アマゾネスの門出お祝いはバトル祭り!
ぱんぱかぱーん!!
はい、ここからは私、突撃リポーターことタニアがお送りいたします。
ここはシェーラニタイと呼ばれる皇国北部の集落です。
見てください、集落はお祭りモード。普段は静かな……あ、普段から賑やかだよね。普段よりもっと賑やかな空気に包まれているんです。と言うのもこのシェーラニタイ。今日、この集落から旅に出ようという女の子で、いっぱいなんです!
見る限り女の子、女の子、女の子。
女の子ばっかりですね。そう言えば見送る集落の人も女性ばかりです
この集落の特異性も含めて、解説をホーリーさんにお願いしたいと思います。ホーリーさんよろしくお願いします!
「はーい、どもー。シェーラニタイ出身のホーリーです。アルフくーん、エルちゃん、見てるー?」
ホーリーさん、前に出過ぎ……。
こほん、ではまずシェーラニタイについての説明をお願いします。
「シェーラニタイは女性のみで構成されてるアマゾネスの村。女の子は村を出て男と結ばれて……んで子供だけ宿して帰ってくるの」
おお、何故そんなシステムがあるんでしょう?
「シェーラってそもそも死の女神の名前なんだよね。その力を受け継ぐことができるのは女性だけってこと。自分でやーめた、と思えば普通の人として暮らせるけど、ここで受け継がれる剣術や武術は女戦士には垂涎モノだからね。そんな人たちがまた新たな住人になるわけ」
力を求める女性たちの集落、というわけですね! 男はどうなっちゃうんでしょう。怖いので今回は聞かないことにしておきます。……で、今日の門出というのは?
「あの子達はここで生まれた子なのよね。で旅立つということは、この村の技術をちゃんと体得したということを認めてもらう試験でもあるわけ」
つまり……
「今、みんなお祝いしている人たちが旅立つ子たちをボコボコにするわけよ。それをかいくぐって、もしくは返り討ちにして、村の境界まで到達できれば、免許皆伝♪ 無事旅立ちを認められるって寸法ね」
試験とお祝いとお祭りを兼ねてる訳ですね! すごく合理的です。合理的なんですが、こう……なんていうか、門出のお祝いにみんなで殴り合うのかと思うとちょっと可哀想になってくるんですが。それに免許皆伝になれない、つまり境界にたどり着けなかった子は外に出させてもらえないわけですよね。
「もちろん、また一年修行し直し。可愛い子だからこそちゃんと世間に通用する強さを身に着けていってほしいっていう意味もあるのよ」
ほうほう。ところでホーリーさんは一発でここから出ることができたんですか? ホーリーさんと言えば皇国の研究アカデミーに配属された後、世界三大強国相手にたった10人で戦った英雄のお一人なわけですが!
「私でも1回失敗したのよねー。この手荒い送別会は怖くなかったんだけど、ここから出て境界までにある森がちょっと厄介だったんだよね。うちの師匠が潜んでてて、不意打ちくらっちゃったのよね」
ホーリーさんでも1回で出ることの敵わなかった……これはちょっと恐ろしいことを聞いてしまいました。
今回、この門出をお祝いされるのは26人いらっしゃるということですが、さて何人が残るでしょうか。
さて、まもなく時間となってまいりました。集落の中心にある長老の住む屋敷から門出候補生が姿を次々と見せています。
年齢はばらつきはありますが、だいたい10代半ばといった感じがもたれます。解説のホーリーさんがおっしゃっていたように、各地から武術を志す人間が集まっているので、顔や髪の色も随分と違いがありますが、どの人も線が細い、という感じは受けません。立つ姿勢も綺麗ですね。
それにしても見てください。それぞれが得意とする武器でしょうか太刀、青龍刀、槌、棍、扇なんて人もいますね。また何も持っていない人もいます。
「武術全般、なんでもありだから。得意な武器はみんな違うよ。無手なのは格闘技をする子もいるけど、魔法を使う子もいるんじゃないかな。ちょっと後ろでオドオドしている子なんかがそうかも」
おお、魔法も使える子がいるとは。もう立派な戦闘ができそうですね。それに対する住民の皆様もこん棒とか木刀とか、あ、包丁、手裏剣。こちらも武器の種類が豊富です。というかリンチです!
みんな笑顔で武器を手で弄んだりしてますし。この中には母親とか、お友達とか、いるんですよね!? とてもそうには見えないんですけどーっ。
「この痛み、いつまでも覚えているんだよっていう餞別的な意味もこもってるしね。そりゃあニコニコするよ」
ひぃ、予想以上に怖い!!
あ、ここで開始の号令が鳴り響きました。いよいよ、スタートです。
鬨の声が上がると同時に、見送りの住民たちが一斉に屋敷前の女の子たちに向かって突撃していきます!
「どっせーーーい!!」
わっ、可愛い掛け声と同時に地響きが起こりました。揺れが起こっています。
走っていた人たちはみんなその揺れに足を取られて動きが止まってます。
「そーれ、もーいっちょ、いっくよー♪」
人ごみのむこうから大きな槌が振り上げられるのが見えました。……わっ。また地響きです。なんてことでしょう。この地響き、あの女の子が起こしているんです。
見た目は門出メンバーの中でも特に幼いように見えますね。10才くらいじゃないでしょうか。桃色の髪にかんざし、桜柄のお着物。アクセサリーもたくさん凝ったものが目につきます。お洒落な少女という印象ですが、その全身を覆い隠してしまうよう大きな槌がそれをぶち壊してくれます。
そして人垣もぶち壊しています!
「ミィリアちゃん、さすがです」
ミィリアさんというらしいですね。後ろの魔法使いかなという女の子から声をかけられています。そしてそのミィリアさんがこじ開けた道から門出メンバーが飛び出ていきます。
ホーリーさん、意外と門出メンバーも連携するんですね。
「そりゃあ見送りメンバーも総攻撃だから、連携しないとやってらんないよ。それに村を出たって皇国の大きな街に着くまで、自分の居場所を見つけるまでの間、あの子たちは一緒に行動しなきゃならないんだから」
なんと、親睦の意味合いまで込めていたなんて、このお祭り、奥が深いですね。
さて、先陣を切っていく女の子が飛び出ていきましたが、一人倒した直後に横から殴られてしまいました。
殴る蹴る。けっこうえぐい。予想してたけどこれはヒドイ!!
「ぎぶ!! ぎぶだってば」
ああ、あの子は早速音を上げてしまったようです。もう一人守りに走った女の子も同じく餌食にされています。こちらはギブと音を上げる前に倒れてしまい、担架によって運ばれていきます。
ホーリーさん、仲良く連携するだけではダメなんですね。
「時には見捨てる勇気も必要ってこと。担架で運ばれたあの子には悪いけど、ね」
うわぁ、シビア……。
しかし、この総攻撃ラッシュを抜け出すことができるんでしょうか。あ、また一人脱落です。ミィリアさんが人垣をこじ開けるもまだ誰も突破することができない状態。
おっと戦局に変化が見られます。団子状態の人ごみが少しずつ移動しています。門出メンバーが少しずつ移動しているようです。
後ろに残された見送りメンバーは結構な数が脱落しています。怪我の種類も様々ですので、誰がということはわかりませんが……関節に攻撃を受けている人たちが多いようですね。
遠くからではわかりづらいので、意を決して突撃しようと思います。
……おお、中は剣檄が激しく、話し声がほとんど聞こえません。それに誰が誰を攻撃しているのかも本当にわからない……おおっと、目の前を扇が飛んでいきました。
「そんなことでは止められやしまへん」
独特のイントネーションですね。扇の使い手さんの子です。すごいすごい、振り下ろされる攻撃を次々扇で受け流して、仲間に全く当てさせません。しかも舞うような動きが綺麗! 武器に当たると金属製の音が聞こえます。鉄製の扇ですね開いて受けて、閉じて顔に一撃。変幻自在です。サイドテールにした長い髪もすらっとしたお御脚が出る衣装も黒がベースが艶やかさがあります。
「あら、どちら様ですのん?」
あ、どうも今日のお祭りをレポートしに来ましたタニアと申します。お忙しいところ申し訳ございませんが、お名前を。
「アーリィと申します。よろしゅうに」
この戦いの最中にも浮かべる笑みはなんとも妖艶……ちょっと同性ながらドキっとしてしまいましたね。
「アーリィさん、耐えられますかっ」
「ミオはんの力がこんな凄いとは思えへんだわ。これ、なんぼでもやれそう」
おお、アーリィさんの活躍にはミオさんという子のお力があるようです。どなたでしょうか。
あ、この人でしょうか。アーリィさんに向かってお祈りをされている女の子がいます。ミィリアさんと同じくらいの年頃でしょうか。深緑のおかっぱの子なんですが、祈るといっても手を合わせるんじゃないんですよ。こちらもゆっくりとした舞いを踊るような感じですね。みんなに守られながらそうしています。
アーリィさん、ミオさんのお祈りってどんな効果があるんでしょうか。
「力が湧いてくるっていうか、疲れを感じさせないんやわ。それに相手の動きがゆったりして見れるんよ」
ホーリーさん、これは……。
「この戦いのエネルギーをコントロールするタオって魔術法ね。仲間を強化して敵を弱体化させる。特にこういう乱戦時にエネルギーコントローラーとしてタオがいると強いのよね」
なるほど。攻撃支援のようです。それでこの嵐のような乱戦にも門出メンバーは一歩も引かず戦いができているというわけですね。これは心強い。
「よーっし、もう一発いっくよー!!」
おおっと、ここでミィリアさんの地揺らしの一撃が来ました。わわわ、ゆ、揺れる……。遠くで見ている時とは全然違うパワーです。そのまま立ってるのは、む、無理!
しかし、見送りメンバーも同じ手は食わないっ。私はすっごく格好悪く転んでしまいましたが、見送りメンバーのほとんどが跳躍して回避してます。
「はい、いっちょーあがり!」
おっとこの声は……!?
逆光からは綺麗に切りそろえられた長い黒髪が円弧を描いている姿が見えますが、その影を中心に、大きく衝撃波のようなものを放ちました。跳躍した見送りメンバーはそろって直撃を受けて吹き飛びました。日の光さえ遮るような乱戦状態だったのが、一掃されてしまいました。
着地したのは、アーリィさんによく似た服ですが、こちらは深緑が印象的な衣装で脚の露出は少な目です。長くきれいな黒髪を隠す黒塗り笠に長い棒という出で立ちです。棒術使いですね。
「よおーっし、このまま突撃ーっ」
見た目はおしとやかな感じですが、性格はかなり直情的な感じのようです。
「メイちゃーん、まってぇぇ」
ミオちゃんが呼んでますよーっ。ああでも聞いていないようです。ミオちゃんは戦闘支援タイプなので仲間が飛び出すと不利になってしまいますからね。できれば全員で突破したいところ。
おっとそんなメイさんに立ちはだかる人がいます。
「あらまあ、友達捨てていくとはうちの娘とは思えないね」
「げっ、お母さん……」
おお、親子対決です。お母様の方は棒ではなく、……巨大な筆のようなものが武器のようです。
距離を取るお二人。メイさんの後ろからは仲間たちが追いかけてきます。そうなると不利なのはお母様の方だから……やっぱりお母様が先に動き出しました。
鋭い突き!
メイさん、それを棒で受け止めますっ。が、しかし、筆の先の部分がその衝撃でしなりメイさんの顔にヒットぉ。顔が真っ黒です。
「わぷっ」
「もう一年やり直して来ぃ」
そのまま棒を押し下げて、ガードを崩されたところに回し蹴りがクリーンヒットぉ!
「やだ、絶対にこんなところで負けてなるもんか!」
メイさんが負けていない。立ち上がったがお母様は追撃の姿勢。
大上段からの筆の一撃がとんできますっ。
「危ないっ」
「!」
なんとメイさんの前に別の女の子が立ちはだかり、その一撃を受け止めました。
「なんで……」
「メイちゃん、外に出たいってずっと言ってたもん……その姿を見て私も頑張ろうって決めたんだから。私もう一年頑張るから……先に行って、頑張ろうって思える活躍、して、ね」
仲の良いお友達なのでしょうか。そう言い残すとそのまま崩れ落ちてしまいました。
「そう言うなら、先にこの阿呆、止めるべきやったな」
「なんだとーっ」
怒りに任せてメイさんが飛び起き反撃しますが、難なくかわして次々攻撃を浴びせかけます。
「今行くからっ」
メイさんは直情的ながらも人気があるのでしょうか。後ろから追いついた仲間たちがここで加勢。一気にメイさんが有利に……ならない。加勢した門出メンバーを次々叩き伏せていきます!! お母様の強さ、とんでもありません。筆の一振りで3人が視界を奪われ全然違う方向に走っていきます。そしてそのまま転んだりしてしまいます。筆の先を受け止めても飛沫が飛んだり、棒の部分が止められなかったりと、意外と武器としての存在感を感じます。
あっ、ここでミィリアさんも足払いを受けました。
「なんや、今年の連中は骨ないな」
「ふわ……わわわ」
半泣きのミィリアさん、これは確かに恐怖です。ここで大きく筆を振りかぶって、これはメイさんの二の舞か。
「さて……どうかな」
その言葉と共に風が、吹きました。
女の子たちの髪の毛がその風ふわりと舞うのが見えるくらい、時間がゆっくり流れているように感じます。
そして、あーっと! メイさんのお母様の筆が手元から零れ落ちましたーっ!!! まともに誰も捌けなかった筆が、一刀両断です!!
これをしたのは後ろの方……門出メンバーの集団の半ばにいる白い狩衣に袴の女性ですね。刀をちょうど仕舞っているところが見えます……ってこの距離、刀身の長さの3倍以上あるんですけどっ。
「わお、今年は豊作ね。刀の風圧だけで切ったのよ」
ほ、ホーリーさん、そんなの三国でもなかなかいないのでは。
「そうね。サシの勝負でなら、まともに勝てる相手いないかも」
なんということでしょう。大型ルーキーさんがいらっしゃるようです。
「はん、マリータかい」
「メイリア様……次は腕一本もらい受ける」
怖い! これはもう門出とかお祭りではなく、完全に殺し合いの世界です。空気が全然違います。
「天狗になってんじゃないよ!」
おっとここで見送りメンバーも乱戦を止めて整列します。これはもしかして……。
「本気にさせちゃったねぇ。みんなお祝いムードで手加減してたけど、マリータちゃんとみんなやり合いたいって気持ちあったのか、それとも意外にいいメンバーだから、力試ししたくなったのか。まあ心変わりしちゃったみたいだから、今回は一波乱ありそう!」
ホーリーさんもワクワクしてますけど……大丈夫なのかしら。
「今年は全員旅立ちは諦めな」
お母様の号令と共に、3人が一斉に進みます。対抗してアーリィさん、メイさんが前に出ます。おっと、アーリィさんが転んだ!?
違います、糸が張ってます! アーリィさんの脛に真っすぐ横に血線が浮かびます。
「これは……糸。くっ」
アーリィさんが不自然な立ち方をしています。糸、そう見えない糸に縛り上げられています。
「糸使いか……」
マリータさんの刀が鞘から引き抜かれ……おっとここで正面から進んでいた見送りメンバーの一人がマリータの懐に飛び込みました。抜刀を鉄の籠手で制します。そのまま抑え込みながら、門出メンバーの攻撃を避ける、避ける、避ける。マリータさんの拳もミィリアさんの槌も軽くいなします。
「ミオちゃん、アーリィさんに力を注いで!」
「え、でも」
おっとここで二つくくりの女の子がミオさんに指示を出しました。独特な衣装の多いシェーラニタイですが、彼女はどちらかというと普通の服ですね。淡い黄色のワンピースにパステルグリーンのタイツです。武器は見当たりませんがミオさんと同門の戦闘支援型の魔術師でしょうか。
「わかった!」
「アーリィさん、糸は右巻きだから逆回転して!」
「なるほど、こうやね」
ほどけた。すごい。身動きできなさそうなあの糸の縛りが一瞬でほどけました。その間に女の子は籠手でマリータさんをけん制している相手に近づいて、両手で手を突き出すと光の壁が現れました。一瞬だけですけど。これで相手を吹き飛ばしてしまいました。物理攻撃は次々避けていた籠手の人も壁がまるまる発生するとどうにもならないようで、吹き飛ばされました。
「千陽ちゃん! すごい!!」
「まだまだ続くから、前見よっ」
千陽さんは明るく声掛けするタイプですね。一気に門出メンバーの士気が盛り上がってきました。
「でやぁぁぁぁっ」
一番乗ったのはやっぱり一本槍のメイさん。鋭い棒の連撃で糸使いさんを圧倒。それを巧みによけて……おおっと棒を糸でからめとられていきます。これはメイさん、ピンチ!
「絶対、負けられない!!!」
気炎を吐いて、メイさんはがそのまま大きく棒を振りかぶると糸使いさんが一緒に持ち上げられました。
「いけーっ、メイちゃーん!!!」
応援を受けるとメイさんがそのまま糸使いさんを持ち上げ、吹き飛ばしてしまいました。応援にどんどん乗っていくタイプなんですね。これはみんな応援したくなる気持ちがわかります。
「なんて、ね」
くるりと糸使いさんが着地しました。こちらもさすがの手練れですねー。
あっ、メイさんの棒が細切れになってます。糸によって切断された模様です。アーリィさん、よく足を怪我するだけで済みましたね。
「手加減してるのよ。本気の殺し合いなんかした日には、行き先は外の世界じゃなくて冥土になっちゃうから」
あんなに厳しいことを言いながらも、ちゃんと手加減はしてるんですね。
それにしても大人数の攻撃にも歩をとどめることのなかった門出メンバーですが、ここでとうとう足が止まってしまいました。
「千陽ちゃん、どうしよう……」
「私が囮になる……全力で結界を張れば、走って境界まで逃げ切れるくらいの距離は稼げると思うから」
ああっと、千陽さんも悲壮な決意をしました。こうしてどんどん脱落者が出るんですね。
「ダメだよ。千陽ちゃん、本当の家族を探すんだってずっと言ってたのに」
「1年待ったくらいで遅くないから」
「もうそう言って2年経つの知ってるから」
ミオさんが懸命に千陽さんを引き留めにかかります。ですが見送りメンバーはそんなに待ってくれそうもありません。少しずつ距離を縮め始めてますよ。
「ここで一人で食い止めれば、みんなの夢が叶うんだよ。みんなが旅に出れば、私の家族きっと探し出してくれるって信じてる」
千陽さんの努めて明るい笑顔にみんな言葉が詰まります。
「それじゃあ、行くよ」
先程の籠手使いさんを吹き飛ばした結界を展開しました。大きい。先程は1mくらいだったものですが、今度は2m四方はあります。
「……私が興味あるのは、力だ。逃げてどこかに行くことでは、ないからな。ファリンも同じだろう?」
「そうですね。こんなに泣ける話の後で、それじゃあお先になんて言えません。」
おおっと。誰も移動を開始しません。むしろ千陽さんを守るように前に出たのはマリータさんと、青龍刀を持った青いバトルドレスの女の子ファリンさんですね。
「何してるんですか、はやく!」
「千陽ちゃん。みんなも同じ気持ちなんだ」
メイさんも前に出ます。そして突撃開始っ。今度は歩調もぴったりです。
なんとも雄々しい背中です。ファリンさんかまず籠手使いさんに鋭い一撃で籠手をはじき上げます。
「その道、譲っていただきます!」
「実力で通りなさいな!」
「じゃあ通るっ!!」
籠手使いさん、続く連撃を避けていきますが、そこにメイさんの弾丸のような突撃アタックに吹き飛ばされます。
他方、糸使いさんの前にはアーリィさんが激しい乱舞のような舞で、襲い掛かる糸を次々切り裂いていきます。
「こんなもんで止めよう思う方が間違いですわ」
「いつまでその気力がもつのやら」
「気力が切れる前にあんさんが持ちまへんえ」
糸が一斉に吹き上がり、アーリィさんを捕らえようとしますが、これは間一髪で宙返りして回避します。そのアーリィさんの代わりに前に出るのは、ずっと力をため続けていたミィリアさんだーっ!!!
「いっちゃうぞー♪」
絡まった糸ごと、引きちぎる勢いでフルスイングー!
糸使いさん、ものすごい勢いで吹き飛んだー!!!
これで残るはメイさんのお母様メイリア様だけとなりました。そんなメイリア様と対峙するのは、今期一番期待される剣の天才マリータさんです。しかもメイリア様には得物の筆はもう切り落とされていますので、これはマリータさんが圧倒的有利ですね。
「参る……」
マリータさんの攻撃です。刀を引き抜くと同時に、ものすごい剣風が吹き乱れます。
しかし、髪の毛と服の裾が少し切れただけで、メイリア様は間合いに入りました。太刀筋を完全に読んでいたようです。
「不意打ちならともかく、正面からなら読めんもんでもないわ」
そのまま刀を突き出した姿勢に潜り込んでボディブロー。メイリア様素手でも強いっ。っこうえぐい音が響きましたが、これって肋骨折れてませんか!?
「細いな」
そして刀を奪い取りました。まさか刀も使えるんですか……ホーリーさん。
「専門じゃないだろうけど、なんでも使える人はそこそこいるよ。あたしなんか武器ない時、シュロの葉を硬化させて剣代わりにしたことあったし」
手にできるもの全部武器にできるんですか。さすがです。
っと、マリータさんも負けていないっ。腰に忍ばせていた短刀を引き出して、腕を切りつけました。
「マリータさん、今回復します」
ここでミオさんが後ろから支援。傷を回復させつつ、千陽さんが防御結界でメイリア様の攻撃をいなします。
「そんなもん何度も通用せんわっ」
「きゃっ」
刀で結界が粉々になりました。これはすごい。自分の得物でなくても魔法結界を打ち破ってしまうのはそうとうな胆力ですね。
マリータさんピンチです。
「そうはいかないかんね!」
ここで二人の間に割って入ったのは、ショートカットの女の子です。ホットパンツから伸びる健康的な足が眩しいっ。そしてその足でけり上げるのはメイリア様とマリータさんの刀。それぞれを巧みな蹴りで別々に打ち上げたっ。
「ティキ、参上!」
「あー、ティキ! 遅刻だよ!!」
メイさんのお知り合いのようです。メイさん、本当に顔が広い印象ですね。
「緊張してたからちょっとランニングしてたら始まってて……ご、ごめん」
「ティキさんはすぐ体を動かしたくなりますからね。少しは座禅をしましょう」
ファリンさんからも忠告が飛ぶ始末で大層情けなさそうですが、いやでもメイリア様から剣を蹴り上げたあの足さばきはただ者じゃないですよ。
「さて、お母さん。もう残ってるのはお母さん一人だからね。全員でぶち抜いていくからね」
「はっ、ガキどもが言うわ」
と言いながらも、ここまで徹底的にやり合えたメイリア様もすっきりした表情。諦めもついたようですね。
それでも最後まで見送りメンバーとしてやり合うようで、まだ戦う姿勢を崩しません。
「全員に忘れられん一撃加えてやるからな」
「みんな、いくよーっ」
突撃ーっ。
●
「最後の一撃本当に痛いです……」
ファリンさんが一番大きなたんこぶになってますね。
それにしても皆さま、旅立ちおめでとうございます。
「ありがとう」
「えへへっ」
「お言葉に感謝いたします」
結局旅立ちできたのはマリータさん、ファリンさん、メイさん、ミィリアさん、千陽さん、ミオさん、ティキさん、アーリィさんの8人です。
「外に出られなかったみんなの分まで活躍しないとね」
それでは皆さんの抱負をお聞かせ願ってもいいですか?
「強い敵と戦う。それからもうこんな傷は受けないということだ」
マリータさんのストイックさが伝わる一言ですね。ファリンさんはどうでしょう。
「私はまだマリータさんほど強くありません。色んなものを吸収して私だけの武術を極めるつもりです」
ファリンさんが新たな武術を開かれるかもしれないんですね。楽しみです。
「私は友達いっぱい作りたいな。それで色んなところに行きたい」
メイさん、シェーラニタイでも友達多かったので納得です。きっと各地にシェーラニタイの先輩と出会えるかもですね。
「ミィリアは色んなものが作りたいの。そのお勉強をしたいの」
おお、槌は実は鍛冶道具からの転用だったのですね。可愛いアクセサリーたくさんのミィリアさんには色んなものを作ってくれそうです。
「私は、家族を探したくて……」
千陽さんは門出レースでもそんなお話がありましたね。ご家族が見つかりますようにお祈りしていますっ。
「私はたくさんの人を助けるお手伝いがしてくて、その」
ミオさんらしい言葉です。レースでも支援でたくさんの機会を作ったので、きっとすごいお手伝いができると思いますよ!
「あたしはご飯食べたい」
ティキさんはマイペースですね……。是非全国の食い倒れを果たしていってください!
「シェーラニタイの面々はなんや言うても、みんな強くなることに貪欲なんよ。うちはこの舞で天下見たいなぁ思うとります」
アーリィさんの艶っぽさは私でもドキドキしてしまいますからね。きっと素敵な舞手になると思います。舞台があれば見に行きますね。
皆さん、ありがとうございました。
それでは解説役であり、皆さんの大先輩であるホーリーさんから一言、お願いします。
「ここからは自由と責任がつきまとうからね。何をしても良い分、何をするかは自分が決めなきゃならない。みんな志があるから外に出たんだから、その気持ち。見送ってくれた人たちの気持ち、庇ってくれた仲間のこと、胸にとどめておいてね」
「「はいっ」」
ありがとうございました。
最初はなんて無茶苦茶な祭りだって思いましたけど、みんな全力だからこそ、外に出てもその思いを胸にして活躍できるのかもしれませんね。
私も皆さんの事本当に応援しています。
あらためておめでとうございます。そして、行ってらっしゃいませ!
門出お祝いレース、レポートはタニアでした。
<挿絵:花咲まひる様>




