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この白い空間で

作者: Orange

この小さな窓から小鳥のさえずりが聞こえてくる。ふとカレンダーをみると、8月7日だった。夏だ。道理で暑いわけだ。

「あと一年…」

僕は沖ノ島 春馬。15歳の中学生だ。幼稚園、小学校の頃は元気で活発だった。友達と一緒にゲームをしたり外で遊んだりした。しかし今は真っ白なベッドの上。僕は三年前からこの病気に入院している。怪我ではなくて病気だ。僕の病気は…後天性免疫不全症候群、別名エイズだ。そして、僕の余命はあと一年だ。

僕がエイズと診断されたのは三年前の小学六年生の終わりの頃だった。はじめは風邪だと思い、風邪薬を飲んでいた。しかし二週間経っても症状が良くならず、悪化していく一方だった。僕は近くの病院で診察を受けた。診察の先生は風邪だろうと言っていたが、念の為詳しく検査してみようということで、検査した。数日後、病院で検査結果を聞きに行った。母は

「重い病気だったらどうしよう。」

と心配していた。

「大丈夫だよ!ちょっと酷い風邪じゃない?」

僕はなるべく笑顔でそう返した。しかし、その後の診察の先生の言葉でその笑顔は無くなった。

診察室にノックにて入った。先生は神妙な面持ちで僕の方を見てきた。

「先生、春馬は…春馬は大丈夫なんですか…?」

母が口を開いた。先生は少し母の方を見て、また僕を見た。

「春馬君。これから先生が言うことは君にとって、とても辛いことだと思う。だから、覚悟して聞いて欲しい。」

「…はい。」

嫌な予感がする。聞きたくない。聞きたくない。耳を塞ぎたい。

「春馬君。君は…後天性免疫不全症候群。エイズです。」

予想はしていた。覚悟もしていた。なのに、やっぱり受け入れられない。

「そんな…春馬…」

母は焦点の合ってない目で泣いていた。先生も辛そうな表情をしていた。

「あと、春馬君。君の余命は…もってあと4年。それ以上はもう…」

絶望。ただそれだけが僕の感じたことだ。泣きたい。でも何故か泣けない。涙も出ない。体の感覚が全くない。生きているのか、死んでいるのかさえもわからない。

それから僕は大きな病院で入院となった。毎日がつまらなかった。あの日みたいに遊びたい。中学校に行ってみたい。そんな叶うわけない願いを願っていた。

「死にたい」

そう思ったことも沢山ある。希望の見えない人生に押し潰されそうになったこともある。夜は眠れず、寝られても悪夢を見てうなされていた。

エイズと診断されてから一年が過ぎた。病状が悪化してきて、体がほとんど動かせなくなった。感染の可能性もあり、他の人とも接触できず、毎日読書やゲームをして一日が過ぎていった。

この生活も少しずつ受け入れられるようになった。夜は前に比べれば寝られるようになっている。しかし、それと同時に

「学校に行きたい。」

「友達と遊びたい」

欲が増えていった。

診断から二年が経った。僕の余命はあと一、二年だ。怖くなってきた。いつ死んでもおかしくない。今突然死んだって何も変じゃない。だからこそ、怖い。いつ来るかわからない。でも必ず来る僕の死。

「あ、あう…」

喉から声が出た。震えていた。長く出していなかった声。恐怖に怯えた声。体はもう全く動かない。

思っちゃいけない。絶対に。でも、どうしても思ってしまう。

「理不尽だ。」

「どうして僕が…」


エイズと診断されてから三年が経った。もう体の感覚は無くなった。目も開かない。指一本さえも動かせない。声も出せない。頭の中で色んな声が反響している。医者の先生と看護婦さんの焦った声、家族の心配する声、色んな声が混ざっている。そして心電計のアラーム音。

あぁ、ついに僕は死ぬんだ。なんだ、思っていたより怖くないな。だけど、最後に心残りがあるとしたら…

(学校に行って、友達と遊びたかったなぁ…)

毎日ずっと思い続けていたこと。

色んな景色が目に浮かぶ。昔友達とバカみたいにはしゃいだこと。物を壊して怒られたこと。家族と旅行に行ったこと。それだけじゃなく、中学校に行っている自分、高校生になった自分、僕の過ごしたかった人生も浮かんでくる。

(これが走馬灯っていうのかな…)

その景色も薄れていって、全ての意識、感覚が無くなっていった。そして…

こんにちは。Orangeといいます。今回「この白い空間で」を読んでいただき、誠にありがとうございます。実はこの作品が僕の処女作です。

この小説は病気の少年が主人公で、この主人公にのみ焦点を当てて書きました。世界には余命宣告された人、不治の病の人が沢山います。その人達が何を思っているのかはわかりませんが、その事を僕としても考えさせられる作品となりました。他の小説も書いていきますのでこれからもよろしくお願いします。

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