってきたのは威勢のいい声を家中に響かせながら朱殷色の赤髪、ロングヘアを後ろに下ろした少女。シュリがスキップをしながら、心おどる様子で帰ってきた。
「ただいま」
そんなシュリとは対照的に、スーパーの袋を両手に持った紺碧色の青髪をした少年。ソーアが、息遣いを荒くしながら、家に帰ってきた。
弟はどうせ姉のパシリですよー。
そんなことを心の中で罵りながら台所に向かう。
「あ〜疲れた」
ソーアが大量に入ってるスーパーの袋を台所に置いた。
もう下準備は出来ていたようだ。
あとはメインのケーキを作るだけ。
今日はシュリとソーアの双子の姉弟の誕生日なのだ。
先程までケーキを作るための細々とした材料をスーパーに買い出しに行っていたのだった。
「おかえりなさい」
エプロンを身につけた至極色の紫髪の母。リーラが笑顔で振り向いた。
「さぁ、ケーキ作りましょうか!」
「ぼくは遠慮しとくよ。二人ががやった方が上手いし」
すかさず逃走。
ソーアは逃げるように台所から出て二階の自室に向かった。
「まーたゲームしに行ったなまったく」
「まぁ誕生日なんだし好きなことしてもいいんじゃない?」
「でもソーアがやってるゲーム、部屋から音がもれてうるさいの」
「わかったわ言っとくから手洗ってきてちょうだい」
「はーい」
水が手をすり抜けていく感覚は気持ちがいい。
自分の心を消火してくれているような感覚がする。
台所に戻る途中、床に紙切れが落ちていた。
拾って見ると見たこともない文字が羅列されていた。
「へんなの」
あとで捨てよ〜と。
そんな事を思いながらポケットに無造作に突っ込んだ。
赤毛を揺らしながら戻ってくるとリーラが小麦粉を入れたボウルの中に橙色の粉を入れていた。
「なにその橙色の粉?」
「わっ!」
小麦粉を入れたボウルを落としそうになりながら過剰に驚いた様子でこっちを向いた。
「い、いるならいるって言ってよね」
「どうしてそんなに驚いてるの?」
「あ、ううんなんでもない。さぁケーキ作りましょうか」
何ごとも無かったかのように、取り繕い、パチンと両手を鳴らした。
シュリは隠し味か何かだろうと勝手に期待して、ニコニコしながらうなずいた。
「うん!」
あとは、イチゴを飾るだけというケーキ完成間近。
黒髪の父が紙袋を持ちながら帰ってきた。
「ただいまー」
「おかえり」
シュリは目を輝かせて手に持っていた紙袋を指差した。
「それプレゼント?」
「ああ、そうだ今日から十三歳なんだからオシャレしてもいいんじゃないかと思ってなジャカジャカ……」
シュリは何が出てくるのかと期待に胸を膨らましながら袋を凝視する。
「ジャン! の前にトイレ行かせて」
「んっもう」
「お楽しみはロウソクを消した後でね」
からかい、ふくれている顔を見て、自分だけ楽しんだ後、下手くそなウインクをしてトイレに入った。
「シュリ〜ケーキ食べるからソーアを呼んできて」
台所にいる母に言われ、シュリは二階にいるソーアを呼びに階段を登った。
「ソーア入るよ」
三回ノックをして部屋に入るとソーアはいつも通り。ゲームをしていた。
相変わらずソーアの部屋は汚い。色々なゲームのパッケージやら漫画やらが散乱している。
ゲームのポーズボタンを押して振り向いた。
「もうケーキ出来たから早く下に降りてきて」
「わかった」
コントローラーを机に置きシュリの間をすり抜けて階段を降りて行った。
シュリもドアを閉めて真っ暗な階段を駆け下りた。
電気をつければいいが、別に支障は無いので付けない。
ダイニングには家族三人がシュリを待っていた。
「役者が揃ったし始めようか」
父が電気を消すとすでにつけてあったロウソクが主張を始める。
暗がりの中で見るロウソクの火は何度見ても幻想的だ。
誕生日ソングを歌い二人同時にケーキに刺さっているロウソクの火を吹き消した。
パチパチパチパチと拍手したあと。
誕生日の一番の醍醐味と言っても過言ではないだろう。
父がさっき持っていた袋を手渡した。
「私達からの誕生日プレゼントだ」
袋を開けると赤と青のペンダントが二つ並んで入っていた。
「「ペンダントだ! ありがとう!」」
二人は幸せそうに首にペンダントをぶら下げた。
しかし、四人の幸せの時間はこれ以上続かなかった。