一方その頃
大地ら2年生がひたすらに走っている中、元春はマスクを被りブルペンにいた。
「元春、今日は抜き球中心に行くから」
「分かりました、とりあえずカーブ20球くらい
投げましょう」
元春が話すのは、大河原高校のエース左腕
西ヶ原竜平である。彼は今春のセンバツで、2試合に先発し完封勝利をあげるなどの好成績で、一気にプロのスカウトから注目を受けた。
ただ、彼はあまりプロに興味はなく、プロ志願届を出すかもまだ決めていない。
そんな彼の最大の武器がカーブやフォークといったいわゆる「抜き球」
彼の最速は142km/hと、高校生の中では決して遅い方ではない。しかしそこから40km/h近い緩急で相手を抑えるピッチングスタイルが魅力である。
そんな彼だが、もうすぐ始まる春季大会に向け練習しているのだが、自身の女房役を他ならぬ元春に任せていた。
そして、元春は毎日自主練の度に、西ヶ原の球を受けていたのであった。
なぜ彼が、初練習にも関わらず西ヶ原の球を受けているのか。
それは彼が、大河原高校から推薦を受けて直ぐに、大河原高校の寮に入寮し、先輩たちとひたすらに自主練をしていたからである。
そしてその自主練の際に今大地たちがやっている走りのメニューをこなしてきたのだ。
そして監督もまた元春の野球に対する熱意を受け、特待生のような扱いをしているのだった。
ただ、彼が自主練に参加していたことは他の1年生には知られたくないので、大地ら他の1年生には黙っているのだ。
そうとは知らず大地は元春に対する憤りを覚えながら、ひたすらに走っているのだった。
みんなで走るより1人で走る方が何倍を辛いと思う。