決意の代償
「よく来た。いやなに、大したことは無いよ。ただ二人の意見を聞きたくてね。」
玉座に向かい敬意のポーズを示す二人に、皇子は微笑む。
その陰に見え隠れする不安と焦燥を、マーシャは感じ取っていた。
「三度、私の代で王制を廃止しようと思う旨を父上に伝えた。しかし…」
「却下されたのですね。」
「ああ、一切取り合ってくれないのだ。」
話の筋が見えない、マーシャはこっそりとロイアロイに目配せした。
「ロイヤル、話の筋が見えないのですが。」
「ああ、マティ。実はな…。」
ロイアロイの話を要約すると…
複雑な事情があって恋愛結婚が出来ないので、王制を廃止しようとしている。
本当の心棒者ならば、民に愛が有るならば、皇子ではない自分と運命を共にしてくれるであろう。
という事であった。
マーシャは脱力した。
―指導者という体裁の無いプレアデスに、どんな混乱がやって来るのかを想定した言葉なのだろうか。
しかし、この姿勢が皇子の全てを物語っていた。
―確かに彼は王には向いていない、そんな彼が王制を維持する未来は到底想像が出来ない。
「マーシャ、君の意見を仰ぎたい。」
「正直に言っても良いのよ、マーシャ。」
「子ども達の未来の為にも良い事だとは思わないか?」
「…皇子、御言葉ですが。」
一瞬ためらったが、嘘を伝える訳にもいかないと覚悟を決めたマーシャ。
思いの丈を、出来るだけ失礼の無い様に伝えた。
「…アルクトゥルスならまだしも、こちらは多文化の星。せめて形だけでも統率する者が居ることは大きな役割を果たすと思います。」
「ほう。」
「それに、先代王が無くなられてから改めて御結婚されても遅くないのでは?」
「それでは駄目なんだ、遅すぎる。あまりに結婚が遅いと、無理やり見知らぬ女性と結婚させられる。」
「お見合い結婚ですね。そんなにロイヤルと結婚したいなら、今すぐにでもすればよろしいではありませんか。彼女とならば、恐らく反対する民は誰一人として居ませんよ。」
「彼女は平民の出だ。王族、貴族連中に暗殺されるかもしれない。」
「何のための兵団ですか、もっと信頼してください。」
「裏切り者が居るかもしれない…」
「…はぁ、そこまで仰るのならば仕方がありません。ロイヤル、君はどう思う?」
ロイアロイの顔が真っ赤だ、彼女は皇子と両想いである事を知らなかった。
「恋愛結婚は自由の象徴である」という彼の言葉の裏にある真の意味を知らなかったのだ。
「あっ…えっ・・・うおぉ…」
走り去ってしまった。
「おおおおおおおおっ!?」
廊下に響く彼女の雄叫びが、扉を閉ざした部屋にも響く。
大きな大きな溜め息が、彼女を見送った反対方向から聞こえてきた。
「もういい、君に訊いたのが間違いだった。帰りなさい、そして二度と私の前に現れない様に。」
「な、何故…」
―あっ…
皇子は意見ではなく同情が欲しかったのだと、たった今マーシャは察した。
「それでは、失礼いたします。」
何とも遣り切れない気持ちで、マーシャは城を後にした。