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後ろ姿

 それは、セレスの放った、レーヴァテインだった。

 セレスは侵食者の影の部分を貫通し、華麗に着地する。

 しかし、その姿は痛々しい。腹から、背中から血をたらし、口からは血を吐いて、服はボロボロだ。


「セレス……」

「ごほっ!問題ない。ヤツは、私が倒してみせる」


 そんなボロボロの状態で尚、セレスは底力を見せた。よく見れば、セレスはスキル、ラグナロクも発動させている。前衛、最強のスキル。それは、全ての前衛ステータスを飛躍的に引き出す。大人セレスは使っていたが、子供セレスが使っているのを、初めて見る。その上、先ほどはレーヴァテインを放っていた。何かが、セレスの身に起こっている。


「かっはっは!凄い、凄いぞ、お姉ちゃん!」


 本当に、凄い。これなら、本当に侵食者を、倒してしまうんじゃないか。

 しかし、そうはならない。侵食者の影の部分は、気づけば再生し、何事もなかったかのように、元に戻っている。


「……」


 セレスが、消えた。かと思えば、侵食者に斬りかかっている。侵食者は、それを影で受け止めた。セレスも早いが、侵食者はそれを見えている。


『ギョ』


 黒い霧が、侵食者から放たれた。視界が悪くなり、辺りが暗闇に包まれる。


「テレス。どうすればいい」

「グリム炉へ向かえ。まだ、使えるやもしれん」


 オレは、すぐに動いた。テレスを腕に抱え、グリム炉があったほうへと駆け出す。辺りは、暗闇だ。がむしゃらに近い走りだったが、オレの方向感覚は優れていたらしい。残骸に埋もれる、グリム炉を発見した。

 そのグリム炉に手を伸ばしたとき、闇の中に目玉が出現し、目が合う。自然と、腕に抱えていたテレスを放り投げる。次の瞬間、無数の影が、オレの身体を貫いた。

 死んだと思ったが、致命傷になり得る、心臓目掛けて飛んできた影を、オレは反射的に、刀で受け止めていた。しかし、全身至る所を刺されたのには、違いない。

 オレは、地面に倒れた。ヤバイ。身体が、動かない。血が、体中から流れ出ていくのを感じる。


「いったいのう、お兄ちゃん!わしは美少女だぞ、もっと優しく扱わんか!」


 文句を垂れるくらいだから、テレスは無事なようで、安心したよ。


「お兄ちゃん?この血は……?」


 気づけば、周りは目玉だらけだった。まずい。もう、体が、動かない。

 銀色の光が、一閃。すると、黒い霧が晴れていく。霧が晴れると、目玉も消えた。


「レイス!」


 セレスが、すぐ傍にいた。オレの元に駆け寄るが、お前だって怪我だらけじゃねぇか。


「お姉ちゃん、お兄ちゃんはわしに任せろ!ヤツを、どうにかもうしばし、とめてくれ!」

「っ……!分かった。死ぬなよ、レイス!」


 誰が、死ぬかよ。目でセレスに応えて、その場は勘弁しといてもらおう。


「かっはっは!喜べお兄ちゃん!グリム炉は、まだ使えるぞ!」


 隣でごそごそと、何かをやるテレスが、遠く感じる。

 もっと遠くで、セレスが黒い影と戦っているのが見える。セレスは、ボロボロだ。ラグナログを発動させた所で、侵食者には勝てそうにはない。だが、その動きはやっぱりキレイだ。初めて戦場でセレスを見たときも、そう感じた。その姿を見て、胸が高鳴る。

 オレも、寝てる場合じゃねぇ。気合で意識を繋ぎとめる。


「お兄ちゃん!グリム炉で発揮できるのは、あの雑魚兵士ども集めた分の、コレだけじゃ。コレに、わしのグリムを注ぐが、良いな!?」

「……ああ。やってくれ」


 オレの許可を得て、テレスがグリム炉に、グリムを注ぐ。辺りは、高密度のグリムの発生によって、淡く輝く風が巻き起こった。そのグリム炉の排出口に、オレは手を触れる。通常であれば、祭壇の上の紋様にそって流されるグリムだが、それをオレの身体に取り込めれば、あとはやる事は同じ。見てくれは悪いが、コレでも問題はない。

 流れ込んでくるグリムは、もの凄い量だ。特に、テレスのグリムはすさまじい。これなら、古代魔法が何発か、放てるだろう。

 ……しかし、リバイズドアレータには、全く届かない。どこかで、足りないという事は、初めから分かってはいた。だが、いざ直面すると、その絶望感は大きい。


「……どうやら、ここまでのようだのう」


 オレの様子に、テレスは察したようだ。


「二度目の人生、お兄ちゃんのおかげで、最後にそこそこ楽しめた。それで良しとするかの」

「……」


 これで、終わりなんて、最悪すぎる。そんなもん、認める訳にはいかない。

 なぁ、ゲームの中のオレ。少しだけ、オレに力を貸してくれないか。

 オレは、この世界に来て、守りたいと思うものが、たくさんできたんだ。最初はクソみたいな世界だと思ったけど、傭兵部隊のみんなと出会って、少しずつ仲良くなって……かと思えば、過去へ戻って、セレスやテレスに、ティアや、ナーヤと知り合って、守りたい物が増えていった。守るためには、力がいる。オレには、力がなさすぎる。ゲームの時の、半分でもいい。それだけの力があれば、オレは皆を守る事ができるんだ。だから、頼む。力を貸してくれ。


「お兄ちゃん……?」

「レイス!」


 リバイズドアレータ──


 発動、する。世界が、真っ白になっていく。急な事で、オレ自身が一番驚く。このグリムは、一体どこから溢れて来る?確かなのは、オレが魔法を使い、グリム炉からと、テレスからと、オレのグリムが合わさって、魔法が発動しようとしている事。


「セレス……!」


 オレは、魔法に巻き込むため、セレスに向かって、手を伸ばした。

 そのセレスの身体を、侵食者の影が、貫いた。

 目を、見張るような光景だった。しかし、セレスは笑い、剣をオレに掲げてこう言う。


「レイス。ありがとう──」


 それは、あの日の言葉。初めて出会った日に、トンキ族に囲まれたとき、全てを諦めたときの、セレスの言葉だ。

 だが、今は意味が違う。その言葉には、希望がこめられている。オレは、その言葉を心に刻み、最後の瞬間まで、セレスを見届ける。

 声にはならないが、セレスに向かって叫ぶ。

 

 絶対に、皆を助けてみせる──


 世界が、真っ白に包まれた。

 その、真っ白の向こうで、男の背を捉えた。それは、黒髪に、尖った長い耳。マントをなびかせ、背は2メートルはある、ひょろながのダークエルフだった。装備は、死屍王の王冠に、ウルバシの篭手、オプメシドの鎧と、闇王のマント。その姿は、紛れもなく、かつてのオレの、ゲームの中のアバターである。

 姿は、すぐに消えてしまったが、もしかしたら、彼が力を貸してくれたのではと思う。

 始まりは、クソだった。ろくな魔法は使えないし、アイテムの引継ぎも、所持金の引継ぎもない、異世界生活。普通にだらだらと過ごし、ようやく隊長達と出会って、冒険の日々が始まった。しかし、それも獣人達の進行で終わり、かと思えば過去にすっ飛ばされて、皆死んで、もう一度過去へ飛ぼうとしている。

 オレは今、ようやく、この世界に来た意味を、貰った気がしている。そして、わずかにだが見えた、かつてのゲームの自分の姿。追いつくことも、見ることすらできない位置にいるはずの彼の後姿を、一瞬だが、オレは見た。


 ティア、お前には何度も助けられた。おかげで、オレ達はリバイズドアレータを発動させられた。お前がいなけりゃ、どうなってたか分からない。お前には、感謝してもしたりない。ちょっと怖いメイドだけど……お前は、誰がなんと言おうが、最高のメイドだ。


 ナーヤとは、もう少しちゃんと話がしたかった。初めて会った時は、いきなり襲い掛かって悪いことをした。お前は、可愛いし、いざという時は、頼りになる、最高の友達だ。


 ルゥラや、タニャとも、もっと話がしたかった。二人とも、人懐こくって、可愛らしい女の子だ。タニャはセレスにしごかれ、ひぃひぃ言っていたが、根性のあるヤツだ。ルゥラは、オレなんかよりも魔法の才能溢れる少女。将来は、もっともっと凄い魔法が使えるようになるだろう。屋敷のメイドさん達にも、世話になった。身の回りの世話や、美味い飯を作ってもらった。皆いい人で、屋敷に馴染めたのも彼女達のおかげだ。


 セレス。お前は、初めて会ったときから、美しく、強かった。過去に戻って、幼くなったお前は、少しだけとっつきやすくなって、面白いヤツだという事が分かった。相変わらずの美人で、オレよりも遥かに強く、頼りになる存在。そんなお前を、オレは絶対に守りたくなった。そんなお前の、家族を救いたいという夢を、オレは叶えてやりたいと思ったから、オレはここにいる。

 だから、オレは行く。過去の、セレスや、皆が生きている時へ。お前の願いを、叶えてみせる。


 ──大きな風が、吹いた。体ごと吹き飛ばされそうな、デカイ風だ。

 気づけばそこは、小高い丘の上。緑溢れる、自然の大地。ここは、風呼びの丘。かつて、オレとセレスが過去へ飛んだとき、最初に現れたのと同じ場所だ。


「かーっはっはっはっはっは!!やりおった!本当にやりおった!リバイズドアレータを、発動させおった!」


 高笑いするテレスの声が響く。オレは、成功したのか。


「テレス……」


 オレは、地面に横たわったまま、起き上がれない。オレの傷は、そのままだ。テレスの服装や身なりは、キレイに置き換わっているが、オレは、過去へと飛ぶ前のまま。前回と、同じだ。だから、侵食者から受けた傷や、折れた右腕等、全てがそのままで、血も止まっていない。


「お兄ちゃん。おぬしは、大した男じゃ。後は、わしに任せて、ゆっくり眠れ。ただ、死ぬな。まだ、すべきことは残っておる。分かっておるな?」

「ああ……」


 オレは、目を閉じる。それは、ちょっとだけ、休息するための、眠りだ。目が覚めたら、すべき事がたくさんある。

 だから今は、少しだけ、眠らせてくれ。


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