13 お茶「いただきました」
「おめでたいことで。得体の知れないモンを引き入れてよ!」
扉が乱暴に開いて、三人の男が入ってきた。
三人とも、やっぱり「おじさん」って年代で、だけど勇んだ様子がすこし若々しく見せている。
「ランダ、あんたまだ魔物だなんだっていってんの?」
おばさんのひとりが、先頭のおじさんに向かっていった。
「この子たちが魔物なはずないよ。ちゃんと言葉を喋ってるし、ほら、魔物にゃ毒なルグォの実も食べてるよ」
「うん、おいしいよ!」
おばさんの指したプラムっぽい果物を、雛がすかさず齧る。
「魔物じゃないなら、賊かもな。安心させて村の中に入って、後から仲間を引き入れるって算段で」
「あんた馬鹿だね」
さっきのおばさんの隣のおばさんが、ぴしゃりとランダの意見を撥ねつける。
「入ってどうすんだよ。賊どもが畑を耕すのかい? 果樹の世話すんのかい? 機織って縫って服を仕立てんのかい? 金目のたんまり詰まった街場の蔵を荒らすならともかく、ここを襲ったところで手間に見合う稼ぎはないよ。もしも賊がここいらを流してて一稼ぎするってんなら、他所に取引きに行く車を、行きがけのついでに軽く一回襲ってみるくらいが相場だね」
その言葉に、あたしたちは思わず身を竦めた。
取引きの車を行きがけに襲う、って、つまりさっきの……。
「金目の蓄えもたいしてなし、だだっ広くて占拠も面倒、攫っていけそうな若いのはいなくなってて村人は年寄りだけで、その年寄りは面倒にも血の気の多いの揃い。そんなとこをわざわざ手間かけて狩りに来ようだなんて、ランダ、あんたみたいな馬鹿しかやりゃしないよ」
「なんだと、この……」
ランダの眉が、みるみるつり上がる。
「馬鹿だ馬鹿だって、なんだそのいいぐさ! リシャ! てめえそれでも俺の女房か⁉︎」
「残念ながらそうみたいだね! 取り替えがきくならこっちからお願いしたいけど!」
「こいつ、表へ来やがれ! 口のききかたを教えてやる!」
「そっちこそ、こん中にいらっしゃいな。淑女みんなで礼儀作法を教えて差し上げますことよ?」
ふたりの口喧嘩がはじまり、周りのおばさんたちが口々に囃し立てた。扉の傍に取り残されたふたりのおじさんは、やれやれ、というように天井を見上げている。
「ごめんねえ騒がしくて」
「いつものことだからね、なんでもないよ安心しな」
「いがみ合ってるように見えるかもしれないけど」
「じゃれ合ってんのさ、仲がいいんだよ。それより、お茶のおかわりはどうだい?」
「いえ、ありがとうございます。充分にいただきました」
沙弓がいうと、
「ヒナはまだ食べるぅ!」
雛が高い声でさえずった。
「そうかい! じゃあどんどんお食べ」
「うん! あーりがーとー」
「あら、でもほどほどにしときなよ」
「そうだよ。夕飯が食べられなくなっちゃ困るだろ」
おばさんたちは雛を取り囲み、楽しげに構う。
「……年寄りばかり、って」
凛がぼそりとつぶやいた。
さっきの、リシャおばさんのいってたこと。
雛を構うおばさんたちはとてもうれしそうだ。感極まって、涙ぐんでる人までいる。
あたしたちみたいな、若い子が珍しいんだ。
若い村人や、子供たちはどうしたんだろう。それに、魔物への警戒心と村を囲う高い塀……。
あたしの背中に、ぞくりと悪寒が走った。




