表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/26

23  加護と誇り

 


 村の周りの塀も、見張櫓も、この時まではほぼ、かたちだけのものだった。攻め入ってくるような敵もなく、攻め入られる要因になるような財宝もない。我らを悩ますものといえば、山道で偶々出会す賊か、住処から迷い出して塀の外をうろつく魔物か、籠季(ろうき)に荒れ狂う強風だけ。

 はじめて、攻め入る敵を見た。そして。

 新たな敵の前では、塀も櫓もやはり意味などなかった。


 黒い軍勢は悠々と塀を越えてきた。

 羽根のあるものがいた。すさまじい跳躍力で飛び越えるものもいた。

 皆、一様に黒い。人のかたちに、黒い羽根を纏い、または黒い獣の毛を生やしていた。


 村中を走り回り、若い女と見るや横抱きにして攫っていく。村の外の壁際に黒い幌の車がつけてあり、娘たちはそこに押し込められた。

 男たちはーー特に若い、血気と覇気に逸る青年たちはーーすぐさま得物を手にして立ち向かった。

 だが、あっという間に斃された。剣で、爪で、牙で。


 時間は、さほどかからなかった。

 しばらく暴れ、目につく娘を攫い尽くすと、黒い軍勢は去っていった。

 黒く巨大な獣の引く、黒い幌の車と共に。

 我らの、娘たちと共に。


 亡骸を安置し、怪我人の手当てをして、それでも嘆いている暇などない。

 各人が仕舞ってある武器を取り出し、山の上に事情を伝えに行った。

 やつらは、またやって来る。

 そう誰もが予感していた。


 我々ルドゥザーイはかつての勇者との縁を誇りに、日々の鍛錬は怠らない。

 隙をつかれたが、次には一矢報いねばならない。

 手斧の刃先や鏃の先端にルグォの果汁を塗り込み、次の襲撃に備えた。

 勝てるとは思えない。

 だが、幾人か残った娘たちだけは守らねばならない。守り通そうと決意した。


 娘たちを川沿いの作業場の地下室に隠す。その周りを厳重に固め、さらに囮の本拠地をたてて布陣を張る。

 手早く計画を立て、すぐに実行に移した。

 その様子を、おかしな鳴き声のあの鳥が、空中を飛び回りながら見つめていた。


 山の上の村には、魔の奇襲があったと、そっちも厳重に注意をと伝えに行っただけだった。だが有難いことに、彼らは選りすぐりの精鋭をすぐさま差し向けてくれた。

 命の保証はないといったが、元より承知と……それは誠に、申し訳のないことになってしまうのだが。


 そして、翌日。


 朝に、あの鳥。

 そして午に、またあの軍勢がやってきた。


 我々は、かつての勇者に繋がるもの。

 民は皆、剣を、手斧を、弓矢をふるい、魔に立ち向かう。恐れはない。蛮勇といわれようと、決して退かぬ。ウルデウの加護とルドゥザーイの誇りにかけて、立ち向かう。


 そして。

 そしてーー



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ