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決着


 テレスの放った魔法の光が、収まっていく。ようやく目がなれてくるが、しかし、そこに爆発の跡はなかった。


『ギョ』


 代わりに、ウェルスに散々痛めつけられたはずの、侵食者が乗り移ったトンキ族のオスが、傷を治し、そこに立ち上がっていた。ウェルスによって切断された腕は、黒い影が代替となっており、その腕にも目玉が大量についている。


「まさか、わしのグリムを食ったのか……!」

「違う。ヤツは元々、力を隠してただけだ。たぶん」

「……無駄だ。また、切り刻む楽しみが出来ただけに過ぎない」


 ウェルスはそう言って、再びその剣で斬りかかるが、その剣を、侵食者はその影の腕で、受け止めた。かと思えば、ウェルスの剣が黒く染まっていき、それと繋がるウェルスの手まで侵食が迫るが、直前でウェルスは剣を諦めて、手を離した。

 そのウェルスに、侵食者はウェルスの剣を投げつける。ウェルスは回避をし、地面に突き刺さるが、その剣がおかしい。

 黒く染まったその剣に、目玉が一つ、姿を現した。同時に生えてきた影が、手足の形となり、剣が立ち上がるという、奇妙な現象に遭遇する。

 その、立ち上がった剣が、ウェルスに襲い掛かった。剣先をウェルスに向けると、凄いスピードでウェルスに迫り、その頬を掠める。かと思いきや、触手で地面を擦り、停止。方向転換をし、再びウェルスに突撃をする。ヤツのターゲットは、完全にウェルスに絞られている。武器を持たないウェルスでは、対処しきれないだろう。

 オレは、そんなウェルスに向かい、刀を投げつけた。ウェルスはくしくも、二つの武器に挟み撃ちにされ、逃げ場を失ってしまう。


「使え!」


 一応、声を掛けておいて、こちらの意図を伝えておく。別に、悪気があってこういう形になってしまった訳じゃない。

 しかし、ウェルスはこちらを見向きもしない。が、目も向けずに、オレが投げつけた刀を掴むと、襲い来る剣の化物を、手にしたその刀で受け止めた。


「まさか、自分の武器に襲われる事になるとはな。しばらく、借りておくぞ」

「そっちは任せた」

「しかし、お兄ちゃんが手ぶらになってしまったが、良いのか?」

「いいさ。今のオレに、武器は必要ない。ドレッドフォーウォール」


 オレは、自らに魔法をかけた。それは、一定時間内、全てのステータスを上昇させる、上級魔法だ。


「ラインフェルト。シェラレッド」


 更に、続けざまに魔法を発動させる。自分の動きを早くする魔法と、魔法剣を生み出す魔法。コレにより、オレは右手に赤い剣を手にし、手ぶらではなくなった。


「なんじゃ、その魔法は……!」


 魔法使いのテレスは、オレが続けざまに使用した魔法に、驚愕する。先ほど放ったデルソラーテの影響か、テレスにその身を支えられているが、これらを見てちょと元気が戻ってきたよう。


「トールキュア」


 オレは、そんなテレスに、グリムの回復魔法を放った。すると、みるみる内にテレスの顔色はよくなり、元気になる。


「お兄ちゃん……お主は……!」

「時間がない。一気に決めるぞ」


 テレスの頭を撫でて、オレは侵食者に斬りかかった。

 それは、一瞬の出来事だ。オレの、シェラレッドによって呼び出された赤い剣が、侵食者の胴を、横に真っ二つに切り裂いた。だが、侵食者はオレの動きに身体がついてこないだけで、その目はオレを追っていた。確実に、ついてきている。

 直後に、真っ二つに分かれたはずの胴を、影が修復。同時に、先端を尖らせた影が体中から飛び出してきて、オレに襲い掛かってきた。

 オレはそれらを、侵食者の周りを飛び回って回避。オレがほんの0.1秒前までいた場所は、次々に粉砕されて、穴ぼこだらけになっていく。


『ラ。ギ』


 トンキ族の、右目についた影の部分が、喋った。侵食者の、魔法が発動する。

 いきなり、オレの身体に凄い重力がのしかかった。コレは、グラビティバインドだ。それも、とびきり威力が高い。オレに押しかかる重力は、地面を凹ませるほどの威力となり、そこへ四方から影の槍が襲い掛かってくる。


「イオニックコース」


 頭上から、いくつもの、光り輝く剣が落ちてきて、オレに迫る影を粉砕した。オレを囲うように円を作り、その剣達は地面に刺さると、ややあって、姿を消す。


「ルーンシングルアロー!」


 魔法の矢が、オレに重力をかける侵食者に向かって放たれた。放ったのは、テレスだ。

 更に、同時にティアが空を飛び、トンキ族の顔面に張り付いた影の部分を狙う。


「漆黒・災禍」


 スキルを放つティアだが、侵食者を両断する事には、成功する。しかし、侵食者はすぐに再生。そこへテレスの放った矢が突き刺さるが、飲み込まれて姿を消してしまう。

 横槍をさしてきた二名に、侵食者は目玉をぎょろぎょろと動かして睨みつけ、何かをしようとするが、そうさせない。


「フォースインパクト」


 オレは、剣に魔法をかけた。次のオレから放たれる剣の一撃は、全てを消し飛ばす、魔法の一撃となる。

 魔法をかけた瞬間に、侵食者の注意は全て、こちらを向いた。先程のティアとテレスの波状攻撃より、グラビティバインドは中断されているので、動きは元に戻っている。本来の動きを取り戻しているオレは、侵食者の顔面に向かい、剣を振りぬいた。


『ギョ。レ』


 侵食者は、苦し紛れにプロシィウォールを放ってきたようだが、そんなのは関係ない。それごと打ち砕いたオレの一撃は、侵食者の上半身を飲み込み、跡形もなく消し飛ばした。その威力は想像よりも凄まじく、壁も削って巻き込んでしまったが、誰も巻き込んではいない。コレはちょっと、さすがに地下で放つような魔法じゃないな。ゲームと違い、破壊不能オブジェじゃないんだ。気をつけよう。


「やったのか!?」


 テレスがオレに駆け寄ってきて、オレの背後に隠れながら、下半身だけになった侵食者を見て言う。その下半身は、やがて倒れると、黒い液体となって、その場に染みを作った。

 ウェルスの方も、同じだ。ウェルスの剣についた影は、その場に黒い染みを残し、元の宝石の散りばめられた剣に戻っている。


「……勝ったみたい、だな」


 いまいち、パッとしないが、多分そういう事だ。


「や、やりおった……!あの、侵食者を、倒しおった……お兄ちゃん、自分が何をしてのけたか、分かるか?」

「……いや。まだだ」


 オレは、気配を感じて、振り返った。そこに、蠢く影がいる。傍には、オレ達の戦いの様子を見守っていた、トンキ族のオス。蠢く影は、その足元に忍び寄り、その意図は多分、身体の乗っ取りだ。

 すぐに武器を構えるが、ここからでは間に合わない。魔法を放つにも、彼らを巻き込んでしまうだろう。せっかく、勝利だと思ったのに、ここに来てそれはない。


「この卑しい姿の者が、世界を破滅させるなど、信じられないな」


 そう言って颯爽と姿を現した人物は、その侵食者に剣を突き立て、動きを封じた。しかし、侵食者はすぐに剣から逃れると、彼女から離れ、その姿を現す。地面から伸びてきた影は、子供の人間のような姿となる。その体中に、目玉をはびこらせ、ぎょろぎょろとあたりを見渡す。


「コレで、最後なのだな?レイス」

「……ああ。間違いなく、そいつを倒して、お前の悲願は達成だ」

「了解した」


 姿を現した人物は、銀色の髪の、少女。幼げながら、超がつくほどの美人。他を威圧するような目つきは、人を中々寄せ付けない、強烈な眼差しだ。その目つきは、まさしく、大人セレスの物と同じ。今のセレスも十分魅力的だが、今はそれが嬉しい。


『ギョ。ル。レ。テ……ヤ、メ、テ』


 侵食者が初めて、人の言葉を喋った。その上、子供のような声で。

 その姑息さに、オレはあきれ返った。たぶん、セレスも。ため息を吐いて、くだらない物を見るような目を向けている。そこに、情は一切わかない。


「終わりだ。侵食者。レーヴァテイン」


 セレスは、止めの一撃を、侵食者に放った。


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