3 「うっぎゃああああ!(絶叫)」
茂みの中央が割れて、そこからふたつの影が躍り出た。
「うっぎゃああああ!」
あたしは驚いて跳び上がり、絶叫した。
相当大きな声だったのか、影が一瞬ひるむ。その隙をついて、あたしは身を翻して横へと避けた。
ふたつの影は、ふたりの男だ。それも大男だ。黒ずくめというか、くすんだ深緑ずくめ。長袖に手袋に、目出しの頭巾まで被っている。肌が一切出ていない。やましい稼業に違いない。
泥棒?っていうか、盗賊? 場所的に、山賊?
叫びながら横手に身をかわして、そのまま馳ける。でも片方の男がすぐにそっちに回り込んできた。Uターンして反対へ逃げる。だがそっちにはもうひとりの男がいる。
そいつはなにかわめきながら、右手を突きつけてくる。手袋をした右手に掴んでいるのは、小振りの斧……。
ギラリと光る刃先を見て、血の気が引いた。一瞬、気が遠くなりかけた時、
「……っしろ!」
男の声が聞こえて、意識を取り戻した。
「静かにしろ!」
言葉が、聞こえる。
寸前まで、男たちの声は意味のない唸り声だったのに、突然意味が頭に飛び込んできた。
「っきゃああああ! ああああっあああ‼︎」
しかし、意味を理解したからって、それに従うかどうかってのはまた別だ。ていうか勝手に叫び声が出て止まらない。
「きゃああああああ! んぎゃあああ!」
「静かにしろってんだろうが!」
「やああ! んぎゃっ! ぎゃーああああ!」
「この、こいつ、こ……」
男ふたりはわめき続けるあたしの様子に戸惑っている。顔を見合わせて相談しはじめた。ぼそぼそともれ聞こえる、これ何もんだ、とか、ほんとにヒトか? とか、もしかして魔物、とか。
その間も叫び続けるあたし。
埒があかないと思ったのか、とうとう男のひとりがこっちへ向かって一歩踏み出し、
「人だろうと魔物だろうと、片付けちまえば同じことだよな」
手斧を振りかぶる。高く掲げられた手斧は、陽の光を浴びてよりいっそう輝き、あたしは絶叫しながら気が遠くなっていっ……
た、その時。
「おりゃああ‼︎」
怒鳴り声があがり、男が横ざまに吹っ飛んだ。
そして
「ッシャッ!」
鋭い掛け声が聞こえて、同時に後ろの男がよろめいた。
「ざっけんなやああああ!」
さらに声があがる。凛だ。
手斧の男を吹っ飛ばしたのは、凛だ。男にパンチをくらわせてから、鳩尾に連続で膝蹴りを入れている。
「てめ、防具仕込んでんかよ……!」
凛が低くいう。
男は衝撃にふらついてはいるが、それ以上は崩れない。凛のストリートファイトでの経験では、ここまでまともに攻撃を入れたらもっと崩せてるはずなんだろう。
男はふらつきながら一歩後退し、体勢を立て直す。そして猛然と向かってきた。
「うおおおおっ!」
野太い叫びと共に、振り上げられる手斧。
「うっぎゃあああああっっっ‼︎」
「やあああああああああっっ‼︎」
ゴッ!
叫びがふたつ重なった。ひとつはあたしの。もうひとつは眞子の声だった。そして同時に鳴った物音は。
岩で、男の頭をかち割る音。
「かなめ、凛ちゃん!」
ゆっくりと崩れ落ちる男の背後から、眞子の姿があらわれた。眞子は両手に、重そうな岩を抱えている。
「大丈夫っ?」
眞子は抱えていた岩を放り投げた。岩は俯せに倒れた男の背中に、ドスッと鈍い音をたてて命中した。
しかし、男の反応はない。
……死んでる?