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ちゃんと、する

「……」


 相手を射殺すかのような目で、オレは睨まれている。オレは、怖くて目を上げていられない。

 場所は移り変わり、オレの部屋。ソファで対面するトンキ族の少女は、ずっとオレを威嚇している。いまにも、首を取られそうで、冷や汗が止まらない。


「まずは、一応自己紹介をしておくと、オレの名前はレイス」

「……ナーヤ・メルセル」

「よろしく……」

「早く、説明して欲しい。私達を襲った、理由を」

「理由は、簡単だ。オレは、お前達の本性を、知っている」

「本性。それは、何」


 意を決して、目を上げる。その、獣の瞳を真っ直ぐに見返して、こう答えた。


「お前達は、人間を食う」

「……!!」


 ナーヤの目に、怒りの炎が宿った。そして、机を両手で叩き、立ち上がる。


「誰が、そんな事を言った!私達は、人間など、絶対に食べない!動物の肉は食べるが、それはお前達、人間も同じ!文句を言われる筋合いなど、ない!」

「聞いたんじゃない。見たんだ。お前が、人間を食べる所を」

「お前、狂っているのか?でなければ、化かされている!」

「……オレの知っているトンキ族は、全身真っ白だった。肌も、髪の毛もだ。ボロボロで、無残な格好をしていた。そして、短剣を宙に浮かせて戦う、レアードベル使いだった。あと、七の霊剣……とか言う武器を使っていた気がする。身動きのできなくなる、毒も使っていた。コレに、何か心当たりはないか」

「……」


 オレの記憶にある、未来のナーヤの特徴を言ってやると、ナーヤはソファに座りなおした。


「全身が真っ白とか、ボロボロとか、は分からない。でも、それ以外は私。七の霊剣が、コレ」


 彼女は怒りよりも、驚きが勝った。それにより、冷静さを取り戻し、懐から短剣を取り出して、机に置いた。中央に、緑色の宝石がはめこまれているのが特徴の、短剣だ。

 それは確かに、あの、未来のナーヤが使っていた短剣である。


「つまり、ナーヤはレアードベル使いで、七の霊剣を使っていて、毒も使えるという事だな?」

「どこで、貴方がその情報を得たのかは分からないけど、大体合っている」

「言っただろ。見たんだ」

「……さっき、言っていた。私が、人間を食べていた、と」

「そうなんだよ。そいつは真っ白だったが、それ以外はナーヤで間違いない」

「あり得ない!私は、白くない。見れば、分かる。なにより、人間を食べる事は、絶対にない。種族を通しても、そういう獣人種は聞いた事もない」


 再び立ち上がるナーヤに、オレもソファから立ち上がる。そして、箪笥の中にいれておいた、ある物を持ってきて、再びソファに座る。

 オレは、無言でそれを、机の上に置いた。


「……あり得ない」


 それは、未来から持ってきた物。それは、中央に緑色の宝石の埋め込まれた、一本の短剣だ。鞘はないが、なんなのか、一目で分かる。

 リバイズドアレータが発動した際に、足に刺さったままだったので、そのまま付いてきてしまったらしい。


「その、白いナーヤが持っていた物だ」

「……間違いない。七の霊剣。それが、二つ?一体、どういう事?」

「オレは、未来から来た。そして、白いナーヤが、オレが見た、未来のお前の姿だ」


 混乱するナーヤに、オレの言葉は更に拍車をかけた。ナーヤは一旦ソファに座り、黙り込んでしまう。その間、耳や尻尾がパタパタと動いていて、見ていて面白い。


「理解、できない。未来?」

「言葉の通りだ」

「もっと、あり得ない」

「でも、七の霊剣が、この通り二つある」

「複製……ない。このゼルダ鉱石は、間違いなく本物。形まで、同じ。一体、コレは何」

「未来のナーヤが、オレの足にぶっ刺した短剣だ。そのまま持ってきちまった」


「……少し、考えさせて欲しい」


 相当な時間を黙って過ごしてから、ナーヤは、そう言った。

 偶然ではあるが、ナーヤの短剣、持ってきて良かったよ。コレがなければ、コイツ頭おかしいんじゃね。と思われて終わる所だった。

 ナーヤはその後、護衛もろとも屋敷を後にして、帰って行った。リリード氏の話によると、近くの森の屋敷に、ナーヤ達は滞在しているらしい。リリード氏が極秘裏に招いたらしく、しばらくはそこで過ごすとの事。その数は、およそ100名。100名の、トンキ族が近くにいる。数こそは大した事ないが、ここが、始まりの地となったのだとすれば、その100名という数は、決して軽くない。


 さて。オレとナーヤが話している間の出来事なのだが、どうやらセレスは、リリード氏にこっぴどくしかられたらしい。ちなみにオレも、ちょっと怒られた。相手の事をよく知りもせず、急に襲うとは、何事かー、と。オレは最終的に、暴走したセレスを止めに入った事で軽めだったが、セレスの方はけっこう、きつく叱られたらしい。あの親バカ親父も、一応そういう所はちゃんとできるんだな。


「ナーヤ・メルセルが、この屋敷を訪れるのも早まっている」


 とは、セレス。現在、リリード氏との話が終わり、二人きりで廊下を歩いているところ。テレスは部屋に戻り、ティアは用事とかでどこかへ行ってしまった。

 そしてセレスは、リリード氏に怒られた後も、気にした様子は全くない。なんというメンタル。


「お前が、リリード氏に、獣人に戦争吹っかけろとか言ったからだろ」

「……なるほど」


 納得したようなそぶりは見せるが、分かってんのかな。リリード氏は、セレスに獣人を好きになってもらいたくて、ナーヤを屋敷に招いたのだ。そんなリリード氏の気持ちを、オレとセレスはぶち壊してしまった。いくら獣人憎しとはいえ、やり過ぎだ。


「セレス──」

「──レイスも、私を叱るのか?」


 オレはまだ、何も言っていない。でも、言おうとした事は、とらえかたによってはそうなるのかもしれない。


「しっかし、オレもあのトンキ族の登場にはびびったなー。あそこで剣を抜くのは、しょうがない。オレが許可する。……でも、テレスの声も耳に入らないっていうのは、ヤバイと思うぞ」

「うん……」

「ま、これからはもう少し、肩の力を抜け。以上」

「以上?それだけ?」

「それだけ」


 重要な事は、リリード氏が言ったと思うので、オレから言えるのはそれくらいだ。


「もっと、責めないのか?私の暴走のせいで、事がどんどん早まっている。このままでは、明日にもあのトンキ族が攻めてくるかもしれない。そうなれば、対処のしようがないのだぞ。レイスを自分勝手に巻き込んでおいて、この様だ……」

「その時は、逃げる!あと、巻き込んだとか言うのは、よせ。オレは、オレが皆を守りたいと思うから、巻き込まれる事にしただけだ。でなけりゃ、とっくに家に帰ってる。そこんところは、間違えるな」

「……うん。ありがとう、レイス」


 それは、トンキ族に囲まれ、絶体絶命になったときと、同じ台詞だった。縁起でもないが、それと重なって見えてしまったのを、頭を振ってリセットする。


「だけど、これからは勝手な行動なしな」

「し、しない。ちゃんと、する」


 そう宣言するセレスだが、大丈夫だろうか。大体、ちゃんと、てなんだ。何をちゃんとするのかが、分からない。

 まぁ、本人がちゃんとするというのなら、ちゃんとしてもらおう。




 次の日は、割と平和だった。セレスが心配したような、トンキ族が攻めてくるような事もなく、一日が終わる。しかしそれは、嵐の前の静けさであった。

 その次の日に、庭先で昼寝をしているオレを、ティアが叩き起こしに来た。


「ご主人様。迎えが来ました」

「……へ」

「今すぐ、準備を」


 準備といわれたが、何もさせてもらえなかった。そのままの格好で、オレはティアに促されるままに、馬車へと乗せられる。同じような様子で、セレスも乗せられた。


「しゅっぱーつ」


 ティアも馬車に乗り込んで、ティアの合図に馬車が発進する。


「で、何だコレは。説明してくれ、訳が分からん」

「ナーヤ様からの伝言で、ご主人様と、セレス様を連れて来いと言われまして。これから、ナーヤ様が滞在中の、お屋敷へと参ります」

「ぶっ!」


 オレは、吹いた。同時に、オレの隣に座るセレスも驚愕する。


「お前、分かってんのか、その意味が!」

「ええ。まぁ心配はいらないかと」


 そう言うティアだが、ティアは未来の獣人を、知ってはいるが、見てはいない。だから、どこか獣人に対しての警戒心が甘いのだ。


「一昨日のセレスの行動も、知ってるだろ!?」

「見てましたからね。でも、それはなんというか。そうなりそうでしたら、ご主人様がまたとめて下さい」

「軽く言うなよ……」

「ティア。冗談ではなく、馬車を止めろ」


 セレスが、本気でティアを睨みつけ、そう言った。さすがにコレは、冗談ではすまない。あの、トンキ族のメスに囲まれるシーンが、再現されてしまったら、もう逃げようがないのだ。


「……私は一昨日、あの後に、ナーヤ様に頼んで付いていき、滞在している屋敷を見せてもらいました」

「お前、そんな事してたのか」

「はい。そこで私は、ご主人様とセレス様が言うような、未来の彼女達の偶像と、かけ離れた物を見たのです。なので、お二人にもそれを、見せたいと思っていました。そこへ、ナーヤ様からの招待が届いたので、今に至る」

「お前の目で、彼女達が安全だと判断したと。そういう事か?」

「そういう事です」


 自信たっぷりにそう言い切るティアに、オレもセレスも、戸惑う。一体、ティアが何を見たのかは分からないが、そう言い切るだけの物があったという事だ。

 だからと言って、素直に、じゃあ行きましょうとはならない。そもそも、ここが馬車の中ではなく、まだ屋敷だったら、熟考する余地がある。しかし、もう馬車に乗り込んでいて、移動中となると、判断は急かされる。考える、という選択肢はなく、今すぐ帰るか、このまま向かうかの二択だ。


「どうする、レイス」

「……ティア。彼女達は、オレが所属していた傭兵部隊の仲間の首を切り、オレの前に晒しやがった連中だ。オレはあの時の光景が、目に焼きついている。そのオレに、お前の判断で、彼女達が安全だと言い切るのか?」

「言い切るつもりはありません。ただ、私はまだ、ご主人様とセレス様の言う、未来のお話を、本心から信じている訳ではないのかもしれません」

「何があろうと、そうなるのだ!」

「待てって。それは、しょうがない事だ」


 オレは、ティアに怒鳴りかかろうとするセレスの頭を押さえつけて、イスに座らせた。


「……分かった。ティアを信じて、行ってやる」

「レイス!」


 そもそも、未来の話を、表面だけでも信じてくれたティアは、大したもんだ。その、信じてくれたティアに対して、こちらが信じないというのは、釣り合わない。


「行くのは、オレだけでもいい」

「バカか貴様は!レイスが行くのなら、私も行く」

「……来るのはいいが、約束してくれ。オレの指示がない限り、暴れるな。黙れと言われたら黙り、喧嘩を売るような事もするな」

「ふん……貴様、私の飼い主にでもなるつもりか」

「イヤなら、お前は来るな。お留守番な」

「ま、待て……」


 実際、オレにそんな決定権もないのに、セレスは真に受けて狼狽する。


「わ、分かった。レイスの指示に、従う」

「よし」

「……」


 そんな、オレ達のやり取りを、ティアはじっと眺めていた。


「何だよ……」

「別に?」


 尋ねても、ティアはそう答えるだけだった。

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