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二度目の目覚め

 セレス──

 セレスが、目の前にいる。銀色の髪を揺らし、柔らかに笑い、そこにいる。そのセレスに触れたくて、手を伸ばす。


「んー?かっはっは。くすぐったいのう」


 髪の毛を撫でると、セレスが声を出した。その聞き覚えのある声に、オレの手は止まる。しかし、セレス(?)がオレの手を掴み、その格好で固定されてしまった。


「おはよう、お兄ちゃん。よく眠れたかのう?」


 それは、テレスだった。

 銀髪をツインテールにし、上品なドレスを着込んでいる。一見すれば、とんでもない美幼女。セレスによく似た容姿だから、見間違えてしまったようだ。

 しかし、それにしても……今のテレスは、前のような可愛らしい様子は見えない。目つきは鋭くなり、眉間にシワを寄せて、悪魔のように唇を歪めた姿は、チンピラのようである。

 目が覚めて、目の前にチンピラがいるって、すげぇ嫌なんだけど。


「きゃはっ」


 しかし、テレスはそんなオレの気持ちを察してか、可愛い笑顔を向けてきた。

 うん、可愛い。最高だぜ。

 気づけば、オレが眠っていた部屋は、前と同じ部屋だった。あの、バカ広い部屋である。ということは、ここはリリード氏のお屋敷か。自分の家でもないのに、ちょっとした安心感に包まれる。


「オレは、どれくらい、寝てた……?」

「三日じゃ」

「三日……」


 例のごとく、オレの怪我は、治療されていた。ただ、今回は包帯の数が、前の3倍はある。もう、全身至る所が包帯。それくらいの大怪我を、オレは負っていた。


「とりあえず、テレス……水を、貰えないか」


 もう、喉からっからで死にそう。


「んー?」


 ティアは、嫌そうな顔をしながらも、すぐに持ってきてくれた。しかし、テレスときたら、不気味に笑うだけで、持って来てくれようとしない。


「……頼む、テレス」

「わしは、お兄ちゃんの給仕ではないからのう。代わりを呼ぶとしよう。来て、ティア!お兄ちゃんが起きたの!」


 テレスの、ぶりっこモードが発動。可愛らしい声で、部屋の外へ言う。

 ん?待てよ。今、ティアと言ったか?


「おや。目が覚めましたか」


 部屋に入ってきたその人物の姿を見て、オレの唇は震えた。

 スタイルは良く、歩く姿は淑やかな女性そのもの。金髪の髪の毛は編み込んでいて、メイドカチューシャとよく馴染んでいる。所作や、ルックスは完璧なメイド。しかし、ゴミを見るような目をした、ちょっと怖いメイドさん。

 オレの体が自由に動かせるなら、抱きついていたかもしれない。


「ティア……!」

「どこかでお会いしましたか?」


 首を傾げるティア。どうやら、オレの事は覚えていないらしい。リバイズドアレータに巻き込んだ訳ではないので、当然と言えば、当然。ティアにとってオレは、初対面の人間である。


「……いや、テレスがそう呼んでたから、言ってみただけ。気にしないでくれ」

「はぁ、そうですか」


 何にも興味がなさそう。これぞ、ティアだ。


「ティア。お兄ちゃんが、喉が渇いたみたいなの。持ってきてあげてくれる?」

「散々寝坊しておいて、水の要求とは、良いご身分ですね」

「ねー!」


 二人して、オレを苛めてきやがるが、ティアはちゃんと水を持ってきてくれて、しかも頭を支えてコップを渡してくれる。口はともかく、やってくれるから、良い。そんなティアの内面を、オレはもう知っているから、嬉しくて嬉しくて仕方がない。


「ぷはっ。ありがとな、生き返った」

「……」


 ティアは、オレの礼に、頷いて応えた。


「テレス様をお助けいただいた恩人ですので、これくらいはお気になさらずに」


 あれ。さっき文句言ってなかった?

 そして、またこのパターンなのな。オレは、テレスに目を向ける。


「お兄ちゃんは、わしを野盗から守った事になっておる。お姉ちゃんの時と同じじゃから、話を合わせろ」

「了解……」


 耳元でテレスにそう言われ、状況は察した。


「随分と、テレス様と仲がよろしいようですね。お兄ちゃん、ですか。まさかとは思いますが、何かいかがわしいことはしていませんよね?」

「しねぇよ……」

「お兄ちゃんになら、テレスは何をされても、構わないわよ……?」


 上目遣いで、テレスがそう言ってきた。可愛いんだが、頭が痛くなるのが不思議である。


「これは、リリード様にご報告しなければ。テレス様が、お嫁に行く日も近い、と」

「余計な事はすんなよ、頼むから」

「冗談です。しかし、テレス様が懐いているのは、事実なようです。どうぞ、仲良くしてあげてください」

「そうよ。私、お兄ちゃん大好き!」


 テレスが、オレの身体に抱きついてくるが、痛い。痛すぎる。心じゃなくて、身体がだ。


「ダメですよ、テレス様。一応、けが人ですので、安静にさせなければ」


 そんなテレスを止めてくれたのは、ティアだ。オレに抱きついたテレスを、引き剥がしてくれた。なんだかんだで、面倒見がよくて助かる。


「さて。一応説明しておきますと、ここは、リリード・ヴァン・キスフレア様が所有するお屋敷です。何か、ご質問があればどうぞ」

「特にはない」

「そうですか。良かったです、話すのも面倒なので」


 いつものティアに、オレは思わず顔がにやついてしまう。

 それからティアは、オレが起きたことを報告してくると言って、部屋を出て行った。部屋には、オレとテレスの二人きりとなり、これで自由に話ができるようになる。


「オレは、戻ってきたんだな?」

「そうじゃ。あの日、お兄ちゃんが、お姉ちゃんを野盗から守ったと言った日と、全く同じ時間に戻ってきたようじゃ。どうせなら、もっと前に戻せばいいものを。何故、同じ時間にしたのじゃ」

「オレも、それは思った。でも、違うんだ。よくは分からないが、リバイズドアレータは、あの時間、あの場所に固定されている」


 それは、ゲームの中での仕様と、似ている。ゲームの中のリバイズドアレータも、飛べる場所は決まっているし、時間も決まっていた。とはいえ、飛べる場所はあんな場所ではなく、街中だったが……。


「なるほどのう。時間と場所が、固定されている、か。して、お兄ちゃん。落ち着いた今だからこそ聞くが、お兄ちゃんは何者じゃ」

「オレも、お前と同じだ。転生者」

「やはり、そうか。それも、転生前のお兄ちゃんは、リバイズドアレータを使用できるほどの、実力者であったと言う訳じゃな。なるほどなるほど」


 しかしそれは、ゲームの中のオレの話だ。現実世界では、普通の高校生をやっていましたというのは、秘密にしておく。様子から察するに、たぶんテレスは、オレとはまた違う。ゲームの中の世界に転生しましたーなんて話をしても、話がこじれるだけだろう。


「して、どうやって転生をした?」

「え」

「魔法か?召喚か?」

「いや……オレはただ、死んだらこの世界に生まれてた」

「魔法も、何も使わずに?」

「そう」

「輪廻転生じゃったか」

「生まれ変わりって事?」

「そうじゃ。まれに、前世の記憶をひきついだまま、生まれ変わってしまう者がいる。お兄ちゃんもその類じゃろう」


 オレが転生したのは、ゲームの中の世界だ。ゲームの中の世界に生まれ変わりって、そんな事あるのだろうか。


「せっかくの、二度目の人生じゃと言うのに、とんだ世界に生まれてしまったものじゃのう」


 テレスはそう言って、オレの眠るベッドに寝そべった。


「ま、ぐちぐちと言っても仕方あるまい。やるのじゃろ?お兄ちゃん」

「当然だ」


 ニヤリと笑うテレスに、オレも笑って返した。ここにはまだ、皆がいる。今度こそ、助けてみせる。セレスの夢を、叶えるんだ。


「なれば、わしも手伝ってやるとするかのう。大魔術師、破滅の賢者が手伝うのだ。百人力じゃろう?」

「破滅の賢者、な」


 なんとも物騒な二つ名である。


「……なぁ、テレス。聞きそびれてたけど、お前はやっぱり?」


 勇気を振り絞って、オレは尋ねた。あの時はセレスに邪魔をされたが、オレは真実を知らずにはいられない。

 世の中には知らなくてもいい事もあるかもしれないが、こればかりは知っておかねば、夜も眠れなくなるだろう。


「んー?ああ、男じゃ。それも150の年を数えた、じじい」


 遠くで、テレスがオレを呼ぶ声が聞こえてくる。


『お兄ちゃん、おはよう!』

『お兄ちゃん、くすぐったいよー』

『……お兄ちゃん、お怪我が痛そう』

『遊ぼ!お兄ちゃん!』

『お兄ちゃん、好きー!きゃはっ!』


「ぶべばっ!!」


 吐血した。というのは冗談だが、それくらいのショッキングな言葉だった。覚悟はしていたし、察してはいたが、面と向かって改めて言われると、また絶大な効果が生まれる。

 それにしても、普通に、さらっと答えやがった。後半は、もうちょっとオブラートに包んでくれてもいいじゃねぇか。オレが知りたかったのは、男かどうかだけだ。150のじいさんとか、そんな情報までは求めてねぇんだよ。


「失礼じゃな。わしとて、この身体に生まれて数年。女子として生まれ落ち、女子として育てられれば、男であった時の事など忘れ去ったわ。もう、身も心も女子じゃから、安心せい。しかし、たまにじゃが……ティアのあの胸には、惹かれる魔力がある……」


 分かるわー。ルックスだけはいいから、あの胸の破壊力は、更に凄い。


「て、やっぱ男じゃねぇか!」

「いやいや。しかし、お兄ちゃんの方が、魅力的じゃ。わし、お兄ちゃん、凄くタイプ。んふっ」


 喜べない。テレスと被って、どこぞの知らないじいさんが見えてしまう。吐き気を催すような光景に、オレは目を背けずにはいられなかった。

 なんなのこの世界。じーさんが幼女とか、ふざけんじゃないよ。オレの純情な心を返せよ。


「失礼する!」


 ショッキングな出来事を目の前にして、突然部屋の扉を開き、中へ入ってくる人物がいた。


「ああ……」


 相変わらず、ノックも何もなしに入ってくるんだな、お前は。

 その姿を見て、今しがたテレスに傷つけられたオレの心が、癒されていくのを感じる。


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