魔法ってすごい!
「静かだなぁ」
ナナは呟く。クロウが今は講義中と言っていたが、そのせいだろう。廊下を歩く人影は見当たらない。
「授業、くーちゃんは出なくていいのかな?サボりはいけないんだよぉ~、帰ったらお説教しなくちゃ!...それにしても広いなぁっ!ここが食堂でぇ~、こっちが講義室ね」
中から小さく声が聞こえる。
「授業...うっ、拒否反応が。退散、退散♪え~と、それからこっちが実技室!何部屋かあるのね。壁を壊しちゃったけど、他にも使える部屋があるなら安心!良かった、良かった♪」
とはいえ壁を壊してしまった手前、長居するのも心苦しいのでここも手短に退散することにした。
「さてと、次は~」
『どーんっ!!』
「えっ、何っ!?」
突如、轟音が静寂を乱した。
「え~と、こっちかな?」
ナナは音がしたであろう方を目指して歩き始めた。なぜなら...
「音がしたら、気になるじゃん?」
単純である。
※ ※ ※ ※ ※
ナナは塀の陰に隠れていた。そ~っと頭を出し、石造りの塀の上から向こう側を見る。
そこは広場になっており、塀に沿って丸い形状をしている。その広場で生徒とおぼしき2人が対面している。それを取り囲むように他の生徒たち。
『ブラスト!!』
「はっ...せいっ!」
片方の生徒の手から光の弾が発射される。それを避けたもう一方が間合いを詰め剣で切りかかる。
光の弾を放った生徒はかろうじてそれをかわすと、2弾目、3弾目と発射する。
だが剣士はそれもかわし、徐々に追い詰めていく。そして魔法使いの腹に一撃。
「そこまで!」
男性、おそらく教師だろう、が声をかけると剣士は構えを緩める。
ナナはその様子を見て、「おぉ~、すごいすごい!でもあっちの子、死んじゃったんじゃない?」と心配するが、魔法使いはよろよろと立ち上がる。どうやら本当の剣ではなかったらしい。
「おっ、立ち上がった!無事みたい、良かった♪こんな派手な実習もあるんだね!魔法ってすごい、すごい!」
初めてみる本物の魔法、それに対抗して倒してしまった剣士の姿にナナは興奮を隠しきれない。
そう、隠しきれないばっかりに
「そこの君、出てきなさい」
男性の声がした。
ナナはびくっと反応すると恐る恐る様子を伺う。こっちを見ていた、完全に。
「あ~、ごめんなさい、つい」
「君は、クロウの...」「あっ!」
見覚えがあると思ったら埃まみれにしてしまった男性教諭だ。
「そこで何をしていたんだね?」
「つい、珍しくて見学を...」
「見学...なるほど...じゃあせっかくだ、体験もしてみるかい?」
「へ?えっ!?」
「魔法障壁を張った壁を壊すほどの実力だ。問題ないだろう。ミネルヴァ!相手を頼むぞ!」
「はい!」
広場に女性徒の声が響く。
さきほど魔法使いを倒した女性徒だ。紅い髪を腰ほどに伸ばし、その髪の色に負けないほど輝く紅い瞳でナナを見る。
「よろしく」
「えと...まじ?」
「では...始め」
男性教諭は慈悲なく叫ぶ
『フレイム!』
ナナの眼前に火球が迫る。
「あ、死んだかも」