紅い悪魔と蒼い天使
「そこまで!おい、誰かその子を医務室まで運んでやってくれ。」
「じゃあ、私が...」
「よし。頼んだぞ。」
クロード教諭は地べたに横たわるナナを生徒に任せ、ミネルヴァに近づいた。
「なかなかいい試合だったぞ。」
といたずらに笑みを浮かべる。
「茶化さないでください。確かに結果的には勝ちましたが...」といいつつ、ミネルヴァはナナが殴った地面を見る。
地面は爆発でも起こったが如く抉れており、その威力は計り知れなかった。
「最後に手を抜かれるなんて屈辱です!」
「だが、もしあの威力で攻撃されていたら君も無事では済まなかったはずだよ?」
「だからです!つまり、私が一撃を受けた段階で負けていた、ということです!!あの子があの時、本気を出していたらっ...自分の油断が腹立たしいですわ!あまりにも情けなく逃げ回るものだからっ!!...つっ!いえ、言い訳です。...先生、あの子をご存じで?」
「あぁ、あれはクロウの召喚者だ。試験ではあの地面と同じように実技室の壁も殴り壊してくれたよ。」
とクロード教諭は笑う。
「笑い事なのですか、それは?にして、あの変人の召喚者...ですか。なるほど、ではまた戦える機会もありますね。次は油断しません。」
「あぁ、ぜひそうしてくれ。次も楽しみにしている。」
またもクロードは楽しそうに笑う。
(「だが、あれほどの威力だというのに、それらしい魔力を一切感じなかった。試験の時は魔法防壁のせいかと思っていたが...一体、どうなってるのか」)
※ ※ ※ ※ ※
軟らかい感触が全身を包んでいた。
「...んん、お布団だ...」
ナナは自分が布団にくるまっていることに気づく。そうと分かれば次のセリフは決まっている。
「あと5分~...」
「あのぉ~...、大丈夫?」
お決まりのセリフに全く知らない声が返事をした。それに対してナナは
「むにゃ、むにゃ...すぅ」
二度寝した。
※ ※ ※ ※ ※
ナナは再び目を覚ますと、
「んん~...あと5分~...」
3度寝に突入する。
「待って待って!おんなじ事言ってからもう1時間経ってるよぉ...怪我、大丈夫なら起きてほしいな」
と声を聞き、目を開ける。
薄い水色の髪をふわふわにウェーブさせた女の子がこちらを心配そうに見ていた。
「どちら様でいらっしゃいますですかです?」
「ちょっと寝ぼけてるみたいだけど、身体は大丈夫そうかな、良かった。私はシルフィーナ、シルフィーナ=ディンゼルです。あなたは?」
とシルフィーナは微笑みながら自己紹介した。
「んん~、ふぁあ...んっ!」
さすがに寝たままは失礼と気づき、ナナはようやく身体を起こす。
「私は七瀬奈々菜、え~と、つい最近こっちに来ました!...私、何でこんなところで幸せ気分を味わって...はっ、紅い悪魔!!」
と、焦って辺りを見回す...いない。
「ななせなななな...な?えと、ななななちゃんは試合の後、気を失っちゃって...ここは医務室だよ。まだ痛む?先生、居なかったから、私がヒールをかけたんだけど...」
「...私の名前ってそんなに言いにくい?ナナでいいよ、シルちゃん。じゃあシルちゃんがここまで運んでくれたの!?わぁ、ありがと!重かったでしょ?身体、痛くないのもそのヒール?のおかげ?これも、ありがと!」
「ふふっ、どういたしまして」
シルフィーナは恥ずかしそうに微笑んだ。
「天使だ...」
この世界に来てから、ちびっこ発明家に動く骸骨、紅い悪魔と散々な出会いの連続だったゆえに優しさが染みる。
「はっ..そうだ!あのっ、ちびっこ発明家め!直接、文句言わなきゃ気が済まないよ!!」
そう言うと勢いよく立ち上がる。
「シルちゃん!研究室ってここからどっち?」
「えと...出て左側...」
「ありがと!!」
ナナは医務室から飛び出して行った。
「あっ!ナナちゃん...聞きたいことが...早い...」
すでにナナの姿は見えなかった。
「...また、会えるよね?」
シルフィーナは寂しそうに髪の先をいじった。