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防御紋

 熱風が、オレとナーヤを襲った。しかし、どうにか爆発は防ぐことができたようで、オレのプロシィウォールも捨てた物ではない。

 一方で、魔法を放ってきた魔術師は、オレの魔法の矢が刺さり、血を吐きながらこちらを睨んでいる。まだ、生きているようだが、アレでは魔法も使えまい。


「……良い匂い」


 そう言って、抱き寄せていたナーヤが、呑気にもオレの身体に顔をこすり付けて、匂いを嗅いでくる。


「あの、ナーヤさん、離してください」

「……」


 オレが声を掛けると、おとなしく離れてくれるが、その顔は何故か、名残惜しそう。


「おい!」


 オレ達に、魔法を放ってきた魔術師の首が、地面に落ちた。それをしたのは、その背後に立つ、ウェルスだ。首を、その宝石の散りばめられた剣で、切り落として殺した。


「コイツら、死ぬまで抵抗するつもりだぞ。しっかり、トドメをさせ!」

「んな事、言われなくても分かってる!それより、一人で突っ込みすぎだし、あの兵士達はなんだ!ナーヤ達がいなかったら、押し負けてたぞ!?」


 オレは、抗議をしながらウェルスに駆け寄った。ナーヤも、そんなオレについて来る。


「半数以上が、寄せ集めの兵士達だ。アレらに、囮以上の活躍を期待しない方がいい。それより、こちらは終わったぞ」


 ウェルスの、その向こう。施設の入り口側は、既に決着がついていた。

 先に突撃していた、ウェルスと、一部の兵士達の、勝利である。しかし、その現場は、血で溢れた、凄惨な状況だった。施設の警備兵は、全滅だ。皆殺しにされ、死体の山となって、地面に転がっている。


「っ……!」


 分かってる。そうしなければ、コイツらは、最後まで抵抗をしてくる。だけど、その光景は、あまりにも酷い。


「ナーヤ様!大方の大勢はつきま、した……!」


 報告に、ナーヤに駆け寄る、一際背の高い、フードを被った少女。タニャだった。よく見なくても、背で分かってしまう。

 ナーヤに報告にきて、その現場を見たタニャは、言葉を詰まらせた。

 しかし、振り返れば、自分達のした事も、同じだ。相手が抵抗してくるので、殺すしかない。違いは、死体が多いか、少ないかの違いだけ。


「中に入るぞ!」

「何をイラだっている。コレは、戦争だ。連中は、正気じゃない。殺すしかない」

「ウェルス」

「どうした?ナーヤ」


 ナーヤに話しかけられ、ウェルスは嬉しそうだ。優しく微笑み、ナーヤに答える。


「レイスの感じているイラだちは、大切な物」

「……そうだね、ナーヤ。だが今は、その甘さは捨てろ。優しさを見せれば、ヤツら、噛み付いてくるぞ」

「……分かってる」


 オレは、そう答えて、自分の頬を、左右同時に掌で叩く。ヒリヒリとした痛みが、オレの頭の切り替えを促した。


「レーニャを、早く助けてやろう」

「タニャ!皆を集めて!施設に、入る!」

「はい!」

「私も行くぞ。ここは、部下に任せておくとする」


 施設の中の道は、狭い。大勢で押し寄せても無駄だ。ならば、少数精鋭で入ったほうが、効率が良い。

 タニャが集めた、トンキ族の少女達と、ウェルスも加わって、オレ達は施設へ突入をした。しかし、そこはもぬけの殻で、不気味なくらい静まり返っている。外にいた警備兵と、魔術師が全てとも思えない。オレ達は、奇襲を警戒し、慎重に進まざるを得なかった。

 しかし、その心配も杞憂に終わる。この施設の地上階に、敵はいない。となれば、残りの戦力は、全て地下に集中させているようだ。


「おい、レイス。地下への道は、どこだ。本当に、そんな物があるのか?」

「あるさ。お前の後ろにな」


 オレ達が辿り着いたのは、何の変哲もない、一室。本が壁一面に並べられた、資料室のような部屋だ。あの時は、暗がりでよく見えなかったし、散らかっていて何の部屋だか分からなかったが、場所的に、間違いなくここがそうだ。


「この、本棚の裏に、あると言うのか?」

「そうだ」


 オレは頷いて、適当にその壁となっている本を触り、何か仕掛けがないかを探してみる。ナーヤ達トンキ族も、同じように探してくれるが、特に怪しいものは何も見つからない。時間も惜しいので、本棚を丸ごと引き倒し、壁を露出させようとするが、棚そのものが壁となっているようで、倒す事はできなかった。


「じれったい。私が、スキルで風穴をあけてやろう」


 手がかりがないんじゃ、それしかない。ここは、ウェルスに任せて、オレ達は離れる事にする。

 ウェルスが、壁に向かい、剣を真っ直ぐに突き立て、構えた。シルフが剣に集中し、剣が光りを纏い、辺りを神々しく照らすと共に、風が巻き起こる。


「シャインブレード!」


 シルフが具現化し、大きな光の剣の形を成した。それが、壁に向かって放たれる。

 しかし、それが壁にぶつかる事はなかった。棚にぶつかる直前で、空中に紫色に輝く紋章が出現し、その光の剣を、受け止めたのだ。予想外の出来事に、ウェルスは舌打ちをしながらも、光の剣の威力を高める。しかし、結局、押し切る事はできなかった。光の剣は突然霧散し、出現した紋章も、姿を消す。紋章の壁を、打ち破った訳ではない。シャインブレードが消えたので、姿を消しただけで、紋章はまだ、そこにある。


「防衛紋……!首都の、宝物庫並の代物だぞ!」


 それは、金庫の扉みたいな物だ。重要な施設に、カギとして設置されていて、そのカギは特定のグリムを持つ者そのものとなる。簡単に言えば、術者が自分自身をカギとし、自分の意思で扉を開け閉めできる物という訳だ。


「ウェルス。開ける方法は!?」

「……魔術解析のプロを呼べば、開く事は可能だ。しかし……時間がかかりすぎる。どんなに早くとも、解析に十年はかかるだろう」

「じゅ……!」


 それは、絶望的に長すぎる年月だ。話にならない。


「レイス」


 ナーヤが、心配そうな表情で、オレの裾を引っ張ってくる。

 どうする。地面をほじくり返すか。いや、重機のないこの世界にとって、それは人手と時間がかかりすぎる。たとえ重機があったとしても、かかりすぎる。

 ……待てよ。ゲームの世界にも、防衛紋は、あった。それを、オレはどうやって開いた?答えは、ミニゲームをこなす、だ。扉を調べると、別画面が開き、バラバラの線をつないで、スタート地点からゴール地点まで、上手く繋がるようにする、ゲームが始まる。けっこう簡単ではあるものの、パターンはそれぞれで違うため、時間がかかる時は10分程はかかってたっけかな。

 オレは、心配そうに見守るナーヤをよそに、今は何もない、防衛紋が浮かび上がった場所に、手を触れた。特に、何も起こらない。次は、そのまま目を閉じてみる。


「ぐっ!?」


 暗闇の向こうに、何かが見えて、思わず目を開いてしまう。


「レイス!?」

「大丈夫だ。少しの間、静かにしていてくれ」


 心配してくれたナーヤをよそに、オレは再び、目を閉じる。再び、暗闇の向こうに、何かが浮かび上がってきた。集中して、それをよく見てみる。それは、線だ。バラバラの線には、見覚えがある。それが、オレの意思に従い、一本一本が繋がって、その先の光への道筋を作っていく。このパターンは、オレの得意な形であるため、割と早く出来上がったと思う。最後の一本をつなぎ終わり、目を開く。

 防衛紋が、目の前に浮かび上がると、色が変わる。紫色から、赤色への変化だ。すると、今までそこにあった壁が、本ごと消滅。地下への階段が、出現した。


「貴様、魔術解析ができるのか……しかも、この速さは……!」

「何かよく分かんないけど、できちゃった」


 オレが、そう言った瞬間だった。

 地下へ続く階段の下の方が、一瞬、光ったのが見えた。それが、何なのかを理解する前に、オレは顔をそむける。それは、オレの頬をわずかに掠めて、後ろにいたウェルスに向かうが、ウェルスはそれを、糸も簡単に片手で受け止めて投げ捨てる。

 捨てられたのは、矢だった。オレの頬から、先ほど掠った矢の傷口から、血が垂れてくる。

 あぶねぇ……。避けてなったら、額に風穴があくところだったぞ。


「敵だ。私が先陣をきる」


 ウェルスは、そう言って階段を駆け下りていく。その際に、こちらに向かって流れ弾の、弓矢が飛んできたので、オレは慌てて退避した。


「私達も、続く」


 矢の勢いが弱まった所で、オレ達も階段を駆け下りていく。その先は、石の柱が並ぶ、空間。数人の兵士の死体が転がっていて、ウェルスは最後の一人に止めを刺すところだった。


「不気味な場所だ。怨嗟の声が染み付いて、それが生者を飲み込もうとしている」


 止めを刺しながらいうウェルスの言葉の意味は、オレには分からない。だが、不気味な場所だという感想には、同意だ。感じる空気が、外のそれとは明らかに違う。

 トンキ族の少女達もそれを感じ、階段を下りる際に、戸惑った様子を見せる者がいたくらいだ。オレも、初めてこの階段を下りるときは、戸惑い、帰ろうとかと思ったくらいだから、気持ちはよく分かる。


「急ごう!レーニャは近いぞ!」


 オレは、先陣を切って、先を行こうとする。


「レイス!前を見て!」


 ナーヤが、叫んだ。しかし、反応しきれない。オレは、暗がりに潜んでいた、何か巨大な物に掴まれて、壁に押し付けられてしまった。

 気づけば、眼前に、大きな拳が迫っている。


「止めて、グレド!」


 ナーヤが叫ぶと、拳はオレの顔面を砕く直前で、止まった。


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