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お互い様


 オレの刀は、横から飛び出してきた短刀に、妨げられた。防いだのは、ティア。目を丸くするテレスだが、自分がオレに、何をされようとしていたのかをすぐに理解し、ティアの後ろへ回り込んだ。


「ご主人様!お下がりください!」


 ティアに凄まれて、オレは慌てて下がる。オレは今、確実にテレスを殺そうとした。それは、無意識下で行われた行為であり、本心ではない。しかし、間違いなくオレがした事だ。


「くっ!」


 頭が、痛い。怪我だらけの身体は痛くないのに、頭だけが、痛む。


「げほうっ!!」


 ティアが、突然おかしな声を出して、吐き出した。呆然とするオレとテレスだが、思い当たる節がある。


「おまえ……飲んだのか……?」


 オレが渡した、テレスの魔法薬を。


「……ええ、飲みましたとも」


 口を腕で拭いながら、グロッキーなティアが肯定。

 お前、すげぇよ。アレを、飲んだとか、勇者だよ。渡して、飲むように言っておいてなんだけど、賞賛するしかない。


「記憶は!?記憶は、どうなのじゃ!?」

「少しずつ、ですが……ぼんやりとした記憶が、蘇ってきています。しかし……自分が死ぬ感触というのは、あまりいい物ではありませんね」

「ティア……!」


 ティアが死んだのは、リバイズドアレータで飛ぶ前の世界の話だ。ティアが、それを口にしたということは、つまり、思い出したという事に他ならない。


「かっはっはっは!どうやら、成功したようじゃのう!して、ティア。何か、言う事があるのではないか?」

「その前に、テレス様はたった今、私に命を救われたのでは?」

「ぐっ……では、お互い様と言う事で……」


 ティアも頷いて、交渉は成立。オレはその様子を見て、笑った。


「ですが、私は自分のした罪を、ごまかすつもりはありません。ご主人様達を裏切り、リリード様に情報を流していたのは、事実。それは、生まれ変わる前の世界でも、同じです。弁明の余地もありません」

「そんなの、どうでもいい。オレを止めてくれて、ありがとう、ティア。オレは、もしテレスを殺してしまったら、自殺してただろう。お前は、オレと、テレスの命を同時に救ってくれたんだ。そんで、今現在もけっこう、そういう衝動に駆られてる。どうすればいいと思う?」

「妙に軽いのう、お兄ちゃん……次わしに襲い掛かったら、全身吹き飛ばすぞ、覚悟せい」


 テレスにそう言われて睨まれるが、オレだってこう見えて、けっこう頑張って抑え込んでいるんだ。もっと優しくして欲しいもんだね。


「冗談はさておき、お兄ちゃんはティアに見張らせておくとして……兄上達の決着がついたようじゃのう」

「そうみたいだな」


 助けたくなってしまうので、なるべく見ないようにしていた。あの子は、ウェルスに徹底的に切り刻まれ、身体は倒れ、ウェルスはあの子に剣を突き立てる。


『ギョ。ラ……』


 力なく言葉を発するあの子に、オレは目を背け、拳を握った。そんなオレを、ティアが背後から抱きしめてきて、身体を締め付けてくる。照れ臭いが、抵抗はしない。今は、コレがないと自分が壊れてしまいそうで怖い。


「……勝ったのか?」

「いや、まだじゃ。兄上。それを微塵に吹き飛ばす故、少しそのままにしておれ」


 そう言って、テレスが詠唱を始める。それは、外の強力なバリアをも吹き飛ばした魔法、デルソラーテである。


「では、私はもう少し、コレを痛めつけるとしよう」


 ウェルスが、剣をあの子に向かって振り上げる。

 しかし、オレはその先の光景を見ることは出来なかった。視界が、真っ暗になる。ティアがオレの目に手を当てて、視界を隠してきたのだ。


『おい』


 暗闇の向こうから、声が聞こえてきた。

 声のほうへ行くと、段々と人影がハッキリとしてきて、その後姿を捉える。


『……よう』


 オレを、振り返るその人物。それは、かつての、ゲームの中のオレだ。2メートルはある巨体。だが、身体は細く、スリムな体つき。耳は長く、肌は浅黒い。身に着けている装備も、ゲームの中のオレそのもの。


『あんたは……』

『見れば分かるだろう。お前だよ』

『マジか』

『マジだ』


 オレは、その姿に心をときめかせた。目を輝かせ、全身くまなく観察をする。


『待て待て。今は、それどころじゃない。お前は、消えかかっている、分かってんのか?』

『……分かってるさ。だけど、そうなる前にオレは死ぬ。もう、覚悟は決まった』

『ちっ』


 オレの返答に、オレは舌打ちして頭をかいて、目を伏せた。

 オレはもう、テレスに斬りかかってしまい、ティアに攻撃と止められた段階で、決めていた。壊れていくオレの心を止めるには、それしかない。


『オレも、タニャの事を悪くは言えないよな』

『全くだ。オレも短絡的な人間だと、つくづく思うよ。だが、ちょっと待て。よく考えてみろ。オレとお前が、こうして会話をしている。お前の目の前にいるのは、最強の魔術師の、オレ。どうかしてもらおうとは、思わないのか?いや、どうにかできると、思わないか?』

『え。できんの?』

『たく、コレだから……お前、自分が死んだ理由もよく分かってないだろう』

『……心臓麻痺?』

『違う。お前の世界は、侵食者によって、飲み込まれたんだよ。で、全員死んだ。めでたしめでたし』

『はぁ!?オレの世界も!?』

『そうだよ。だけど、今はその事について離している暇はない。アレを、止めるぞ』


 ゲームのオレが目を向いたのは、蠢く影。目玉がたくさんついた、気持ちの悪い存在。侵食者だ。何故か、それがここにいる。

 元いた世界が、侵食者に滅ぼされていたという、ショッキングな情報にショックを受けている場合ではない。


『お前とは、お前が世界の穴を覗いたことで、繋がる事ができた。それが、連中にとって、最大限に誤算に近いだろうな。とはいえ、繋がっていられる時間は、たぶんそんなに長くはない。だから、短期戦でしとめろ。弱っているとはいえ、アレは、強い。分かったら、もう行け。ティアの胸の感触は心地良いが、ずっとそうしている訳にもいかない』

『あんたが力を貸してくれるなら、余裕だろ。あんたの強さは、オレが一番よーく知ってる』

『そうだろうな。んじゃ、もう行け。お前の心の中に潜んだアレは、オレに任せろ。お前は、侵食者を倒すことだけに、集中するんだ』


 唐突に、目が覚めた。

 オレは、目を塞ぐティアの手を取り、その手をどかせる。若干抵抗されたが、意地でどかすと解いてくれた。


「心配かけたな、ティア。もう、大丈夫だ」

「……ご主人様。髪が」

「ん?」


 自分では見る事ができないが、多分、白いのが進行している。オレも、白いトンキ族のような姿になっているんだろうな。だけど、ハゲるよりはかなりマシ。


「あの、気持ちの悪い化物を殺すぞ。ティア。テレス」

「かっはっは!勿論じゃ、お兄ちゃん!行くぞ、兄上!デルソラーテ!」


 テレスの呼びかけに、ウェルスは下がり、侵食者へと光の塊が向かっていき、弾ける。

 辺りは、眩い光に包まれた。


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