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三度目の目覚め


 暗闇で、オレは、ゲームの中のオレと、対峙していた。


『よう。こっちは、終わったが……そっちも、終わったな』

『おかげさまでな。ありがとよ』

『さすがは、オレだ。アレをやっちまうとは、大したもんだ。』


 ニッっと笑うオレに、オレも笑って返した。オレが勝てたのは、あんたのおかげだ。しかし、自分に感謝するというのも、おかしな感覚である。


『色々と聞きたい事はあるだろうが、もう、繋がりが切れそうだ。重要な事だけ、言っておく』

『?』

『アレは、死んでいない』

『っ……!』


 さらっと、とんでもない事を言いやがった。


『と、言うより、アレは死なないんだ。またいつか、お前の世界を脅かしに来るだろう』

『ちょっと待ってくれ。この世界は、あんたの世界じゃないのか?』

『合ってるが、合っていない。その世界は、オレの世界ではなく、オレの世界に限りなく近い、別世界だ。オレのいた世界は、お前の元いた世界が崩壊したことで、一緒に壊れてなくなったからな』

『……じゃあ、この世界は一体、なんなんだ?それと、どうしてオレは、あんたの力を少し受け継いで、ここに生れ落ちたんだよ。別世界っていうのなら、おかしいんじゃないか?』

『お前が、死んだとき、オレも死んだ。その時、色々なもんが混ざり合って、訳がわからん事になったのかもな。まぁつまり、オレにもよく分からん!』


 あ、やっぱオレだわ。


『よく、分かった。ま、あんまり気にしないでおくわ』

『それがいいだろうなぁ。実を言うと、オレも何でここにいるのか分かっていない。ただ……いや、いいわ』

『なんだよ。気になるだろ』

『いや、もう時間切れだ。せいぜい、アレの襲撃に備えて鍛えろ。次は、助けてやれるか分からんからな。じゃあな、オレ』


 オレは、オレに背中を向けて、手を振った。オレは急激に遠のくその背中を見送り、そして、オレも背を向けて手を振る。




 それは、三度目の目覚めだった。目に入るのは、見慣れた天井。そして、見慣れた部屋。リリードの屋敷の一室で、オレに与えられている部屋だ。窓からは心地よい風と、暖かな太陽の光が差し込んでいる。少しの間、の風と日差しを堪能。

 しばらく経つが、今回は、全く身体を動かす気になれない。侵食者と繋がっていたときは、痛みもなく絶好調だったのに、それが嘘のよう。

 また、繋がりたいよ……。嘘、ごめん。冗談でも思うような事じゃなかった。

 しかし、誰かいないのか。オレは目だけ動かして辺りを見渡すが、視界に人が入らない。いつもなら、誰かしらが傍にいてくれた物なのだが、ちょっと寂しいよ。だが、左手が、暖かい何かで包まれている事に気がついた。それを、軽く握る。と、それに応えるように、ぎゅっと掴みかえしてくる。


「ん……」


 どうやら、ベッドに伏せていたようで、オレの視界には入らなかったようだ。オレの訴えに気が付いて、ソイツが顔を上げると、目が合う事になる。


「……よう」

「……寝すぎだ、バカ」


 柔らかな笑顔でそう言ったのは、セレス。寝ぼけ眼で、口元には涎がついている。髪も乱れていて、完全に寝起き姿だ。


「どれくらい、寝てた?」

「今日で、一週間になる」

「そりゃ、確かに寝すぎだな。すまん」

「いや、別に良い。むしろ、ゆっくり休んで欲しいというか……それよりも、ありがとう。私のわがままに付き合って、未来を変えてくれて。私の記憶がない間に、頑張ってくれたと皆から聞いた。レイスには、本当に感謝してもし足りない」

「いや。頑張ったのは、お前だよ。お前が、成し遂げたことには、変わりない。だから──」


 続きの言葉は、唇に当てられた、柔らかい物で、遮られた。それは、セレスの唇だ。柔らかな、感触。

 もっと堪能していたかったが、それはすぐに離れてしまった。

 目の前には、顔を真っ赤にそめた、セレスの顔。しかし、その目は強気を保ち、オレを見つめている。


「れ、レイス……私は──」

「おやおやおやおやおや、おやおや」


 突然の声に、セレスは狼狽し、辺りを見渡した。その声の主は、オレの右側。セレスの反対側からにょきりと姿を現す。


「てぃ、ティア!?どこにいた、貴様!」

「最初から、ここにおりましたが。お二人の様子に、出るタイミングがなく……あ、どうぞお気になさらず、続きをどうぞ」

「できる訳がないだろう!バカなのか、貴様は!」

「ご主人様。申し訳、ございませんでした。私がいなければ、もっと簡単にリリード様を止められたはず。それを邪魔した私の罪は、計り知れません」


 訴えてくるセレスを無視しての、いきなりの謝罪。相変わらずのティアである。


「大切な人を、助けたいと思う気持ちは、誰でも同じだ。ちょっとやり方は違ったかもしれないが、誰もお前を責める事はできない。特に、ここにいるセレスは、な」

「……そうだ。というか、もうこの話は済んでいる」

「そうですね。ではこれより、私はご主人様にこの身の全てを捧げる事を、約束いたします。誓いのキスを──」


 オレに顔を近づけてくるティアの顔を、セレスが手で押さえた。


「何を、するつもりなのかな、ティア?」

「キスを」

「絶対に、ダメだ!」

「冗談ですよ。半分」


 そう言って、ティアはオレから離れる。だが、何故かちょっと残念そう。

 というか、半分冗談てなんだ。もう半分は、本気なのか。


「ここから始まる、一人の男を取り合う、女の戦い。見物じゃのう」


 はやし立てるような事を言って部屋に入ってきたのは、テレス。その後ろには、頭に耳の生えた少女。ナーヤもいる。


「ナーヤ……!」


 レーニャに胸を刺されたが、無事だったようで、安心する。だが、その様子がちょっとおかしい。顔を真っ赤に染めて、目を合わせてくれない。


「ナーヤは初心じゃのう」

「お前らも、見てたのか……」

「うむ!」


 覗き見とは、良い趣味とは言えない。やはりテレスには、キツイお仕置きを、いつかする必要がある。


「まぁとりあえず、ナーヤ。無事で何よりだ」

「レイスも、無事で、良かった」


 顔を赤くしながらも、ようやくナーヤがこちらを見て、笑顔を見せてくれた。


「それで……レーニャと、リリードはどうなった」


 オレの問いに、皆が言いにくそうに、顔を伏せる。良い事になっている訳がないよな。でも、聞かずにはいられない。


「父上は、罪人として処罰される事が決定し、首都へ連行された。指揮したのは、兄上じゃ。レーニャは……」

「レーニャは、心を閉ざしたまま。でも、意識はある。タニャが傍について、見ているから、大丈夫」

「……そうか」


 やはり、侵食者と繋がってしまった以上、レーニャは無事ではすまないようだ。オレの場合は、オレがなんとかしてくれたが、レーニャの場合はそうもいかないだろう。

 リリードに関しては、よく分からない。彼も侵食者を見てしまっただけなのだとしたら、被害者とも取れるが、それにしても、他とは一線を画した異常っぷりだった。その辺は、裁かれながら明らかになっていくだろう。


「お兄ちゃんが心配する事ではない」

「そうだぞ、レイス。面倒な事は、兄上にやらせておけばいい」

「その通りです」

「……」


 ナーヤまでもが全力で頷き、同意する。オレが眠っている間に、何かあったのか?ウェルスの評価が、更に下降している気がする。今回の件で、それなりに活躍してくれたと思うのだが、この扱い。今度は、何をしたのだろうか。


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