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20  晩ごはん

 


 屋敷の広間は大盛況だ。

 大きなテーブルがいくつも設えられて、村人たちが次々にやってきて、料理がどんどん運びこまれてくる。

 あたしたちは老ジシといっしょに、一番奥のテーブルについた。

 すぐさま、ひとりひとりの前に大きなお椀と匙が置かれる。椀の中には、野菜のたっぷりと入った透明なスープ。


「どうぞ、ご遠慮なく」


 老ジシがいって、鎖骨に触れながら鉢に頭を下げた。他のテーブルの村人たちもみんな同じ動作をする。ここでの「いただきます」ってかんじなのかな? あたしたちはすかさず真似た。雛だけは、その動作をやりつつ「いっただっきまあーす!」と言葉もそえる。


「あ、おいしい」


 ひとくち食べて、眞子がつぶやく。あたしもひとくち。あ、おいしい。たしかに。


 見た目での予想と、すこし違った味。まろやかで甘くて、かすかに酸味も感じた。例えるなら林檎とか梨とか……ああ、そうだ。野菜だけじゃなくて、きっと果物もいっぱい入ってる。


「ね、凛ちゃん、おいしいね」


 眞子が凛にいった。凛がうなずく。


「ん。なんか、なつかしい味」

「へえ、なつかしい? 凛ちゃんの田舎って、こういう味付けなんだ」


 眞子が無邪気にいうと、凛は露骨に眉根をしかめる。だけど眞子はぜんぜん気にせず、続けて問いかける。


「でも田舎ってどっちの? 九州のほう? それとも大阪のおばあちゃんとこ? あと……広島だっけ、そこにもいたんだよね?」

「どこでもいいや……いい、だろ」


 いかにも不機嫌に、凛が吐き捨てた。そういえば凛の言葉には、どこだかわからないけど訛りがある。いまもそれが出かけて、慌てて標準語っぽく直してる。

 もしかして、意外にそういうの気にしてるの?


「ねーえ、マコ」


 雛が眞子の袖を引く。


「なあに?」

「鳥さん、食べたそう」


 眞子の膝にはアリ・リウがいる。眞子の肩にとまったアリ・リウは、テーブルにつくと眞子の膝におりた。そこからずっと、眞子の膝に留まってお腹に身を擦りつけている。


「ほんとだ。お腹すいた? 食べたいの?」


 アリ・リウは身を伸ばし、ちちち、とかわいらしく鳴いた。


「これが好物だよ。食べさせておあげ」


 隣のテーブルから、ナッツやドライフルーツを盛った鉢が回ってきた。アリ・リウはテーブルの端にぴょんと飛び乗り、鉢をついばみはじめた。


「しかしねえ……僕の正体がアリ・リウだったなんて」


 誰かのいった言葉に、老ジシが煤けた石を挙げてこたえる。


「そうだ。この石で、畏れ多くも智慧の清き鳥を、魔の下僕(しもべ)と操っていた」

「智慧の清き……アリ・リウとは特別な鳥なんですか」


 沙弓がきく。


「特別……。そうだな、特別といえば特別だが、この村の近辺にはよくいる鳥だ。珍しいものではない。だが聖なる鳥だ。蔑ろにはできない」

「聖なる鳥、ということは、信仰の対象であると?」

「いいや。親しみ近しむものでもあり、崇め奉りはしないな。しかし清く尊い。なにしろ、過去には勇者と共に魔王の征伐に赴いたのだから」


 老ジシの、勇者と共に魔王の征伐、という言葉をきくと、村人たちは鎖骨を押さえて目を閉じる。口々になにかつぶやいている。祈りか呪文かってつぶやきの途中に、ウルデウ、と聞こえた。

 それが終わると、村人たちの視線はテーブルの縁のアリ・リウに集まる。注目を浴びたアリ・リウは、得意げに首をそらして、ちっち、と鳴いた。


「ところで、こちらの方こそおたずねしたい」


 老ジシが沙弓に体を向ける。


「あなたがたは、何者であらせられる。我々には用をなさない魔除けを使い、アリ・リウにかけられた術を解き、魔石をただの石塊(いしくれ)と化した。あなたがたは……」


 そこで言葉を止める。

 いおうとして、ためらっている……いったいなにを?

 村人たちも息をひそめて、老ジシの次の言葉を待っている。


「あなたがたは、まさかーー」



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