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アルムが高校へ行かなくなったのは、昨年の夏、半年ほど前のことだった。昨年いっぱい、家に引きこもっていたアルムだったが、ことしの1月、意を決して訪ねたのが「オーディン塾」という、大検で大学進学を目指す私塾だった。アルムは現在、週に3、4回、同塾に顔を見せるようになった。
3月、通常の学校が春休みを迎えようとする頃、アルムが塾に顔を出すと、塾長オーディンが彼を呼び止めた。
「アルム君、君はまだ、エコーズ高校に席があるんだよね」
アルムがうなづくと、オーディンは続けた。
「だったら一度、学校に顔を出した方がいいみたいだよ」
アルムの顔色が変わった。
「僕はもう、あそこには行きません。行きたくないんです」
今度はオーディンが、うなづきながら言った。
「うん、確かに君が高校に行きたくないのは分かる。大変なことがあったのだからね。でも、行かないと君の不利益になるのだよ」
オーディンにうながされ、アルムはやや狭い講師控室に移動する。扉を閉めるとすぐ、オーディンは話を続けた。
「昨年から国の教育制度が変わったのは、君も知っているね。教科教育の検定制度と言うそうだが、その制度だと、高校で検定試験を受け、それに合格しないと、進学は無理なんだ」
「それって、ここに通ってても進学できないってことですか?」
アルムが声を上げると、オーディンはため息をついた。
「ふ~ん、おそらく小中学校も含めて、正規の学校に権威を取り戻そう、という措置だと思うんだが、僕らには勉強は教えられても、それについてのお墨付きは与えられないということだ」
少し考えた末に、アルムは言った。
「だったら、僕は、大学はあきらめます。あいつらがいる限り、僕は高校には行けないんです」
そう言うと、アルムは、うつむいた。
「君はあの学校で、暴力事件で停学になった。でも停学期間はすでに終わってるし、ここで君が進学をあきらめたら、亡くなった親友のクレーベ君にも顔向けできないんじゃないか」
アルムの親友・クレーベが亡くなったのは、昨年の8月だった。死因は自殺だ。理由も明白だった。同じクラスのロビンという不良に脅され、そこから逃れようと彼が選んだのが、死だった。
「クレーベは、死んでも誰にも認められず、それを認めさせようとした僕にさえ、彼らは暴力を奮った。高校も罪を認めなかった」
アルムは、そう言いながら、涙を流した。
「ロビンという生徒の仲間に、学校の権力者がいるんだったね。でも、私は、何があろうと、死は敗北だと思うよ。死んでしまったら、誰も喜ばないし、誰も罪に問えない。でも、君は、友達の死を乗り越え、大学進学を決意したんだろ」
オーディンの言葉で、アルムの頭に浮かんだのは、ロビンの顔だった。ロビンと仲間2人に、アルムは動けなくなるほどの暴行を受けたのだ。
「春休みになれば、学校で生徒に会うことはだろう。でも、先生はいるだろうから、新制度での大学の受験資格について、確認した方がいい。何なら、私も同行しようか?」
「少し考えさせてください・・・」
それだけ言って、アルムは部屋を出て行った。




