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 どうやらこの世界には、恥ずかしくなると顎を殴るという習慣があるらしい。短い間に二回も経験してるから、間違いないね。


「今のは、不可抗力。忘れて。そして、レーニャの居場所を教えて」

「無理」

「教えて」

「ダメ」

「レーニャは、私達にとって、大切な存在。お願いだから、教えて」

「絶対に、オレの言う事を聞いて、時が来るまで行動に移さないというなら、教えられる」

「……」


 ナーヤは、オレを睨みつけた。それが、答えである。


「ところで、前もあったんだけど、匂いを嗅ぐのって、何」

「前……?」

「オレが、ここに来る前のお前も、オレのベッドの匂いを嗅いでたんで」

「それは、絶対に他言しない。約束」


 ナーヤに強く睨まれながらそう言われては、頷くしかなかった。

 ふと、ナーヤは無言でオレの上からのくと、オレごとイスを起こし、元に戻してくれた。


「取り乱したことは、謝る。貴方が、レーニャに何かしたとは、私も思っていない」

「いいよ。ナーヤが、レーニャの事を大切に思っているのは、十分に伝わった。……よければ、レーニャとの関係を、教えてくれないか」

「レーニャは、タニャ──さっきの、大きい娘。の、妹。そして、私にとっても、大切な妹のような存在」

「何で、そんなレーニャが、拷問を?」

「それは、こちらが聞きたい。今から1年ほど前に、私達トンキ族の村が、何者かに襲われ、壊滅した。そこに、レーニャはいた。村には、争いの形跡があったけど、何も残っていなかった。村人は消え去り、行方不明で足取りも、何も掴めない。だから、貴方からレーニャの名前が出たときは、本当に驚いた」


 村の、襲撃……あそこにいたトンキ族達は、その村人か。わざわざ獣人の領地から、トンキ族は浚われてきた。そして、あそこで魔法の実験や、拷問を受けている。胸糞の悪い話だ。

 本当なら、今すぐにでもナーヤ達を焚きつけて、助けにいってやりたい。でも、それはあまりにも危険すぎる。もしも侵食者を呼ばれたら、その時点でオレらの負けだ。だから、堪える。


「オレも、ナーヤと気持ちは同じだ。レーニャを、助けてやりたい。だから、もう少し、我慢してほしい。今は、レーニャを……レーニャだけじゃない。皆を助けるつもりで、待ってくれ……!」

「……」


 ナーヤは、オレの背後に回った。オレの見えないところで、考え込んでいるらしい。


「……レーニャは、生きている」

「ん。あ、あぁそうだ」


 あまりにも、沈黙が長くて、ちょっと寝ていた。慌ててそう答える。


「分かった。今は、それでいい。だけど、レーニャを、絶対に助ける。コレが、条件」

「約束する!」


 力強くそう答えると、ナーヤが、オレを拘束していた縄を解いてくれた。ようやく解放され、久々の自由を堪能。とりあえず身体を伸ばそうとするが、傷に響いて痛かったので、諦めた。


「未来から来たというのは、本当?」

「ん。本当だ。お前の、七の霊剣の事も、知ってるぞ。あと、レアードベル使いって事も」

「……驚いた。どこで、それを」

「未来で、だ」

「分かった。もういい。とりあえずは、レーニャを助けるため、貴方に従う。何か出来る事があれば、何でも言ってほしい」

「助かる。それじゃあまずは、この屋敷の資料を漁って、白い獣人の資料を探してくれ。人間も食っちまう、化物の資料だ」

「それが、レーニャを助ける事に繋がる?」

「まずは、お前にも知っておいてもらいたいんだ。これから、何が起こるかを」

「探しておく。……入っていい」


 ナーヤが声を掛けると、すぐに部屋の扉が開かれた。どう考えても、部屋の入り口で耳をたてていたっていう感じの速さである。


「ナーヤ様、レーニャは……!?」


 勢い込んで入ってきたのは、タニャだ。フードはもう外していて、正体を隠すつもりはもうないようである。


「落ち着いて、タニャ。レイスとは、レーニャを助けるという約束を結んだ」

「生きて……いるんですね……!?」

「生きている。絶対に、助ける」


 その情報に、泣き崩れたタニャを、ナーヤは優しく抱きしめた。

 レーニャのおかげで、初対面であるはずの、ナーヤ達トンキ族と、繋がりをもてたことは大きい。これは、レーニャの功績だ。


「反対です!今すぐ、レーニャを助けにいくべきです!」


 所変わって、明るいお部屋。客用の一室に案内されたオレは、ナーヤから説明を受けるトンキ族達から、納得のいかない視線を向けられていた。

 特に、タニャは一番納得がいっていない。説明を受けて、今は動かないという事を知らされて、激昂している。


「レイスが言うには、今動けば、全滅する。私は、レイスを信じる事にした。だから今は、我慢」

「この人間が、信用に足る人物とは、私には思えません!どうか、考え直してください、ナーヤ様!」

「タニャの気持ちは、分かる。でも、レイスは、私が信頼に足ると判断した。もしも、私の判断が間違っていたら……責任を取って、レイスを私自ら殺した後、私自身の死も約束する」

「そ、そんな……!?」


 ナーヤは、自らの命を引き換えに、オレを信用しろと言った。その事に、トンキ族の少女達の間に、動揺が広がる。ナーヤがそこまでして、オレを信用しろと言っているのだ。彼女達はもう、何も言えなくなる。


「話がまとまったところで、聞いてもらいたい話がある」

「まだ、まとまっていない……!私は、レーニャを助けに行きます!」

「アイスバインド」


 オレは、部屋から出て行こうとするタニャを、魔法で足止めした。タニャの足は、氷によって床と一体化し、その場から動けなくなってしまう。

 オレの、突然の無詠唱魔法に、その場にいたトンキ族の少女達が、警戒を強める。武器をオレに向かって構える者もいたが、それをナーヤが御した。


「くっ……!?なんの、つもりですか!今すぐ、魔法を解きなさい、人間!」


 タニャは、今にもオレに噛み付かんがばかりの勢いだ。尻尾は逆立ち、完全に威嚇モード。

 オレは、そんなタニャに近づいて、構わず手を伸ばした。その手を、噛み付かれた。彼女達には、立派な尖った牙がある。それが食い込み、血が出るが、オレはその手を引かない。


「お前の気持ちは、よく分かる。オレだって、今すぐにでもレーニャを助けてやりたい。だけど、そのためには準備が必要なんだ。オレ達は、一手間違ったら全てを失う状況にある。お前一人の行動で、ここにいる皆も、他のトンキ族達も、死ぬ運命になる」

「う、うぅ……」

「今からオレは、皆に大切な話をする。どうか、抑えて聞いてくれ」

「……」


 手を噛む力が弱まり、解放された。オレはその手を、タニャの頭に乗せる。


「大丈夫。レーニャは、無事だ。だから、もう少しの辛抱だ」


 オレは、タニャにかけたアイスバインドを、解いた。タニャは、その場から動かない。後は、周りのトンキ族たちに任せ、ソファへと戻る。


「これから話すのは、オレが見た、未来の話だ」


 この国は、近い未来に、突如現れた白いトンキ族達により、滅ぼされる。白いトンキ族は、侵食者と呼ばれる、異世界から召喚された化物によって、作られる。侵食者は、トンキ族のグリムを一瞬にして破壊する術を持っていて、それにより殺されたトンキ族は、白いトンキ族として生まれ変わり、化物の仲間と化す。

 その、侵食者を召喚するための施設で、レーニャ達トンキ族は、何らかの実験に使われていたと思われる。

 オレ達は、侵食者に追い詰められた所で、ギリギリでリバイズドアレータという、過去へ戻る魔法を使用して、この時間に戻ってきた。

 侵食者を呼ばれたら、世界は終わりだ。だから、慎重に動く必要がある。

 話したのは、ざっとそんな所。本当はもっと長く、細かく、何がナーヤ達の身に起こったのかを話していて、気付けば日が暮れる時間となっていた。


「さっき言っていた、白いトンキ族の資料とは……」

「そうだ。たぶん、同じだと思う。それが、どうして白いトンキ族となったかは、知らないが、大昔にも、同じ白いトンキ族がいた」

「……一つ、気になった。レイスは、最初に、リリード様に気をつけろ、と言った」

「……そうだ。今話した、侵食者を召喚してしまう施設は、リリード氏の、研究所だ。そこに、レーニャ達トンキ族が、いる」

「っ!!」


 大きな音を立てて、タニャが立ち上がった。


「そこに、レーニャが……!」

「いる」

「……」


 拳を震わせる、タニャ。すぐに飛び出していきそうな気配だが、ぐっと堪えている。そんなタニャの肩を、周りの少女達が叩き、抱きしめた。

 オレは、タニャがもう暴走しないと思い、話した。何より、隠し通すのは、信頼上あってはいけない。だから、あえて話すことにした。


「……聞いて、レイス。リリード様は、とても、優しい人。トンキ族の村に、リリード様が遊びに来たときも、流行病に苦しむ私達のため、わざわざ大量の薬を運んできてくれた。私達は、人間の国との繋がりはないけど、リリード様は、そんな私達と繋がりをもち、仲良くなりたいと言ってくれた。あの、優しい笑顔を、私は嘘だと思いたくない」


 ナーヤの言う、リリード氏のイメージを想像するのは、簡単だ。あの人は、正にその通りの人だ。いつでもへらへらと笑い、周りをなごませる、優しい人である。


「そんなの、オレだって同じだ。リリード氏が、あんな事をしていたなんて、信じたくはない。でも、あの施設は確かにリリード氏の施設で、そこで死んでいたリリード氏を、オレは見た」

「分かった。私は、レイスを信じると、言った。だから、信じる。未来の話も、レーニャの事も。リリード様の事は……少し、考える」

「いいのか?オレなんかのために、命まで賭けて」

「分からない。何故、私がここまで、貴方を信じようとしているのか。でも、貴方の言っている事は、不思議と現実のように感じる。まるで、本当に起きた事のよう」


 覚えてるけど、覚えていない──


 テレスは、魂が覚えていると言っていた。そうか。ナーヤの魂にも、しっかりと記憶として、残っているのだ。


「ありがとう、ナーヤ。お前がいてくれて、良かった」


 それは、前に、オレの代わりに暴走しそうになったセレスを止めてくれたことや、皆をまとめて逃げ道を作ってくれたこと。ティアを心配し、オレに声を掛けてくれた事などに対する、礼だ。


「頭を、あげて、レイス。礼は、全て終わった後にいくらでも聞く。だから今は、前を、見る」

「ああ」


 オレの顔は、もうにやけてしまう事に、抵抗しない。ナーヤから、どんな風に見えたかは分からないが、オレは笑って答えた。


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