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4月の始めの、とある朝、イフ中学校の校門前の道に、アルムの姿があった。大勢の中学生の中で、高校の制服を着たアルムの姿は、周りに少し違和感を感じさせたが、アルムはしっかりとした足取りで学校へと向かう。行き先は通常の教室ではなく、別棟の特別校舎だった。
「おい、お前、アルムじゃないか」
中学校の校門を入ってすぐに、誰かがアルムの声をかけた。アルムが立ち止り、後ろを見ると、そこにいたのは、ロビンだった.
「お、お前・・・」
ロビンの顔を見ると、アルムの顔がみるみる怒りに変わり、反射的に両手は拳を握った。
「何だ、アルム。殴りたいのか。まだ、あいつ、クレーベのことを気にしてるのか」
周りの中学生が驚いて2人から離れた。
「殴りたいなら殴れ。アルム、殴ってくれ」
そう言われ、アルムは一瞬、拳に力を入れたが、そこでロビンの変化に気が付いた。以前は、アルムを見据えるようにしていた目が、今は小刻みに震えているように見える。
「おいロビン、どうしたんだ?あれ?お前、1人か?」
よく見ると、常にロビンとつるんでいたリュート、フォルスの姿が見えない。
「ああ、あいつらなら、最後の最後で検定に受かったよ。俺も、もう少しで合格だったけど、結局はダメだった」
アルムの動きは、そこで止まってしまった。目の前にいたのは、以前より一回り小さくなったロビンだった。
「クレーベのことは悪いと思っているよ。でも、まさか死ぬなんて思わなかったんだ。奴が生意気な口をきくから、少し懲らしめてやろうって思っただけなんだ」
ロビンは、そう言うと目頭を押さえた。泣いていた。アルムは一瞬、ためらったが、言葉を続けた。
「僕はとにかくクレーベの無実を証明したかった。お前らに本当はカンニングなど見ていないと言ってほしかった。それだけだ」
するとロビンは、
「そんなことしたら、逆に俺ら処罰されると思ったんだ。だから、リュートとフォルスの3人で決めた。でも悪かったと思ってる」
小さくなったロビンを見ながら、アルムは思い出した。
「僕はやってない。みんな、信じてくれ」
教室でクレーベが発した、必死の声だ。アルムが抱いていたロビンへの憎しみは、あの時、クレーベに声を掛けられなかった自分への憎しみでもあった。でも、さらに思い至った。クレーベが死を選んだことは、アルムの、そしてアルムだけではない、ロビンの、リュートの、フォルスの、心に傷を作るだけに終わる行為ではなかったのか、と。
「高校レベルを全部落第なんて、君も相当だね」
少しして、アルムがロビンに投げかけたのは、そんな言葉だった。




