人禅
薄暗い空間にはモヤがかかっていたが それは ハッキリ見えた。
鳥居の前に佇む少年は深呼吸して一言放つ
「よし…行くか!」
身の丈3尺ほどの巨大は巻物を背負った少年は和洋折衷の左右非対称な雲の柄をあしらった着物を見にまとい、目の前の巨大な鳥居をくぐると消えていった。
埼玉県 綾嘉市
気だるそうにノートパソコンをタイピングしている少年城崎陣はため息をつくと外を眺めた。
『二時.......』
机に座りデスクトップパソコンのキーボードを激しくタイピングしだした。パソコンには【ニヤニヤ動画】と画面いっぱいに表示されている。マイクを自分の顔に少し近づけると話しだした。
「閲覧2000名のリスナー達よよく来た! この私がニヤニヤに来た!」
パソコンの画面にはジンの配信を閲覧するリスナーのコメントで溢れていた。
『時間通り ヤポ』
『主よ おつです』
『相変わらずの 神 っぷり』
口角は変わらない。だが声のトーンは少し上がる
「マリア(お母さん)からの貢物(ご飯)がなかったので私が外界にわざわざ出向いてやったわ。だが時間はこの通り何時も通りだ」
コメントが流れる
『低能マリア乙』
『今日神に出会えた愚民達は今世紀最大の幸福だな』
『ハプニングなどなかった。』
「お前たちの今日の貢物は…っと ん?」
気持ちよく母親についてネットのリスナーと話している最中少年のパソコンに突然鳥居のマークが現れる。
「なんだこりゃ。」
「んな……を…」
パソコンから声が聞こえてきた その声に気づき身を引こうとした瞬間 パソコンの画面から腕が現れジンのパソコンを突き抜け五歳くらいの少年が一人飛び出してきた。
「そんなことを…」
「あ?」
「いううなぁ!!!」
ガシャァンと激しい音とともにパソコンの画面を叩き割りながら出てきた少年ゼンタは、そのまま空で一回転すると両手をYの字に広げその場で三秒ほど静止するとこちらに迫ってきた。
驚いたジンはそのまま後ろのめりに床にから倒れた。
「おい!お前!せっかくお前のために毎日毎日動いてやってる者対してになんてクチ効くんだ!そこになおれ!小生が直々に貴様を叩きなおしてやる!」
ゼンタは窓の ヘリ に立つと腰に手を当てジンを見下しながら怒声を放った。
「お、お、お前!なんだ!」
「小生の名は ゼンタ!人間界に来て最初に見つけた者を弟子として鍛えるために電波に乗って妖界からわざわざでむいてやった!感謝しろよ人間」
『こいつ…今…ヨウカイ って言ったか?…ヨウカイ…』
「おい!お前!… ヨウカイってなんだ」
窓のヘリから飛び降りジンの目の前に仁王立ちするとゼンタはジンに指を刺し言い放った
「人間ではない者達 が住む世界の総称だ!覚えとくがよいぞ人間!」
「ふむふむ…よくわからん とりあえず…帰れガキンチョ」
笑顔でそう言うとゼンタの襟を掴み叩き出そうとした
「こら!離さんか!お前!小生の弟子になれ!これは命令だ!腐った根性叩き直してやる!」
「はいはい同じ幼稚園で友達作ってから来いよ~」
「離せと言っておるだろうが!」
ずるっ 着物から落ちてくるゼンタ青いトランクス一丁になったゼンタはその場で尻もちをついてしまったところゆっくり部屋の扉が開く。
「ジンーご飯でき…」
ジンの母(とし子)が部屋に入ってきた。時間が止まった、第一声を放ったのはとし子だった。
「きゃぁぁぁ!」
「か、かぁちゃん!これはあれ!急にこいつが部屋に」
「かわいいいいいいい!!!!」
「え?」
昼食時 テレビには少年犯罪のニュースが流れていたが誰も気にはせずそれぞれ別のことを気にしていた。
「うーむ…」
真顔で隣の席を見続けるジンの顔は険しかった。
「おぉ!こ、これはなんだ!味見させてくれたもう!
.......うまい!母上が作る飯はうまいのぉ!これはなんというのだ!?」
「シチューって言うのよ」
「おぉ!ほぉ!し、しちゅーとはどんな材料を使っておるのだ!...」
とし子の手際と皿に注がれるクリームシチューを見てゼンタの目は輝いていた。そんな中、相変わらずゼンタに険しい視線を送るジンは我慢ができなくなり言葉を放った。
「おいこらガキンチョ」
「なんだジン今取り込み中だあとにせい」
「帰れ今すぐ直ちに塵も残さず」
「ジン そんなひどいこと言わないの!帰る場所がないって言ってるじゃないの今日くらい一緒に居させてあげてもいいじゃないの。それにお腹空いてるみたいなんだからご飯だけでも食べてってねゼンちゃん。」
思わずため息が漏れる。
「というわけじゃ よろしくたのむぞいジン」
「うんもうわかった…てかなんでおれなんすかゼンタくん。」
「たまたま来たとこがお前のとこだっただけじゃ」
「夢も希望もねぇ…」
とし子はゼンタと仲良くシチューを注いでいた。
ジンに背を向けながら話すゼンタの背中は楽しそうにリズムを刻んでいた。
『はぁ…なんでおればっか、あ?なんだあれ.......』
ゼンタのポケットからキラキラと光る小さな巻物が見えている。ジンの顔が一瞬いやらしい顔になると 澄ました顔に戻ってゼンタに近づく「仕方ね。ちょっと散歩いてきま」と一言言うとゼンタに少し接触しゼンタのポケットからこっそり巻物をスった
「ジン?」
玄関から扉の閉まった音がした。母は玄関の方を見ていた。
「珍しいわねぇ散歩だなんて。」
とし子が呆然としていた時ゼンタはふとポケットに手を入れた。その手はポケットの途中で止まりゼンタの顔は少し険しくなった。
「ふぬ…」
「どうしたのゼンタ君」
千明学園 旧校舎図書室
ジンのヘッドホンからはデスボイスが漏れていた。散歩と偽り生徒が授業中の学校の図書室で、誰の邪魔をされることなく巻物を読むジンは首をかしげている。
「あやかし舞踏劇集なんだこれ、体の動かし方か? 」
奇妙な図に思わず独り言が漏れるジン。数分巻物と格闘した末1つの体術を見よう見まねで覚えた。疲れたジンは天井の蛍光灯を見つめて居た時ある思いが浮かんだ。
『やっぱ…来るんじゃなかったな。近いし静かだとは言え学校だしな…転校してないかなアイツ』
ガラガラと音を立て開いた扉にジンが目を向けるとボブカットの少女 留奥麻里 が立っていた。線が細く中学生に見える彼女はジンの小学校時代からの幼なじみである。
「あ、城崎くん来てたんだね。」
「留奥久しぶりだなぁ なにサボり?」
「違うよ本を返しに来たの。」
マリの手には 宮沢賢治の詩集があった。 よく読み込まれたのだろう表紙の題名の文字が少し消えかかっていた。
「久しぶりだね体大丈夫?」
「あーうんそうそう」
『そういえばこいつには不登校とは言わずに持病だって言ってるの忘れてた。 まだ信じてるのか。』
純粋素朴なマリはよくいじめられていた。本人はいじめられていることに気づいてなかったことが救いだった。もともと物静かで読書好きなマリはジンにとって小学校からの幼馴染であり気になる存在であった。気持ちは胸のうちにしまって
「あ、あぁ今日は調子よかったんよ。クラスはなんか変わったか?」
「うんうんー全然だよ みんな城崎くんのこと話してないよ?」
『こいつ無自覚でおれに牙向けてきやがる。』
「それ何?」
マリが机の上に広げられた巻物に目をやるとジンは「あ、いやなんでもないよ」と言うと急いで巻物をポケットにしまった。
「どうしたの?城崎くん」
「なにが? なんにもないよ?」
巻物が入ったポケットを見て思う。
『…信じてくれないだろう。画面から人が出てくるなんて言った日にはおかしい奴だよな…。いやおれはもとから おかしい奴 だったな。』
「いや、なんでもないよ…授業はいいのか?もう時間だろ」
「じゃぁ城崎くんもいこ?」
「おれはいい。」
「なんで?」
「つまんないし。話すこともないから」
『自宅学習だけで十分だ。俺に馴れ合いなんか必要ない』
5ヶ月前 ジン中学1年生の頃その時までは優秀な学生だった。
「よくやった城崎!今回の5教科490点以上はお前だけだった。お前はクラスの自慢の生徒だ」
「そ、そんなことないですよ」
ヒソヒソ
「また?」
「自慢かよ」
「はいはいすごいすごい」
『え…』
クラスは賞賛の言葉で埋め尽くされると思っていたジンは正反対の反応がきたことによって 心を閉ざしてしまったのだ。今まで努力すれば褒められ報われた彼にとって壁に阻まれた瞬間だった。
『なんで…おれが否定されなきゃいけないんだ…』
現在図書室に戻りマリの目を見れないジンは、自分が顔似で易い性格を知って嫌な顔がマリにバレないようにうつむいていたが、マリは心配するでもなく、ただジンを見つめていた。そんな空気に耐えられなくなったジンはマリに背中を向け歩きだした。
「帰るわ。」
「え、もう?」
「うん単位は足りてるから進級はできるよ。ちょくちょく来てるし」
ジンは中庭へ続く窓を開け、そこから帰ろうとした時 ガラガラバタン!と勢い良く扉が開いた。
目を向けると肩まで伸びた髪に周りの人間を威嚇するかのように赤色の髪色をした男が入ってきた。身長169センチのジンが見上げるほど身長が高く、威圧的な雰囲気を放つが西洋風の端正な顔立ちをした男 東条カルマ(とうじょうかるま) がだらしなく歩きながら入ってきた。カルマはジンを見つけ声をかけてきた。
「やぁ城ちゃん!」
「東条」
とっさに逃げようとしたジンだったがカルマは素早くマリの後ろに回るとマリの肩を掴んだ。
「おっと!待って待って。この子どするのー?」
「ん?」
マリは自分の身に危険が及んでいることをまるで自覚していなかった。そのためカルマの顔を不思議そうな顔で見ていた。
「お前状況分かってるか?」
「わかんないです。私に何か用事ですか東条くん?」
「アホなの!?今お前人質に取られてんの!」
思わずジンがツッコミを入れてしまうほどマリは天然だった。
「あ、そか…ひゃー助けてー」
助けを求めるマリの声はまるで初めて演劇をした少年のように棒読みでジンに助けを求めた。
「.......んま てことだからさ城ちゃん」
「てことだからって どういうことだよ。」
冷静に突っ込むジンだったが行動とは裏腹に頭の中はパニック状態に陥っていた。だがそんなことはお構い無しに、カルマはジンを威圧し言葉を吐いた。
「体育倉庫に来てな。久しぶりに 遊ぼっか」
「…」
「だんまりおつだわ.......coward(臆病者)。」
そう言うと、カルマはそのままマリの手を掴みどこかへ行った。
「東条君?どこ行くの?」
「勉強教えてほしーなーと思ってさ」
『なに仲良く東条と話してんだよ。』
言葉に出ず頭の中で放った言葉が通じるはずもなく、不安な顔をしていたマリの顔を見られなかったジンは、そのまま部屋を出た2人を見ていることしかできなかった。
「おれになんの恨みがあってそこまでしなきゃならないんだ東条」
『ほうっておいて帰ろうか。留奥には悪いけど。』
ジンがその場からゆっくり離れようとした時ジンの背中に衝撃が走った。「んがぁぁ!」と断末魔を上げるとその場にお尻を突き出し前のめりに倒れた。背後には拳を突き出したゼンタが怒気をまとい立っていた。
「お前ほんとにそれでいいのかこのたわけ!」
「いってぇ…お前!!どっから!」
「それでいいのかと言っておるんじゃ 言わずとも貴様の考えてることは分かるわ!」
「いいんだよ」
いいわけがなかった。自分でも分かっていたジンの中に思うことは「怖い」「逃げる」「なんとかなる」ネガティブな思いで埋め尽くされていた。
「んなの...」
「あの娘がどうなってもいいのか。お前の唯一の友達じゃろ それも無くすのか?」
「…」
「お前はそれでも男か。好きな女子も助けず何が 男 だしょうもない。」
「うるせぇな。お前には関係ないだろ子供には分からない話だろが」
ジンの見ていた床に滴がこぼれ落ちる。とっさに涙を拭った。
何も出来ず戦うことから逃げ続けたジンに染み付いた負け犬根性。
「泣いてねぇよ!」
「情けない!自分では分かっておるんだろう。助けたい、だがアイツに返り討ちにされることを考えると怖くて動けないか?。」
「うるせぇな 図星ばっか付いてきて なんなんだよお前はよ!」
「お前の師だ」
ゼンタはジンの腹部にまで跳ぶとジンの腹部に 突き を繰り出した。く の字に仰け反るジンに向かって檄を飛ばすゼンタの目はまっすぐジンの目を見つめていた。
「いいかジン。やりたいこともできずに生きるなんて死んでるようなもんだ。勉強したり友達と話すのがすきなんじゃろ?小生がせっかくお前を鍛えてやると言っておる。だから、自分の居場所くらい自分の力で守れ。逃げるなジン!」
「お前…」
「師匠と呼べ!」
ニンマリとはにかんだその顔だったが、ジンにその顔はどこからどう見ても普通の少年にしかみえなかった。
「弟子を守らずして何が師だ。言ったろうお前の軟弱な精神を鍛えなおしてやる。」
「.......えっと 何する気だい お師匠様」
「にっひっひ チェストォ!」
ゼンタは巻物を広げた ただそれだけだったが
巻物から白い光が溢れ出たその瞬間大きな揺れと共に バチン と音がするとジンの背中に衝撃が走る。「いっあぁぁぁ!!!」と叫び声を上げたジンの頬には手形がついていた。ジンの目の前には成長したゼンタが立っていた。
年齢は30くらい少し生えた不精髭が精悍な顔つきにさせていた。
「珍奇な修行開始だジン」
「だ、誰だぁぁ?!」
巻物から禍々しい何かが現れるとジンはこしを抜かしてしまった。
「ぎゃぁぁ!なにこれ!」
その日旧校舎は取り壊されることになる。
数十分後。体育館倉庫ではカルマはマリを体育館の倉庫に置いてある机に座らせていた。そこには黒髪の真面目そうな男 滑川久慈と居た。 マリは相変わらず状況が分かっている様子ではなく、黙々と1人ノートに何か書いていた。
「あのヘタレ来るかねぇカルマ」
「どうせまた逃げるさ。」
「けど今回はこいつが居るからどーかなー」
「HEROになれるタイプじゃないよアイツは」
カルマは小学校の頃からジンのことを知っていた。小学校の頃は活発な子供でリーダー的な存在だったが、中学の頃カルマとケンカしジンは負けた。そこからジンは少しずつ変わり今のような性格になってしまった。
カルマが昔のことを思い出していると、マリと目を合う。マリはカルマの顔をじっと見て一言放った。
「東条君は坂崎君が嫌い?」
「うん嫌いかな 今 は」
「?」
マリの発言に少し嫌な顔をするカルマだったがすぐに元の端正な顔立ちに戻り笑顔で質問に答えた。
カルマは拳を握りしめかけていた。ジンのことになると苛立つ自分に向けたその拳を静かにおさめた。
「黙らせようぜこの女」
「好きにしなよナメチン」
「その呼び方やめろ!」
その時倉庫の扉が激しく開かれる。人が立っている。逆行でよく見えなかったが 目が慣れた3人は3秒程でその人物を認識した。
「おぉ来たか弱虫ヘタレ君」
ポケットに手を入れながらジンに近づく滑川にジンは動じずにジッとカルマを見ていた。
「留奥を逃がしてやってくれないか。」
「あぁん? ジンのくせになに言ってんだ?」
「うおぉら!」
滑川のパンチを避けるジン。その目は先程の死んだような目ではなく覚悟を決めた光を灯していた。
「マグレのくせに調子にのんな!!」
「何してんのナメチン」
「こいつ!こいつ!」
『ほんとに避けられる…なんか遅い…ってか止まってるみたいだ…』
数十分前。 図書室だった場所は道場になっていたがそれは禍々しい雰囲気を出していた。ジンは恐る恐る道場に入ろうとすると、ゼンタに背中を押され前のめりに倒れた。周りを見渡すと天井は無く空は藤の花のような色をし美しさと同時に無限に続く空を見ていると、吸い込まれそうな不気味な気持ちになった。
ゼンタは倒れたジンの横を通りすぎる五歩ほど歩くとジンに振り向いた。
「お前はあの巻物 妖舞の書 に触れた。ソレだけでもうアイツらに勝てるんだが.......。」
突然ジンに殴りかかるゼンタそれを華麗に避けるジンは自分でも何が起こったのか分からないようだった。
「何すんだ!」
「ほらな。」
道場の壁には大穴が空いていた。
「これ...お前!」
「ワシは普段貴様に対して気配を消して つっかかっとる が今は殺意を出した。3割でやったが人の拳くらい止まって見えるはずだ。」
ジンは自分の体をじっと見つめていた。それを見ていたゼンタは口角が上がる。
「その巻物は小生の母上が書き記した物だ母上はその巻物に少し特殊な術をかけていてな。」
「術?」
不思議そうにポケットから巻物を取り出すとジンは巻物を眺めた。
「人間の気持ちに反応しその形 性質 を変える不思議なものだ。よって小生のような純粋な妖には使いこなすことができぬのだ。」
「なんでまたお前のかぁちゃんはそんなわけわからないものを」
「母上のことなのでな小生にはわからん!ただひとつこの奥義にて注意すべきことがあるとすれば。負の感情に負けぬことだ。ジン」
「へいへい。」
「ふむ。口で言っても仕方ないか こやつらと やり合ってもらおうかな。」
するとどこからか煙のように現れた ソレ らは人とは似つかない姿をしていた。その中には成長したゼンタを軽く凌駕するほど大きな者まで居た。
「なんだこいつらぁ!」
「小生の弟子達の妖怪達だ。 お前達 こやつをもんでやれ」
「かしこまりました。」
その瞬間 目の前に居た大勢の妖怪達は腕を組んだゼンタを残し消えてしまった。
次の瞬間 ジンの上に現れた10人ほどの妖怪は様々な武器を持ちジンに襲いかかった。
「あぶねぇ! やめろー!」
「本気でやらんと修行にならんだろうが。」
「やりすぎだー!」
「自信をつけさせるためだ。少々手洗いが5日間付き合ってもらおう。時間のことなら心配するな。ここは取り残された世界だ時間の流れが遅いからな。」
「ざけんなぁー!」
そうして現在修行を終えたジンは無事にこの世に戻ってきた。時間にして7分走って体育館倉庫に走ってきたジンは今まで立ち向かうことが出来なかった壁に立ち向かっていた。
「クソクソクソ!」
我武者羅に攻撃を続ける滑川だったが、その突きや蹴りはすべてジンにの体捌き《たいさばき》によって無力化された。
自分の攻撃の反動でよろけた滑川の頬を、ジンの掌底がかすめる。滑川の頬に切り傷を付けたた。
その一撃に驚いた滑川は、腰を抜かすとポケットからカッターを取り出し投げてきた。ジンは軽く添えるように腕を動かした、ジンの手にあったのは眠るようにそこに存在したナイフだった。
「こんな危ねーもん投げるなよ。お前怪我するぞ」
心配。今自分に危害を加えて来た者に対する気遣いをみせるほどジンには余裕ができていた。
ジンはカッターナイフを床に落とすと踏みつけた。
「へぇそんな力隠してたんだね。…わかった。降参しましたっと。さ、ナメチン行くよ。」
「待てよ。」
カルマの肩を掴むジンの顔に怒りはなかった。あったのは正々堂々とカルマと向き合おうとしている目だった。
「なに。もう用ないでしょ あの子にも何もしてないし これからキミに手は出さないし。だから」
「東条...ごめんな。」
ジンの口から出た言葉に驚くカルマの時間は一瞬止まったがすぐに口を開いた。
「何謝ってんの」
「おれがもっとしっかりしてれば東条 お前を1人にさせずに済んだかもしれない それを今になって後悔したんだ。全部人のせいにして逃げてたんだよ。そうやっておれはネットに逃げてた。」
「…。」
ジンの言葉を静かに聞く東条
「ネットでおれの話聞いてくれるヤツらは結局おれのことなんかどうでもよくて 暇つぶしを探してただけだった。 けどおれはそれが心地良かった必要とされてると思ってたから。 結局1人なのになほんとバカだった。1人になってお前のキツさが分かった気がしたんよ。」
「うるせぇな お前に何が分かるんだよ おれのこの気持ちがっ…」
カルマの腹部にはハサミが刺さっていた。
「いっ...」
その場に膝を着くカルマ。ジンが後ろを振り向くと、滑川がマリの首に彫刻刀の刃を当て人質に取っていた。その顔は先程までの滑川の顔ではなく、魔物に乗り移られたかのように顔は恐ろしい物に変わっていた。
「はにゃはははは!」
「ナメ…カワ お前」
「カルマ!」
倉庫の床は赤黒く染まり冷たいコンクリートは泣いている
怒りが溢れ出てくる
「怒ってる人を邪魔するの血を見るのも大好き!だけど…今まで偉そうにしてたヤツを見下すのはもっと…気持ちぃぃ…あぁ好き…」
滑川の股間が膨らんでいく。その様子を見て嫌悪感を抱くマリは逃げようとしたが捕まってしまう。
「ほーい逃げられませーんよー?」
「は、離してください! 痛いです!」
「やめろ!滑川!」
「嫌だねー べーべろべろべー。あ、そうか俺のこと知らないのか?君らほんと無知だねぇ。これでも有名人なんだけどなぁおれさぁ今日も朝ニュースになってたのに知らない? 過去のことなのにメディアはしつこいしそんなこと報道するくらいならもっと真実を報道すればいいのになぁー」
「城崎…警察…呼んでくれ。」
「カルマ!」
滑川が3人を煽りを入れている時、カルマが苦しそうに起き上がろうとしたが立ち上がることが出来ずに倒れてしまう。
マリの首の彫刻刀は徐々に赤く染まっていった。顔には涙を浮かべる。
「痛いっ!」
「やめろぉぉ!」
その瞬間その場の空気が変わった。
「あひ?なにかにゃ?」
部屋中に赤黒い渦が出現しだした。それは次第に数を増やし渦の中から何かが出てきた。
その時倉庫の扉が開いた。そこにはゼンタが脂汗を額に滲ませ立っていた。
渦の中から人ではない者 たちが現れた。彼らは周りにいる生き物を取り込もうとこちらにてを伸ばしてきた。
「にゃ!にゃんだこれ!離せ!!!うがぁ!」
「きゃ!」
「ぐっ…」
ゼンタが止めようとした時既に倉庫内は妖怪で埋め尽くされていた。膝をついて目に光がなくなったジンに向けて怒声を発する。
「怒りに身を任せるなジン!!」
その声も虚しく全員闇に取り込まれた
「大事な者まで傷つける気か」
声が聞こえた
海中に漂っている
生き物は居ない 人間 なんているわけないのに なんで聞こえるんだ。
「ゼンたんが忠告してあげたのに はぁ…」
ぜんたん?あー嫌な予感がする。ふと水の中で目を開けるとハッキリ姿が見えた。
俺と同い年かな と思うジンの顔は整った顔立ちの女性は桃色の髪が水中でなびいている。
「うぅ…うらやましい!うらやましいぞ人間!ゼンたんと間近で話せるとかずるいぃ!」
「は、はぁ師匠がどうかしましたか。ってかここどこみんなどうなったの」
「質問が多いが、まぁいい 壱ここは私の記した物の中である妖舞踏劇集の一つの中にいる 弐ゼンたんは私の息子 参仲間は生きている 四羨ましいそこ変われ。」
ゼンタの母親だということくらいしかハッキリ分からなかった。
ジンの中ではすべてのことになんとなく察しはついていた。だがいつもの癖で聞いてしまった。正直死んでしまったものだと思っていた水中で息ができ、目の前にいる女性がハッキリ見え、声がしっかり聞こえるこの状況でなぜか驚くことはなく純粋な質問だけが出た。
「戻せるかあそこに」
指を指した方には太陽があった。
「容易い ワシを誰だと思っておる。」
「妖怪の総大将」
「ふん!今回だけだぞ 人間 いやジン」
「…ゼンタ?」
女性は羽織を脱ぐとそれをジンに被せた 一瞬ジンにはゼンタに見えた女性の姿は煙のように消えてしまった。 その瞬間周りの水分は消し飛び 炎 が上がり周りは荒野になるとビルが生えた。気がつくとあの体育館倉庫で全員眠っていた。ゼンタ以外
とりあえず全員の様子を確かめたけどみんな生きていた。病院に連絡したんだけどイタズラだと思われてなかなか来なかった。妖怪にさらわれかけて とか言ったのはミスだった。と思う
あれは結局夢だったのかわかんないけどとにかくこいつが助けになったのは事実だから。
「なんじゃ。」
ゼンタを見つめていたジンは振り向きもせずに返事をした。
「いろいろありが…とう」
「へっ 小生に気を使っておるのか?」
「べつにそんなんじゃねぇし!」
「ちょっとは成長したの」
ゼンタはにっこり笑うと「明日からも稽古をつけてやる」と、言った。その様子見てジンは胸に手を当て思いふけた
『なんか久しぶりだな、こんな人に怒られたの…けどなんか 気持ちいぃな』
「ほれぼーっとするでないおなごを助けてやれ。此奴等は小生が運んでやる任せろ。」
「いや救急車来るし」
「もっと早く行くぞ。転送の書で送ってやる。」
「嫌な予感…お前の便利道具色々雑だか…って言ってるときにおまぁぁぁぁぁ!!!!」
転送の書を空中に放り投げると最高点で止まった。その瞬間その場にいる全員が巻物に吸い込まれた。
病院に担ぎ込み、さっきのミスを踏まえたジンはうまいこと「動画の撮影でふざけてたら事故が」と少し緊張しながら説明した。
二日後滑川とカルマは一足先に起きた
滑川は気がついた瞬間連れて行かれたみたいだった。改心してくれたらいいけど。
「ん、あれ ここは」
「あぁ!トメ起きた!よかったぁ!」
「あれ…んーと城崎君は?」
「あぁ!城崎ならトメをココに運んだ後なんか和風な感じの子供と居たらしいけど看護婦さんが言うには」
「そっか」
少し残念そうな顔をしたあと笑みがこぼれた。
「いやぁ漫画かなーって思ったわー」
「え?」
「トメが不良に襲われてるのを助けたんだって!!」
「そうだったんだ。」
「怪しいけどぉー」
『ありがとジン君 なんかヒーローみたいだね』
目の前の少年のフィギュアは青い衣装を着て片手にノートパソコンを持っている。みぎてはサムズアップしている。
校門前で影が2つ一人はうでを組んでウロウロしている
「ワシが保証してやる」
「心配なんだけどその保証」
「人間の心を読むなんぞ小生にとってたやすいことよ」
「うーん」
「ウジウジすな」
背中を思い切り叩かれ「ぎゃっ!」っと断末魔をあげるその声に気づいたのか校舎の窓が開いていく。遠くから先生の声が聞こえてくるのは授業中に窓を開けた生徒を叱っているのが察せる。
「おーい城崎!」
カルマがいの一番にこちらに手を降っているジンは恥ずかしそうに手を少しだけあげた。
「ほれ見てみぃ」
自分のクラス以外にも窓から生徒達が顔を覗かせていた
「悪者退治したヒーロー! 話し聞かせてくれよ!」
「さぁ行って来い」
「じゃ、じゃぁ仕方ねぇしーちょっと暇つぶしに行ってくるわ」
「強がるでない!ここで待っておるぞ胸張って行って来い!」
『お前のせいでまた学校行きたくなってきたじゃねぇかよバカ師匠』