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銀色の光

 研究所へ向かい、馬を走らせるオレ達に、追っ手は来なかった。全て、ウェルス達が抑えてくれているのだろう。おかげで、真っ直ぐに向かう事ができる。


「テレス!今の内に、確認しておきたい事がある!」

「なんじゃ、お兄ちゃん。わしは、機嫌がいい。今なら、答えてやらなくもないぞ?」


 テレスは、オレの前に座っているので、オレが胸に抱き抱えるような形になっている。そのテレスが顔を上げると、オレが見下ろすような格好となり、目が合う。


「お前、転生前は、男か?女か?」

「んー?かっはっは!この状況で、それを聞くか、お兄ちゃん!」


 笑い飛ばされるが、けっこう重要な事だ。しかし、テレスの言葉遣いからして察するに……いや、答えを聞くまでは分からない。


「答えてくれ、テレス」

「よいよい。答えてやろう。わしは、おと──」


 テレスが答えようとしたとき、馬が空を飛び、オレは必死にセレスにしがみついた。馬の着地と同時に、尻を打ち付けて、割れてしまう。あ、もう割れてた。


「いってぇ!」


 何も、尻だけの痛みではない。怪我をしている右半身にも、強烈な負荷がかかり、痛みが駆け抜けた。


「セレス!」

「すまん。ちょっと手が滑った」

「気をつけてくれ、マジで痛い!」

「分かった」

「……それで、テレス。答えは?」

「いつつ……ああ、そうじゃな。わしは──」


 再び、馬が空を駆けた。尻が、計り知れないダメージをおい、割れてしまった。あ、もう割れてた。


「いってえぇな、セレス!?」

「すまん。ちょっと手が滑った」

「気をつけろよ、マジで!それで、テレス。答えは?」

「……お兄ちゃんは、存外バカじゃな。わしはもうこれ以上、尻にダメージを負いたくない。この続きは、今度にしよう」


 気になって仕方ないのだが、尻の方が大事だ。ここは、テレスの言うとおりにしておく事にする。

 そうしている内に、研究所に辿りついた。研究所周辺は、やはりというか、トンキ族のオスの姿が見える。しかし、その数は少なく見える。大部分は、どこかへ移動したか、中に篭もっているか……定かではないが、少し建物に近づいただけで、ヤツらは臭いでこちらに気づいているはずだ。となれば、迷う必要もない。


「突っ込むぞ!続けぇ!」


 剣を掲げ、先陣を切るセレスは、騎士様時代のように、カッコイイ。

 だが、そんなオレ達を追い越して、兵士が突撃していく。


「セレス様に何かあれば、我々がウェルス様に殺されてしまいます!どうか、お下がりください!」

「ならん!私達は真っ直ぐに、建物の地下へと向かう!お前達は私達の、援護をするのだ!」

「しかし、それでは!」

「ごちゃごちゃうるせぇんだよ、ど下っ端の雑魚兵士共がぁ!お姉ちゃんの言うとおりにしねぇと、このわしが、あのクソ兄より先にぶっ殺してやんよ!」


 テレスが、切れてガンを飛ばした。口が悪いな、この幼女。あの可愛いテレスの姿が懐かしくて、涙が溢れてくるよ。


「いいか。オレは建物の道を、知っている。敵は、足が恐ろしくノロイから、倒していく必要はない。とにかく足止めして、オレ達について駆け抜けろ」

「わ……分かりました」


 兵士達は、雑魚ではなかった。連携の取れた動きで、次々に獣人どもの足を切り刻み、あっという間に入り口を突破する事に成功する。

 建物内に入ると、ここからは徒歩となる。馬から下りると、セレスの力が本領発揮する。


「はぁ!」


 相変わらず先陣を切るセレスが、獣人をまた一匹、倒した。

 それに続いて、オレ達も次々と奥へとなだれ込み、足を止めない。


「かっはっは。お姉ちゃんは、本当に強いのう。未来から来たというのは、本当のようじゃ」


 呑気に、オレの上に抱えられているテレスがそう言った。オレは、この時のセレスを知らないので、比べようがない。オレもできれば、比べたかったよ。


「アイスバインド!」


 後方の、遅れてきた兵士に襲い掛かった獣人に向け、オレは魔法を放った。足止めが功を奏し、兵士達は命を拾う。


「あ、あんた、魔術師だったのかっ。しかし、今のは……」

「いいから進め!セレスから離れず、絶対に孤立するな!」

「すまん!遅れるな!続け、続けぇ!」


 トンキ族のオスども相手なら、なんとかなる。しかも敵の数は、やはり少ない。このままいけば、なんとかなるだろう。


「セレス、そこを右だ!」


 曲がり角を曲がった先が、地下へと続く、穴の場所である。

 その、地下から漂う異様な空気を察知したのか、そこでセレスが、初めて止まった。


「セレス」

「……うむ。行くぞ!」


 オレが声を掛けると、セレスはようやく足を動かす。その気持ちは、よく分かる。オレも、ここに足を踏み入れるのは、非常に勇気がいる。


「セレスに続け!」


 階段を下っていくと、そこには敵がいなかった。上の方から、獣人の咆哮や足音は、たまに聞こえてくるが、ここには気配がない。ここにいるのは、動かぬ死体だけ。それはそれで、不気味ではあるが、今はありがたい。


「な、なんだ、コレは……」

「うっ」


 兵士達は、拷問された後のトンキ族を見て、気持ち悪がっている。吐き出してしまう者もいた。そんな中で、セレスは歯を食いしばり、目を向けずに無反応を貫いた。これをやったのは、たぶんセレスの父親だ。話はしてあるが、自分の父親の行動を、セレスは直視できないでいる。


「ひぃ!」


 左右が鉄の扉に囲まれた通路までくると、腰を抜かす兵士も出てきた。そこには、トンキ族の少女の拷問死体がある。


「まさか、あの父上がこんな事をやっていたとはのう。人間とは、げに怖き生き物よ」

「黙っとけ」


 テレスを黙らせ、オレ達は先へと進んだ。

 オレ達は、目的地にたどり着いた。地下の、祭壇のあるその空間は、グリム炉の設置場所でもある。辺りに散らばっている、光る石は、グリム炉の燃料だ。こいつを使って、グリムを発生させ、そのグリムを使ってリバイズドアレータを発動させる。

 早速、行動に移す。兵士達を使って、石を、祭壇下のグリム炉に放り込ませる。炉は、焼却炉のような形をしている。そこに放り込むと、祭壇上へと、凄い量のグリムが流れ込んできた。


「……父上」


 祭壇の上には、リリード氏の死体が、そのままになってあった。

 セレスが、悲しげな顔でリリード氏を見ているが、その心境は複雑だろう。


「レイス。父上が、本当にこんな事をしたのだろうか」

「……それを、もう一度過去へ戻って、確かめるんだ」

「私は、実を言うと、信じていない。父上は、このような事をできるような人ではない。あったとしたら……何か、そうせざるを得ない、事情があったはずだ」

「そうかもしれないな」


 オレは、そう言って、リリード氏の死体の目を、閉じさせた。それから、死体の傍で佇む、セレスの頭を撫でる。


「うん」


『グ、ガゴォ、ゴ』


 一緒にここへやってきた兵士が数十人、突然、血を噴き出して倒れた。蠢く黒い影が、そうさせた。


『ガガ。ギョ』


 そいつは、オレ達が来た道から、現れた。目玉がぎょろぎょろと動く、影にとりつかれた獣人。侵食者だ。侵食者をとめていたはずの、ウェルス達はどうなった。まさか、やられたのか?答えは、分からない。

 侵食者は、先ほど見たときよりも、影の部分が大きくなっている。それに比例して、目玉の数も多くなっている気がして、気持ち悪さは倍増だ。


「私が、時間を稼ぐ。兵士達は、石を運べ!」

「セレス!」

「任せたぞ、レイス」


 セレスはそう言うと、階段を駆け下りていった。


「待て、お兄ちゃん!」


 その後を追いかけようとするオレの腕を、テレスが引っ張って止めた。よりによって、折れている右腕を引っ張りやがった。あまりの激痛に、オレは倒れ込む。


「お兄ちゃんが、死んだら、おしまいじゃ!今は、お姉ちゃんに任せ、自分のすべきことをせい!」

「……今、痛みで死にそう」

「死ぬか、たわけが!兵士共、周りに構わず、はよう石を放り込め!」


 セレスが、侵食者に斬りかかった。しかし、いくつもの影が地面から、触手のように生えてくると、その攻撃を防ぎ、更には鋭利な刃物として、セレスに襲い掛かる。

 どうにかして、その影をかわしたセレスだが、侵食者の足が、祭壇へ向かって歩き始めた。


「この……させるか!メルブレード!」


 メルブレードは、初期レベルクラスの、スキルである。ただの、強めの一撃を繰り出すだけのスキルだ。セレスなら、他に選択しなどいくらでもあるだろうに、何故、それを選んだ。

 そういえば、前にナーヤと戦ったとき、レーヴァテインを発動させようとしていたが、発動しなかった。もしかして、身体が幼くなったことで、スキルも使えなくなっているのか?だとしたら、あんな化物と戦うなど、無茶だ。

 セレスの放ったメルブレードは、あっけなく弾き返され、更には影によってどてっ腹を殴られると、セレスは物凄い勢いで吹っ飛んで行った。壁に、ぶつかる。そう思ったが、セレスは壁に足をついて着地して、すぐにまた、侵食者へと斬りかかる。


「よせ、セレス!」

「はあああぁぁぁ!」


 その、セレスの腹を、影が貫いた。セレスの鮮血が、飛び散る。


「ぶはっ!」


 セレスの口から、血が溢れ出る。


「ルーンシングルアロー!」


 我慢、できなかった。オレは怒りに任せ、魔法の矢を、侵食者へと放つ。しかし、それは侵食者に届く事もなく、霧散した。

 攻撃魔法に対する、完全耐性……!

 オレは瞬時に、ゲーム時代のボスキャラがたまに持っていた、そのスキルを思い出した。ゲームの中じゃ、魔法に対しての耐性があるぶん、物理には弱かったりするのだが、そうは見えない。


「セレ──」


『ガォ、ギョ、レル』


 セレスの元へ駆けつけようとしたオレだが、侵食者の影の目は、オレを見据えていた。

 そして、侵食者が、オレに向かい、魔法を放った。

 レンデンオブダーク──

 ゲームの中で、レベルで言えば、100オーバーで習得できる、闇属性の魔法だ。祭壇が、闇に飲み込まれ、破壊される。広場の兵士たちも、闇に飲み込まれていく。ある者は、身体の一部分を。またある者は、身体の全てを闇に飲み込まれ、少しでも闇に触れた者は、身体の全てが溶けていく。その死体は、骨まで残らない。そんな魔法を、かつてのゲームの中のオレのように、無詠唱で繰り出しやがった。

 オレとテレスも、闇に飲み込まれた。しかし、何故か、無事だ。意識がある。


「お兄ちゃん。わしを庇うのはよいが、お兄ちゃんが死んだら、わしらは終わりだと言ったはずじゃ」

「お前が死んだって、リバイズドアレータが使えない。だから、関係ない」


 オレは、テレスを闇から庇うように、抱きしめていた。そのテレスの魔法によって、オレとテレスは闇から守られている。レンデンオブダークを防ぐほどの魔法は、同レベル帯の魔法しかない。テレスのグリムは、人知を超えている。


「それもそうじゃのう。一応、詠唱を完了させておいたのじゃ。次は、ないぞ」


 しかし、祭壇は壊れた。それは、グリム炉の破壊を意味する。オレとテレスは、祭壇の跡地に追いやられ、兵士たちもほとんどが闇に飲み込まれたし、必要なグリムが用意できない。


『ガォ。ガォ。ガォ』


 その上で、侵食者はやる気満々である。絶望的な状況。希望は絶たれ、先がない。


「レーヴァテイン!!」


 そう思った刹那、銀色の光が、侵食者を貫いた。


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