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ゴミを見るような目


「可愛い、あの子のために、邪魔は絶対にさせない!例え、ナーヤ様だろうと、例え、お姉ちゃんでも!」


 レーニャはそう言い、ナーヤに突き刺さったナイフを引き抜くと、次はタニャに襲い掛かる。タニャは、茫然自失としていて、何の構えも見せない。ただ、襲い来るレーニャのナイフを、眺めるだけだ。

 そんなタニャを庇うように、ウェルスがレーニャのナイフを、剣で弾き飛ばした。

 そちらは、ウェルスに任せて、オレは、倒れこもうとするナーヤを受け止めて、腕に抱く。


「ナーヤ!しっかりしろ!」

「……レイス……レーニャは、違う。レーニャじゃ、ない……」

「喋るな!」


 オレは、上着を脱ぎ捨てて、出血を止めるため、ナーヤの傷口に強く押し当てた。しかし、血は止まらない。このままでは、ナーヤが死んでしまう。そんなのは、嫌だ。絶対に、嫌だ。


「ナーヤ様……!」

「手を貸してくれ!誰か、医療系の魔術を使えるヤツはいるか!?魔術じゃなくてもいい!医療の知識を持ったヤツは、いないのか!」


 呆然としていたのは、タニャだけではない。その周りの、トンキ族の少女達もだ。目の前の光景に、頭の処理が追いつかず、フリーズしている。だから、オレは大きな声で怒鳴りつけて、指示を飛ばす。


「ルゥラが、確か風の回復魔法が使えた気が……」

「早く呼んで来い!それから、なるべく清潔な布を用意しろ!ナーヤの出血を止めるんだ!早くしろ!」

「は、はい!」


 慌てて駆けて行くトンキ族の少女。残った少女達は、指示通りの布を準備してくれて、ようやく動き始めた。


「……レイス」

「ナーヤ……!絶対に、死ぬな……!頼むから、約束をしてくれ!」

「……」


 ナーヤは、冷や汗の出る、苦しそうな顔で、困ったように笑って見せた。それが、肯定の意味だったかどうかは分からないが、オレは、肯定と取る。傷口を押さえる手を、トンキ族の少女に渡し、ナーヤを彼女達に任せ、リリード氏を睨みつけた。


「レーニャに、何をした……!」

「いやぁ……感動の再会が、まさかの結果となってしまった。残念だ。だが、最高に面白いショーだな。傑作だよ。せっかく助けに来たのに、殺されてしまって、可愛そうに。心から、同情をする」

「……ウェルス!殺すなよ!」

「簡単に言うが……」


 ウェルスは、決して苦戦している訳ではない。むしろ、圧倒している。だが、レーニャは何をしても、その闘志を失わない。ウェルスが、剣の腹で足腰を叩きつけても、レーニャは立ち上がり、ウェルスに立ち向かう。外の、イカれた連中と、全く同じだ。死ぬまで、止まりそうにない。一体、何が彼女をそうさせているというのだ。


「あああああぁあぁぁあっぁぁ!」

「っ……!」


 レーニャを傷つけられないウェルスが、レーニャの反撃で、手に噛み付かれてしまった。篭手の、鎧で覆われていない部分をだ。

 深くめり込んだ歯は、手を噛み千切らんとするような力で、食い込んでいる。

 ウェルスは、レーニャが手に噛み付いたまま、手を高く上げた。レーニャは真っ逆さまになり、空に舞い上がる。それでも、歯は離さない。ウェルスはそんなレーニャごと、腕を振り下ろした。


「がっはっ……!」


 レーニャは、地面に打ち付けられた。それにより、レーニャの歯が、ウェルスの手から外れる事になる。


「ひっ、くっ……!」


 背中を強く打ちつけられたレーニャは、一時的な、麻痺をおこしている。起き上がろうとしているのだろうが、身体が上手く動かずに、地面を這って立ち上がれない。


「取り押さえろ」


 ウェルスの指示に、トンキ族の少女達が従う。一斉に、レーニャに飛び掛り、その四肢を取り押さえつける。更には、その口の中に布を突っ込み、噛み突きを抑制。


「ご、ごめんね、レーニャ……!」


 申し訳なさそうにする少女達だが、仕方ない。そうしないと、レーニャはいつまでもオレ達に襲い掛かってくる。


「んんんんんうぅぅぅぅぅぅ!」


 身体の麻痺が回復してきたレーニャは、早速暴れ始める。だが、四肢はそれぞれ押さえつけられて、全く動くことができないようだ。頭もおさえられているので、これでは自死も難しい。


「年端も行かぬ女の子を、大勢でよってたかって拘束をするとは、なんとも嘆かわしい」

「黙れ、リリード……もう一度聞く!レーニャに何をした!」

「私は、何もしていない。コレは、その娘がそうしたくて、やっている事だよ」

「ふざけるんじゃねぇ!お前ら全員、何がしたくて、こんなヤツに従ってる!リリードに何をされたのか、誰か答えろ!」


 大勢いる魔術師達に向かって叫ぶが、誰も答えない。これだけの人数がいて、誰一人として、何も喋らず、ただそこに突っ立て入る光景は、異常としか言いようがない。息すらしていないんじゃないかと思うくらい、静まり返っている。


「皆、一丸となって、可愛いあの子を助けるために、頑張っているだけだ」

「その、可愛いあの子とは、誰の事を言っている!」


 レーニャも、イカれた兵士も、同じ事を言っていて、気にはなっていた。可愛いあの子のためとか、どうとか。


「穴の向こうの、あの子だよ!」


 穴……もしかして、可愛いあの子とは、侵食者の事を示しているのか?だとしたら、こいつらは侵食者を、見たと言うのだろうか。とてもではないが、アレを可愛いとは感じられないのだが、そうだとしたら、全員の趣味を疑うね。


「お前が、レーニャを!」


 それまで呆然としていたタニャが、突然リリードに向かい、突撃を仕掛けた。


「待て、タニャ!」


 そう来ると思って、オレはタニャの腕を掴むことに成功する。


「離して、ください、レイスさん!アイツが、レーニャをおかしくして、ナーヤ様を傷つけさせたんです!許せない!絶対に、許せない!」


 怒りに感情を染めながら、涙を流すタニャ。そこに、理性はない。ただ、感情に行動を委ねただけで、その行動には理性がない。


「分かってる!だからこそ、落ち着け!」

「許せない!あの男は、殺す!」

「……」


 オレは、そんなタニャの頬を、平手で殴り飛ばしてやった。乾いた音が響き、タニャの頬が赤く染まる。


「お前は!責任をとって、勝手に自殺したり、行動が勝手過ぎる上に、考えが短絡過ぎるんだよ!」

「何の、事を……」


 それは、リバイズドアレータで飛ぶ前の話。今のタニャには、全く通じない話だ。

 そして、オレはそのタニャに、笑いかけて、その手を離す。その手を代わりに、頭に手を乗せてやる。タニャの方が背が高いので、ちょっと伸ばして格好がつかないが、そうしてやった。

 次の瞬間、オレはリリードに向かって駆け出した。タニャの代わりに、リリードを殺すため、突撃を仕掛けたのだ。

 敵の、動きは何もない。オレは、階段を駆け上がりながら、てっぺんでオレを見下ろしているリリードに対して、魔法を放つ。


「ルーンシングルアロー!」


 魔法の矢が、リリード氏に向かって飛んでいく。しかし、それはリリードに届かず、空中で透明な壁にぶつかり、消滅した。リリードは、怪しげに光る、右手につけた指輪を掲げている。それは、乳白色に輝く、大きな宝石がつけられた、魔道具だ。それが、何らかの効果を発揮させ、そうさせた。


「リーチファイア!」


 更にオレは、刀を抜き、刀に炎の強化魔法を宿す。刀は炎を帯び、熱く燃える。

 階段を駆け上がるオレの足跡を残すように、炎は残像を残し、その軌跡を残した。


「リリードオォォォォ!」


 階段のてっぺんは、すぐそこだ。オレは、叫びながら、リリードに炎を宿した刀を、振り下ろした。

 その刀も、透明な壁によって止められる。どうやら指輪が、透明なバリアを張っているようだ。それは、物理的な攻撃も、魔術的な攻撃も防ぐ物だと分かった。


「感情任せになるのは、よくない。君達は先ほど、もう私達を襲わないと、約束をしたはずではなかったかね?」

「オレは、そんな約束をしていない!」

「屁理屈を。約束は、守らないとダメだよ」


 リリードはそう言って、反対側の手につけられた、指輪をかざしてくる。今度は、黒い宝石。それが光を放つと、そこからいくつもの黒い手が伸びてきて、オレに襲い掛かってくる。


「プロシィウォール!」


 咄嗟に、回避と防御行動を取るが、手の数が多い。防ぎきれず、オレはその手に身体を掴まれ、空中に放り投げられてしまった。

 ヤバイ。祭壇は、それなりの高さだ。そんな所から放り投げられて、地面に激突をしてみろ。絶対に死ぬ。

 そんな、命の危険を感じる高さを、真っ逆さまになりながら、階段を駆け上がっていく人物を見た。ウェルスだ。飛ばされていくオレの代わりに、ウェルスが突貫をかけていく。

 オレを助けてくれるつもりは、毛頭なさそうなのに、若干の寂しさを感じる。別に、ウェルスになんか助けてもらいたくはないものの、オレ、何かしなければ死ぬぞ。

 そんなオレと並び、短剣が飛んでいた。それは、七の霊剣。ナーヤの武器である。


「ナーヤ……!」


 オレは、その短剣を掴み取った。すると、短剣がオレを引っ張り、落下速度を軽減させてくれる。ナーヤが、レアードベルによって短剣を操る事により、オレを助けようとしてくれているのだ。だが、人一人を支えきれる力はないようで、その勢いは止まらない。ナーヤもそれは分かっているようで、地面に当たる直前で、短剣は横へ滑るように、進路を変えた。その瞬間に、オレは手を離す。

 オレは、地面を転がり、その先に構えていたタニャに身体を抱きとめられて、ようやく止まる事ができた。


「いってぇ……けど、助かった、ナーヤ、タニャ!」


 すぐに起き上がり、横になってトンキ族の少女達に囲まれているナーヤに向かって、礼を叫んでおく。


「私には頬を叩いて止めておいて、自分だけ突撃とか、かっこつけるのはやめてください!」


 タニャはオレを助けておいて、胸倉を掴んで、軽く顔面パンチを食らわせてきた。本当に軽かったので、全く痛くはない。形ばかりの、仕返しだ。


「お前が、短絡的で感情的なのが、悪い」

「んなっ!」

「ナーヤと、レーニャの傍にいてやれ。レーニャは、なんとかして目を覚まさせる方法を考えよう。ナーヤは、絶対に死なせるな。あんなクソ野朗の思い通りになんて、絶対にさせてやるんじゃない」


 そう言って、オレは立ち上がり、リリードを睨みつける。

 リリードは、黒い手で、ウェルスと応戦を繰り広げていた。いくつもの黒い手が、ウェルスによって切り刻まれ、消滅する。しかし、その度に、新たな手がウェルスに襲い掛かり、リリードに攻撃を仕掛けるスキがない。例え、そんな隙があったとしても、そこには透明な壁がある。

 そちらへ目を向けている間に、ナーヤ達の方で、どよめきが起こった。見ると、何名かのトンキ族の少女が倒れていて、ナーヤがとある人物に羽交い絞めにされ、短刀を喉元に突きつけられている。


「う……」


 深手を負っているナーヤは、なす術がない。苦しげに呻くだけで、反応は薄い。早く、治療をしてやらないといけないのに、そこに、そんな乱暴に扱われたら、本当に死んでしまう。


「剣を、収めてください。ウェルス様。ご主人様」


 メイド服を身に纏い、ゴミを見るような目の、その人物は、ナーヤに短刀を突きつけて、脅迫するように、そう迫る。

 オレは、一体何が起こっているのか分からなくなり、思考が停止した。


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