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開戦

 時間にしたら、十分程の、静寂が訪れる。静寂の中心にいるのは、テレスだ。邪魔をする者はいない。テレスは悠々自適と、その詠唱を終えると、その右手を、壁に向けた。


「ゆくぞ、お兄ちゃん!」

「おう」


 テレスのグリムが、放たれる。そのグリムの量は、ラングールエンドゲージを発動させている彼らを、優に超えている。


「デルソラーテ」


 テレスの魔法が、発動した。それは、ラングールエンドゲージを遥かに超える、古代魔法の中でも、更に上位の魔法だ。

 テレスの右手から、小さな白い光の玉が生まれた。それが、ふわふわと空を飛び、やがて、壁にぶち当たる。瞬間に、その光が、一際大きな光を放った。同時に、物凄い風が巻き起こり、風と光で周囲は吹き飛び、兵士達はパニックに陥る事になる。

 目が、光に当てられた事により、慣れるまで時間がかかった。ゆっくりと目を開くと、そこに、白い壁はなくなっていた。代わりに、大きくえぐられた地面と、凄まじい風によって、一定方向にまとまって倒れた草達が目に入る。壁は、テレスの魔法が吹き飛ばし、穴をこじ開けたことにより、霧散したのだ。


「コレは……」


 その威力を目の当たりにしたウェルスが、驚愕の表情で、立ちすくんだ。

 オレも、この世界に来て、初めて目の前で見る魔法だ。その威力に驚きを隠せないでいる。


「さぁ。突撃じゃ」

「……突撃!」


 テレスに促されたウェルスの号令に、オレ達以上に呆然としていた兵士達が、一気に研究所へと流れ込んだ。しかし、その進行は、魔術師達の奥に待機していた、警備の兵士達により、とめられる。が、数ではこちらが圧倒している。抵抗は、わずかで、勢いがとめられただけに過ぎない。


「テレス」


 オレは、魔法を放ち終わり、突撃する兵士達に飲まれそうなテレスの元へ、駆け寄った。


「どうじゃった?わしの魔法は……と」


 テレスが突然、ふらりとバランスを崩し、倒れそうになる。オレは、慌てて駆け寄り、その肩を抱いて支えた。


「テレス!?どうした!?」

「かっはっは……。すまんのう。さすがに、この身体でこの魔法は、無理がすぎたわい。だが、道は開いたぞ」


 笑ってみせるテレスだが、明らかに無理をしている。額には冷や汗をかき、その身体が冷たくなっている。この小さな身体に、大きな負担をかけさせてしまった。


「ああ。少し、休んでろ。あとは、オレがやる」


 オレは、そういうと、研究所に突撃をしかけようとしていた兵士の一人の腕を掴み、引き寄せた。

 それは、偶然にも、最初にウェルスの居場所を尋ねた兵士だった。いまいちパッとしない、とろそうな男だが、この際いいだろう。


「え、あの……?」

「テレスの面倒を、見てろ」

「いや、でも突撃しないと」

「いいから、見てろ」


 兵士の胸倉を掴んで迫ると、兵士は慌てて縦に頷いて見せた。

 兵士にテレスを預けたオレも、兵士達と共に、施設へと流れ込む。しかし、施設の警備は、思った以上に、本気だった。


「魔法に備えろ!」


 グリムを感じ取ったオレが叫ぶ。前衛同士のぶつかり合いの向こうで、魔術師達が魔法の詠唱をしているのに気がついたから。

 しかし、遅い。前衛の兵士達が、炎にまかれ、吹き飛んだ。ラージウィルト……炎の、上位魔法である。コレにより、敵味方問わず、複数の兵士が死んだ。更に、爆発は複数にわたり、前衛の兵士達が吹き飛ばされていく姿を、目の当たりにする。

 ヤツらは、グリム炉を利用し、魔法を放ってくる。彼ら自身、相当なレベルの魔術師だとは思うが、ラージウィルトはそこまで連発できるような魔法じゃない。グリム炉が、彼らの力を、大きく支えている。

 そんな爆炎の中を、駆け抜ける兵士がいた。銀色の光をまとい、敵兵を切りつけ、一気に魔術師の集団の中へと紛れ込む。それは、ウェルスだ。ウェルスに続いて、他の兵士達もそのウェルスが開けた穴へ、吸い込まれるように突撃をする。


「うおぉぉあぁぁぁぁぁ!!」


 リリード氏側の兵士の抵抗は、熾烈だった。片手が吹っ飛んでもなお、抵抗をし、戦う。その姿に、あの日対峙した、白いトンキ族のオスが重なって見えた。


「こいつら……」


 その兵士は、ウェルスの兵士達の容赦のない剣で刺し殺され、死亡する。

 その、本来は味方であるはずの敵の姿に、ウェルスの兵士達は、動揺を隠せない。どうやら、ウェルスが連れて来た兵士達は、一枚岩ではない。一部の兵士を除けば、この戦いに迷いを感じ取り、全体に鈍りを生じさせている。

 そのため、せっかくウェルスが開けた穴は塞がれ、隊は分断されてしまった。むしろ、分断されたこちら側の兵士は、敵の気迫に負けて、押し返されるという体たらくである。


「ルーンシングルアロー!」


 その中で、オレは一歩も引かずに、敵兵に向かって魔法の矢を放った。その兵士は死に、更に別の兵士に向かって、矢を放つ。


「押し返せ!敵は少なく、びびる必要はない!」

「で、でも、彼らは、オレ達と同じ、ランデクリフトの兵士だ!できれば戦いたくない!」


 こんな、戦場の只中で、鼓舞をするオレに、わざわざ反論をしてくる兵士。まだ、若い。オレと、同じか、それ以下くらいの年の兵士だ。


「甘ったれるな!コレは、戦争だ!敵とか味方とか関係ない!殺すか、殺されるかだ!そして、負ければ自分の家族も、奴らに殺されると思って戦え!」


 オレは、その兵士の胸倉を掴み、頭突きを見舞いながら言ってやった。わずかにだが、兵士達に覇気が戻ってくる。しかし、一度後退を始めてしまった兵士達を、オレのような、指揮官でもなんでもない人間が鼓舞したところで、効果はたかが知れている。


「レイス」


 名前を呼ばれ、振り返る。そこにいたのは、フードを深く被った、ナーヤだった。その後ろには更に、大勢のフードを被った、トンキ族の少女達がいる。


「レイスがここにいる、という事は……?」

「ああ、失敗した。リリード氏はたぶん、この中だ」

「分かった……。私達が、道を開く」

「頼む。さっき、ウェルスが敵に突っ込んでいって、今は向こう側にいる。合流するまでの、道筋が欲しい」

「任せて」


 ナーヤ達の参戦によって、敵の前衛の兵士達が、蹴散らされていく。それに呼応するように、ようやくウェルスの兵士達も息を吹き返して、どうにか押し返していくことに成功。途中で、魔術師の攻撃により、多数の死者を再び出してしまったが、そうなってしまえば、あとは時間の問題だ。

 ナーヤが、短剣で、踊るように戦う。レアードベルを使うまでもなく、両手に一本ずつ持った短剣で、次々と、敵の急所を斬り付けて、致命傷を与えていく。


「アイスバインド!」


 ナーヤが攻撃を仕掛けようとした敵に、オレは魔法を放った。その敵兵の足元が、氷によって地面に繋ぎとめられて、動けなくなる。同時に、オレはその兵士に殴りかかった。


「があぁぁ!」


 何発も殴るが、ソイツは気絶する事を知らない。絶対に倒れずに、武器を手放さず、あくまで抵抗の意思を示してくる。


「レイス」


 ナーヤが、その兵士の武器を叩き落とし、そいつは丸腰の状態となった。そうなっても、歯を剥き出しにして、オレに殴りかかってこんとする勢いである。


「少し、待ってくれ」

「あああぁぁ!」


 魔法を解くと、そいつはオレに、殴りかかってきた。オレは、そいつの腕を掴むと、背負い投げで地面に叩きつけてやり、更に、地面に押さえつけて拘束してやった。こうなってしまっては、いくら抵抗の意思を示したところで、抵抗はできない。


「無駄だ!おとなしくろ!」

「離せっ!コロス!邪魔をするやつは、コロス!」


 目が、完全にイッている。瞳孔を開き、唾を撒き散らしながら叫ぶその兵士の様子を見て、ナーヤも少し、怯んだようだ。


「お前らは、どうしてここまでして、抵抗をする!」

「邪魔をするからだあああぁぁぁぁ!」

「何の、邪魔だ!」

「穴の向こうの、可愛そうなあの子を、一人ぼっちのあの子を、助けてあげないと、いけないぃ……!」


 聞いたところで、訳が分からなかった。だが、彼がでまかせを言っているようには、見えない。


「だから、だから……!邪魔をするお前達を、コロスっ……!あ、ああぁぁぁぁぁぁ!どけええぇぇぇぇぇ!」


 オレの拘束を解こうと、間接が外れても、必死に立ち上がろうとしてくる。それでも拘束が解けないとみるといなや、首を180度回転させ、恨めしそうにオレを真っ直ぐに睨みつけ、首の骨が折れたことにより、彼は死んだ。


「……普通じゃ、ない」

「ああ……」


 ナーヤが呟くが、今の一連のやりとりを見ていれば、誰でもそう思う。

 オレは、ゆっくりと、拘束を解く。彼は、最後まで、ハッキリとした憎悪の表情を浮かべ、死んでいる。その顔は、まだ動き出しそうなくらいの、迫力だ。


「ナーヤ、伏せろ!」

「……!」


 グリムを感知したオレは、叫んだ。ナーヤの後方で、こちらに向かい、魔法を詠唱している魔術師を見る。

 それは、ラージウィルトだ。

 オレは、ナーヤを抱き寄せると、魔術に向かって、手をかざす。


「ルーンシングルアロー!」

「ラージウィルト!」


 オレの魔法の矢が放たれるのと、ヤツの魔法の詠唱が完了したのは、ほぼ同時だった。双方の魔法が放たれて、オレ達には爆炎。ヤツには魔法の矢が襲い掛かる事になる。


「プロシィウォール!」


 続けて魔法の壁を張るが、正直オレの防御魔法は、大した事がない。ゲームでは、けっこう初期の方で覚えられる魔法だからな、コレ。

 なので、それに加え、オレはナーヤを自分の身で庇うようにし、抱き抱えた。


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