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ありがとう、魔法ペン

お兄様どん引きの回まで進めませんでした。

これくらいではお兄様は引いたりしないようです。

そしてそれから二日後の午後。

ベルヴィアはもの凄い勢いで、小説をノートに書きなぐっていた。

幼馴染のケビンルートのシナリオを、小説へと変換しているのだ。


「ぐおおおおおおお!!」


時々奇声を発しながら、魔法ペンを握った手を動かし続けていく、ベルヴィア。


ちなみに魔法ペンには修正機能がついていて、書くのに失敗したら簡単に書き直しが出来る仕組みとなっている。

重さも軽くて、色も指定できる為、この世界では無くてはならない、便利アイテムの一つだ。


「ああもうーーーふざけんなーーーーーー!!ぎゃおーーーーー!!」


心配したメイドたちが、部屋へと何度もお茶やお菓子を運んで声をかけているのだが、ベルヴィアには殆ど聞こえていなかった。


「お嬢様、少しお休みされてはいかがですか? お茶とお菓子をご用意い致しました」


メイドが話しかけると、丁度タイミングが良かったため、返事だけは何とかする事ができた。


「後でもらうから! 今、それどこじゃないの!!

 もうっ!! またベルヴィアがフィーナいじめてるの!!

 早くこんなシーン書き終えたい!!」


ベルヴィアが小説を書いているらしいという事は、既に屋敷中の人間が把握していた。

その為、メイドたちはベルヴィアのおかしな独り言や奇声を聞いても、一応、知らんぷりをする事になっていた。

だが、時々『ベルヴィアしねーーーー!!』などと叫んでいたりもするので、その内容がどんなものなのか、皆、好奇はどうしても隠しきれない。


「頑張って下さいませ、お嬢様。わたくしたち使用人一同、お嬢様の作品が完成するのを楽しみに待っておりますから」


メイドはお辞儀をすると、微笑みを残して去って行った。


だが、もちろんベルヴィアは、そんな事には欠片も気づかない。


「うぎゃーーーーーー!! ベルヴィア!! 超ムカつくーーーー!!!」


なお奇声を発するベルヴィア。

前世でも、彼女はベルヴィアの登場するシーンは鬼のような形相で、二次創作を書いていた。

今は体が六歳の子供なので、余計に感情がセーブ出来ずに、とうとう声まで発するようになってしまったのだ。


そこへ、今度はアレックスがやって来た。


「ベル、身体壊すよ」


アレックスはベルヴィアの肩を叩き、ビクッとして動きを止めたベルヴィアから、素早く魔法ペンを取り上げた。


「お兄様!!」


ベルヴィアの目の下にはくっきりと隈が浮かんでいた。

六歳の少女には相応しくない、アニメやマンガに登場する、原稿に追われた作家みたいな形相だ。


「ベル、物凄く字が上手くなってるよね。これだけでも驚くしかない」


アレックスはノートを覗き込んで言った。


「ちょっと先に読ませて貰ってもいいかな?」


今度はベルヴィアからノートを取り上げる。


「今、聖夜祭のイベントまで書いた所なの。後はバレンタインと卒業式で、ケビンの分のシナリオは完成するから!!」


ぜーはーと、ベルヴィアは息を切らせている。


「うん、頑張ってるね。偉い偉い。だけどね、いくらなんでも熱中しすぎ」


そう言ってアレックスは、光魔法のヒールをベルヴィアにかけた。


「あ、スゴイ!! 身体が元気になった!! こういう時にも回復魔法って効くのね!!」


疲労はもちろん、肩こり、腰痛、腱鞘炎。

全ての症状が治まってしまった。


「いや、ヒールが効くくらい、お前みたいな小さな女の子が無理とかしちゃいけないから」


「ええええ!? お兄様が書けって言ったのにーーーー!!」


ベルヴィアはぶーーっと膨れる。


「僕は、睡眠時間を削ってまでお前が小説を書いてるって、知らなかったんだよ。

 ちょっとばかり、今回の件に必要な道具を揃えに、王都でへ行って来たから」


ランバート公爵家の領地から王都に行って帰って来るには、往復で約二日かかる。

ベルヴィアからの相談を受けたすぐ後に、アレックスはランバート家の敏腕執事をお供に、王都での滞在時間を含め、約三日かけて必要な材料を揃えて来たのだ。


ちなみにこの世界には魔法陣を使った転移魔法という便利なものもあるが、緊急の場合にしか使え無いように、国で使用制限が設定されていた。


「お兄様、いつの間に!?」


「いや、ベルが小説を書いている間にだけど。行って来るっていったけど、返事が無かったから、そのまま出かけた」


「うう…お兄様に『いってらっしゃい』がしたかった…」


ベルヴィアは項垂れる。


「ベル、お前、夕食も夜食で済ませてたんだって?

 規則正しい生活をしてないから、僕が王都に行っていた事にも気が付かなかったんだよ」


公爵夫妻は、三日続けて娘が部屋に閉じこもっていたためかなり心配していたが、今は一生懸命小説を書いているのだとアレックスやメイドたちから聞いていたため、陰からそっと見守っていた。


何しろ、飽きっぽくて気まぐれな娘が、話しかけても返事が無い程、夢中になって書き続けているのだ。


子供の書くものなどたかが知れているが、どんな出来でも褒めてあげようと、そう両親が話している事などベルヴィアは知らなかった。


「これは今、僕が先に読ませてもらうから。その間、お前はそこに用意してあるお茶とお菓子を食べて待ってるんだよ」


アレックスは応接セットのソファーへとベルヴィアを促すと、その向かい側へと腰かけて、文字のぎっしり詰まった、分厚いノートのページをめくり始めた。


そして、ベルヴィアがお茶を飲みつつクッキーやマドレーヌを堪能していると、いつの間にかアレックスはベルヴィアの書いた分を読み終えたようだ。


その量にして、日本のラノベに例えると、文庫本約一冊分といった所だろうか。


たった三日の間に、手書きでこれだけの量を書きあげたベルヴィアの執念には、かなり恐ろしいものがあった。


「物凄い勢いで書いてたたけど、うん、字も大人が書いたみたいに綺麗に書けているし、文章も読みやすくていいね」


兄に褒められて、ベルヴィアは舞い上がる。


「ホント!? わたしスゴイ!?」


「うん。内容は原作があるから、ベルが考えた訳じゃないんだけどね。話も恋愛小説として面白く書けているんじゃないかな?」


「『ハルソラ』面白いでしょ!? ね、ね、ね!!」


興奮したベルヴィアは立ち上がり、兄の座っている隣に座り、思いっきり抱き着いた。


「ベル、重いからどいて」


アレックスは容赦なくベルヴィアをぐいっと押して身体を離した。


「ひどいーー!!」


しかしベルヴィアの文句はいつもの事なので、兄は完全にそれを無視する。


「で、ベル。僕はお前がこんなに早く本をかけるとは思っていなかったんだけど、この調子なら、来週のお前の誕生会までには余裕で仕上がりそうな感じだよね、これ」


「うん!! 任せて!!」


ベルヴィアは、えっへん!! と胸を張る。


「無理は良くなかったけど、よく頑張ったな、ベル。

 来週の誕生会にはケビンが参加するだろう?

 その時までに、僕は、王都で買って来た写本用の魔道具にこれを読み取らせて、本格的な本の形に仕上げようと思っている」


「製本するの!? スゴイ!!」


「誰が書いたか分からないように、本格的に魔法具で活字化してね。

 それで、その後父上たちにこれを見せて、許可を貰えたら、ローガン伯爵夫妻に渡そうと思っている」


「お父様たちがコレを読むの!?」


あれだけ派手に騒いで置きながら、ベルヴィアはアレックスにしかノートを見せるつもりはなかった。


「父上と母上にもお前の状況を説明しないとね。

 お前が部屋に籠ったままずっとコレを書いているから、二人とも凄く心配しているよ」


「う…でも、なんか緊張するというか……信じてくれるかな?

 悪質な冗談だとか、妄想だとか、思われないかな?」


頭がおかしくなったと思われてもいいのだと、強い覚悟を決めたはずのベルヴィアだったが、やはり前世のように両親に中二病扱いされてしまう事を想像したら、少々居た堪れない気持ちになった。


奇声を発しながらノートに小説を書いてる時点で既にかなり終わっているのだが、その事にまだベルヴィアは気づいていない。


「いきなり前世の記憶と言われても二人とも戸惑うだろうけれどね。

 この『ハルソラ』の小説を読んだら理解しやすいと思って、父上たちに説明する前に先にこれをベルに書かせたんだよ」


アレックスはベルヴィアが安心するように優しい微笑みを浮かべた。


「お兄様!!」


「大丈夫、僕たちは家族なんだから。父上も母上も、必ずお前の事を受け入れてくれるよ。

 天才すぎる僕の事も受け入れてくれる、柔軟性にあふれた人たちだからね。

 お前の前世くらい軽く受け止めてくれるはずだよ。心配しなくていいから、ね?」


兄の暖かい言葉にベルヴィアは素直に感動する。


家族って、素晴らしい!!


どんどん不安な気持ちが消えて行く。

兄に相談する事にして良かったとベルヴィアは心の底から思う。


それでだけでなく、既にアレックスは、ベルヴィアの為に王都にまで行ってくれたのだ。その事もとても嬉しい。


「お兄様、わたしのために王都まで行ってくれてありがとう!!」


「どういたしまして。さ、もう少し休憩したら、続きを頑張るんだよ。

 夕食の時間になったら迎えに来るからね」


「はい!! わたし、頑張るから!!」


勢いよくベルヴィアは返事をする。


自分を大切に思ってくれる家族の存在が、心の底から愛しく思える。


「あ、そうだ。ベル、来週のお前誕生日パーティだけど、その小説を書き終わったら、母上との特訓がある事を忘れないようにね」


「特訓!?」


アレックスはニヤリと笑う。


「お前のお披露目を兼ねた大事なパーティだからね、挨拶の仕方や、招待客の名前を覚えたり、しっかり母上に見て貰わないといけないよ? ベル、すっかり忘れてたでしょ」


ベルヴィアは真っ青になる。

本気の本気で忘れていたのだ。


「いやーーーーーーーーーーー!!」


そしてベルヴィアは、現実逃避も兼ねて、更に物凄い奇声を上げながら、とんでもない勢いで『ハルソラ』小説のケビンルートを書きあげるのだった。

努力している姿も必要な気がして、執筆中の様子を晒してみました。


次回はベルヴィアの誕生会になるはずです。多分。

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