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あのね、そこは

作者: はちす

 炎天下の下、私は病院の紹介書を持って、大学病院に訪れていた。

ムシムシと熱い日差しが容赦なく照り付け、

入り口に到着する頃には、熱さで頭がクラクラとしていた。

さすが大学病院、前回まで通っていた個人病院とは違い、人の数が尋常ではない。

自動ドアを通り抜けて早速やってきたのは、

ひんやりと心地いい冷気と人の波であった。

初回は、診察だけで終わる予定なので、早く帰って遊んでやろうと考えていたが、

甘い考えだったみたいだ。

それでも早く帰れるよう、受付を済ませようと列を探すと

すでに長い列ができている。

この列に並ぶのかと考えるとうんざりした。

ここまで来て、帰ることもできず、渋々列に並んだ。

どれぐらいかかるだろうか。

受付けまでの列の距離と人数を目で確認すると

4つある受付の1つには誰も並んでいないことに気づいた。

誰も並んでいない受付には、きちんと職員の人が座って待っている。

何故、誰もここに並ばないのだろうか。

大学病院に来るのは今回が初めてだ。

何も分からない私は、ここに誰も並ばないのは、

何かしらの特定の人の受付場所であるからなのだろうと推測し、

長い列のまま自分の順番を大人しく待った。

自分の番が受付まであと少しのところ、

誰も並ばない受付が気になり、ふと様子を見上げた。

3つの受付を対応している、他の職員と同じ制服を着ていたが、

顔をずっと俯けている。

新人さんかアルバイトの人だろう。

忙しなく動く他の人とは違い、その女性は椅子に張り付けられたように

座っていて微動だにしなかった。

その異様な様子に好奇心をくすぐられ、

いったいどんな顔をしているのだろうかと顔を覗き込んだ。


「保険証と診察券お願いします。」


 不意に声を掛けられその場で飛び上がる私に、

私の並んでいた列の先にいた受付の女性は少し驚いた顔をした。


「あ…あの初めてです。」


 そう言い戸惑いながら紹介書を出そうとする私を制するように

受付の女性は、やれやれといった顔で問診票をずいと渡した。


「これを記入いただいたら、

 こちらではなく右奥の初診の方の列にお並びください。」


どうやら並び損らしい。

私は、恥ずかしくなり横切る際に受付の職員に軽く会釈をし、

初診の受付へと急いだ。

初診の受付を無事に終え、

またしばらく待つことになったが、検査も無事に終えることができた。

早く帰って、徹底的に遊ぼう。

予定よりも長くかかったが、時計はまだ13時過ぎで、十分に余裕があった。

階段を急いで下り、受付を向かう。


 今度は、間違えないようにと先ほどの受付を見ると

不思議なことに誰もいなかった。

更におかしなことに受付の人だけではなく、通院に来た人も誰もいない。

先ほどの賑わいが嘘のように総合受付所前はガランとしていた。

午前の受付が終了したのだろうか。

診察券を裏返してみるが、午前の受付も午後の受付も記入していなかった。

この異様な様子に首を傾げていると

ギリギリと何かが擦れ軋むような嫌な音が響き、

自分の視野の遠くににゅるりと何かが姿を現したのに気が付いた。


え……?


その何かは、こちらをじっと見ていて、目は合っていないものの

私をじっと食い入るように見つめている。

ギリギリと音が更に強く響き、

その音が何かのぎぃぎぃと唸っている声だと気づいた。

何が起こったのか分からないが、本能がそれを見るなと必死に止めていた。

そして一切動くこともできなかった。

どうすればいいか分からないこの状況を整理するために

私は、朝までの行動を必死に思い返した。

ふと誰も並んでいない受付を思い出した。


あ……………。


そして私が、初診の列に改めて移動する際、

恥じらい隠しに会釈をしたことを思い出した。

その瞬間私は、肩をギュッとつかまれた。

振り返ってはいけない。

騒音のようなぎぃぎぃと言う唸り声と生暖かい呼吸音のその先に

あの俯いていた何かがいた。

毒虫の模様のような不気味な大きな目が私を吸い込むようにジッと見つめている。

そこから私の意識はなくなった。



「あの噂信じてますか?」


「噂なんていっぱいあるでしょうが、どれのことよ?」


「受付で自殺した人の噂ですよ。」


「ああ、あれね。私は信じてるよ。」


「ええ!!何でですか?」


「だって、あの受付に並んでいる人がまた増えてるもの。」



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